第8話 サユキvs黒忍者

※前回までのあらすじ。

拙者、悪事を働く『黒い忍者』と相対する。


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「いくつか質問したいでござる。お主、何流でござるか?」


 目の前に立つ『黒い忍者』が答える。


「何流? はあ? 意味不明なんだが」


「師は誰でござるか!! 主君は!!」


「んなもんいねーよ」


「忍者ではないのでござるか?」


「さっきからわけわかんねーこと抜かしてんじゃねえよ」


 黒い忍者がナイフを構えた。


「お前が変な魔法を使って俺の正体を世界中にバラす前に、ぶっ殺す。俺の、忍者スキルレベル35でな」


「忍者スキル!?」


 と、いうことは、彼は本物の忍者ではなく、スキルによって忍者になった紛い物。

 なるほど、通りで師も主君もいないわけだ。


「せ、拙者を差し置いてそんなスキルを手に入れるとは……リリカ殿!!」


「おっけー」


 リリカ殿がドローンの電源を入れる。

 また拙者たちの頭上で滞空し、配信を再開した。


 黒い忍者がギョっとたじろいだ。


「こ、壊れたんじゃなかったのか!?」


「忍法・虚言の術でござる!! これで魔法を使わずとも、お主の悪行はバッチリ全国配信されるでござるよ」


「くっ!!」



:お?


:再開した


:どういう状況?


:なおった



「先手必勝でござる!! 結界魔法!!」


 拙者たちの周囲を青白い結界が覆う。

 これで、彼はもう逃げられない。


「さあ、観念するでござる」


 あとは拙者のつよつよ忍術で、本物忍者のパワーを思い知らせるまで。


「バカめ、お前を倒せば結界は消える!! そのあとカメラも壊しておさらばだ。スキル発動!! 忍法・影分身!!」


「なぬっ!?」


 黒い忍者が3人に増えた!!

 拙者ですら影分身は使えないのに!!


「さらに忍法・煙幕!!」


 結界内を白い煙が充満していく。

 ま、まずい、このままでは。


「トルネード!! 威力弱め!!」


 風を巻き上げ、煙を晴らす。

 すると、3人の黒忍者は拙者を3方向から囲んでいて、


「火遁・業火の術!!」


 一斉に強力な火を吹いた。

 拙者の火遁忍術よりも威力が凄まじい。


「くっ、バリア!!」


 防御魔法で防ぐものの。


「きゃっ」


 リリカ殿が悲鳴を上げた。

 何故? 炎は拙者を狙っているのに。


 そうか、結界で密閉されている状態での火炎放射によって、結界内の温度が急激に上昇しているんだ。



:なにしてんだ


:リリカにゃん!!


:通報したぞ


:一旦逃げて治安部隊に任せよう


:魔法使え


:せめてマスク外して顔を晒してくれ



「リリカ殿!! 大丈夫でござるか!!」


「う、うんって言いたいとこやけど、熱い……」


「いまなんとかするでござる」


「いや、逆にチャンスや!! 猫化スキル発動!!」


 リリカ殿が猫人間へと変身した。

 熱に耐えながらも、猫特有のダッシュ力で黒忍者のひとりに、横から猫パンチを食らわせる。


「おぉ!!」


「どんなもんにゃ」


 しかしそれは分身であったようで、煙となって消えてしまった。


「なら」


 次を狙うも、また分身。

 しかし、これで残るひとりは本人であることが確定している。


 最後のひとりはまだ拙者に火を吹いている。

 リリカ殿に気づいていないのか?


「喰らえにゃ!!」


 猫パンチは見事直撃!!

 これで勝機が見えてきた……はずだった。


「え、3人目も消えたにゃ!?」


「バカめ!!」


 突如、リリカ殿の背後に黒忍者が出現した。


「変わり身の術だよバーカ!!」


 躊躇いなく、リリカ殿を蹴り飛ばす。


「きゃっ」


「くくく、たまんねえ。こういう、調子に乗った女を忍術で欺いてボコすのはやめらんねえぜ」


 黒忍者はさらにリリカ殿に近づくと、ポケットから財布を抜き取った。


「おぉ〜、さすが有名配信者。高校生のくせにこんなに持ってんのかよ」


「そ、それはリリカ殿のお金でござるよ!!」


「いまから俺のだ」


 こ、こやつなんて酷いことを。

 リリカ殿、頭を打ったようで気を失っている。

 守ると決めていたのに、拙者が、もっとしっかりしていれば。


「次はお前の番だぜ。レベル999だからすぐに始末するつもりだったが、大したことなさそうだな、お前」


「お主、恥ずかしくないのでござるか!! 手に入れた力で、悪事を働いて」


「力を手に入れたから悪いことすんだろうがよ。忍者スキルは攻守ともに優れた最強スキルだ。これで俺は楽して生きていくぜ。金を奪い、欲を満たし、好きなことで生きていく。くぅ〜、気分がいいぜ」


「お主の快楽のために、これまで何人の人間が悲しんできたことか」


「知るかバカ」



:クズが


:サユキどうにかして


:舐めプすなよ


:ぶっ倒せこんなやつ



 わかっている。

 もう、絶対に許さない。


 正直、拙者は意地になっていた。

 忍術で倒すこと。忍者モドキを忍者として倒すこと。

 だから魔法で攻撃していなかった。


 それが、この結果。

 これでは忍者失格だ。


 以前、先生から教わった。

 忍術とはあくまで、忍者が『絶対に任務を遂行し生存する』ために生み出されたものだと。

 つまり、忍者にとって最も大切なのは忍術でも意地でもない、任務と命なのだ。


 ならば、拙者は忍術を捨てる。魔法を使って、絶対にこやつを倒す。

 命を賭してこやつを懲らしめる。そう自分に定めた任務のために。


 魔法で戦うことを、もうためらわない!!


「さあ行くぜ!!」


「いや、すぐに終わらせるでござる」


 スッと、黒忍者を指差す。


「なにをしても無駄だ!! どんな攻撃だろうと変わり身の術で受け流す!! しかも俺にはまだいろんな忍術がーー」


「催眠魔法、ヒプノシス」


「……は? え?」


 黒忍者が顔面からぶっ倒れた。

 虚ろな瞳で、うねうねと身をよじっている。


 いまのうちに、リリカ殿の様子を見よう。


「リリカ殿、大丈夫でござるか?」


「う〜ん、あれ? あの忍者は?」


「あそこでうねうねしているでござる」


「え? な、なんで?」


「催眠魔法で、自分を蛇だと思い込ませたでござるよ」


「……どういうこと?」


 拙者の説明が拙かったのか、リリカ殿は配信のコメント欄を確認しだした。



:一瞬で終わった


:あ、あっけねえ


:攻撃がダメなら状態異常で、ってことかよ……


:催眠も使えたのかよ


:す、隙がねえ


:しょせんスキルレベル35じゃ相手にならないってわけね



「な、なんかサユキ、催眠魔法であいつのこと瞬殺したみたいやな」


「殺してはないでござるよ」


 その後、リリカ殿のお金を奪い返し、治安部隊に黒忍者を受け渡した。

 これにて、『黒い忍者』事件は幕を閉じたわけだ。


 拙者、決めたでござる。大切なのは忍者の魂。

 忍術に拘るのはやめるって。



:にしても魔法も凄いが、あいつの忍術スキルも強かった


:チートだったよな


:ぶっちゃけかっこよかった、忍術


:真っ当にダンジョン配信してたらファンになってたものを


:クズが持つにはもったいないすげースキルだったな、忍術スキル



「って、なんであいつのときだけ忍術を褒めるでござるかーーっ!! 納得できないでござるよーーーーっっ!!」


「ま、まあまあ、登録者25万人に増えたんやし、ええやんけ」


 うぅ、やっぱり拙者も、忍術で褒められたいでござるッッ!!





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※あとがき

全角英数字なのは目が悪い僕自身への配慮です。

許して。


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