第7話 シリアス回かも? 黒忍者の影。

 拙者の朝は早い。

 忍者として、日が登る前に起床し、走り込みの訓練をするのだ。


 3時間ほど走って帰ると、だいたいリリカ殿も目を覚ましている。


「ただいまでござるー」


「んー」


「今日は学校に行かないのでござるよね? 昼からダンジョンでござるか?」


「その前にさ……」


 リリカ殿がスマホの画面を見せてきた。

 何か書いてある。


「最近私のSNSのDMにな、いろいろメッセージが来るんよ」


「えすえぬえすのでーえむ? あ、あぁ!! アレのことでござるね、わかるでござるよ、美味しいでござるよね」


「はいはい。……そん中に、サユキ宛のメッセージもあるんや」


「拙者宛?」


「あんたはSNSやってないから、一緒に暮らしとる私にね。で、その内容ってのが、『黒い忍者について知ってますか?』ていうの」


「黒い忍者でござるか!?」


 拙者以外に忍者がいるだなんて。

 先生だろうか。

 それとも、他の地域に潜んでいた忍者?


「なんでも、ここ埼玉県を中心に、いくつかのダンジョンに現れては女性にセクハラしたり、金品を巻き上げたりしとるんやって。DMを送ってきた人も被害者。サユキは忍者を自称しとるやろ? だから何か知らないかとさ」


「黒い忍者……うーん。心当たりはないでござるなあ」


「そっか、そう返信しとくわ」


 そんな悪いことをしているのなら、先生ではない。

 では誰が? 忍者とは日頃から身を潜めて生きる者、拙者の知らない忍がいたということか?


「悪人を取り締まる、警察的なのはないのでござるか?」


「あるで。未界域治安維持隊ってのが。あるけど捕まっとらんのや」


「なるほど、むむむ〜。これは放って置けないでござるな」


「え、まさかサユキ、解決しようとしとる?」


「当然でござる。しかし、どうやって件の忍者に接触すればよいのやら……」


「え〜、いいよ〜そんな危なっかしいこと。なんにも知らないならそれでええやん」


「しかしでござるな、拙者以外の忍がいるのなら、是非とも会いたいのでござる。悪いことをしているのなら、なおさら」


「……まあ、うまくいけば登録者数アップのチャンスか?」


「それに、もし、リリカ殿が次の被害者になったらと思うと、気が気でないでござるよ。拙者にとってリリカ殿は、大切な恩人でござるから」


「……まったく、恥ずかしいくらいに素直やな、あんたは」


 とはいえ、どう捜したものか。

 待てよ、何年か前に先生から教わったことがある。

 こういうときのための、忍術を。


「リリカ殿、どうか協力してほしいでござる。そのメッセージを送ってきた被害者殿について、少し知りたいでござる」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「リリナイトのみんな〜☆ 今日もダンジョン配信していくで〜☆☆」



:きたああああ


:なにするの?


:今日もサルタか


:化けゴリラもおるやんけ



「よ、よろしくでござる皆の者」


「実はな、私のところに、例の黒い忍者についてのDMが来てな、魔法スキルレベル999のサユキなら見つけられるんちゃうかって。ね、サユキ」


「その通りでござる。黒い忍者、絶対捜し出すでござる!!」



:あ〜


:まだ捕まってなかったんだ


:友達がサイフ取られた


:たしかにサユキちゃんならできるかも


:いいね


「拙者の魔法なら簡単に見つけられるはずでござるよ。まずはこの『サルタ』からはじめるでござる」



:がんばれー


:これは期待


:モンスター狩りじゃなくて忍者狩りか


:がんばれー



 リリカ殿を一瞥する。


「じゃあみんな、ハッシュタグつけてSNSでも応援してなー☆☆ よーし、さっそくレッ……」


 そこで、リリカ殿はワザと配信を終わらせた。

 その上で、『機材トラブルが発生した』とSNSとやらで発言してもらう。

 もちろん、犯人探しは続けることにして。


「ええ感じに拡散されとるわ、サユキ」


 これで罠の設置は完了した。


「よし、ではリリカ殿」


「もー、なんかあったらちゃんと守ってよね」


「もちろんでござる!!」


 適当にフラフラ歩く。

 拙者の作戦通りなら、もうしばらくで黒い忍者は自ら顔を出すはずだ。


「それまで暇でござるなあ」


「ねえ、サユキ。この際だから聞くんやけど」


「なんでござる?」


「どうして忍者になったん? いつから忍者なん?」


「どうして……でござるか。拙者、物心ついたときには両親を亡くして、忍者の先生に育てられたでござるよ。だから、自然と成り行きで」


 先生曰く、拙者の両親も忍者であったらしい。


「嫌やないん? 修業とか辛いんやろ? いまでも毎朝毎晩走り込んどるみたいやし」


「辛いでござるが、それでも忍者は素晴らしい職業でござる。主君のため、正義のため、極めた技で必ず任務を成し遂げる影の存在。くぅ〜、かっこいいでござる!!」


「ほーん」


「でござるから、もし黒い忍者とやらが悪の忍者なら、拙者が本物の忍として成敗するでござる。拙者の忍法で!!」


「魔法使った方が速いと思うで」

 

 などとリリカ殿とお話していると、背後から嫌な気配を感じた。

 明らかな敵意。獣が人間に向けるような警戒心の類であった。


 サッと振り返ると、そこには、


「君らか、例の魔法スキルの子は」


 黒いマスク、黒い服を着た、黒い髪の男性が後ろからやってきた。

 リリカ殿が悲鳴をあげる。


「だったらなんでござるか」


 懐から、刀身まで黒いナイフを取り出してきた。


「配信を見たぞ。他のザコなら放置していたが、お前は生かしておくわけにはいかないようだ」


 リリカ殿と顔を合わせる。

 まさか、こうも早く罠にかかるとは。


 ネットでは、拙者の魔法スキルがヤバいことが広まっているらしい。

 最強無敵、不可能などないチートスキルだと。


 そんな拙者が、本気で犯人探しをすると知れば、放っておくわけにはいかない。


 ましてや、途中で配信が中断され、顔がネットに乗る可能性がなくなったのなら、必ず排除しにくるはず。


 しかも、拙者は今回の配信を、過去の犯行時刻と同じ時間帯に行っている。

 つまり、絶対に犯人が暇な時間にである。


 ならば見る。ネットに触れていれば、絶対に情報が入ってくる。

 なにやらチートを所持している女が、本気で自分を捜していると。


 そして作戦通り、彼は来た。

 これぞ先生から教わった『忍法・誘き出し作戦の術』なのだ。


「リリカ殿、下がっているでござる」


「う、うん。頼んだでサユキ」


 おそらく、こいつが例の『黒い忍者』。

 同じ忍者として、決して負けるわけにはいかない。





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※あとがき

基本的にコメディですが、たまに真面目な話もやります。

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