第6話 ふてくされ忍者、ファンと交流

 いま、拙者とリリカ殿の前にとんでもない妖怪がいる。


 ここは毎度お馴染み洞窟ダンジョン『サルタ』の地下5階。

 とあるフロアにて、拙者の何十倍も大きいドラゴンが、息を荒げて威嚇していた。


「このモンスターを倒さな突破できそうにないなあ。サユキ」


「……」


「サユキー?」


「はいはいでござるよ。……ほれ、全方位ホーリースパーク」


 ドラゴンの周囲に魔法陣が出現し、全方位から極太の光のビームを発射した。

 ドラゴン、即死である。



:うおおおおお


:全方位ホーリースパーク!?


:オーバーキルやんけ!!


:瞬殺で草


:チートすぎるって!!


:ドラゴンも地獄で泣いとるで



「やったやん、サユキ」


「そうでござるなー」


 魔法で倒し、魔法で賞賛されたってなんにも嬉しくないですけれども。

 だって、拙者は忍者だから。


「今日はこの辺にしとこか。さっき発見したマーキングアイテムを使えば、またここから再開できるわけやし」


「へいへい、でござる」


 今日のダンジョン攻略を終えて、拙者はリリカ殿と帰路についていた。


「なーにいじけとんねん」


「だって」


「そもそも、大した忍術も使えんのに忍術をアピールしようってのが無理なんとちゃう?」


「うぐっ!!」


「影分身とかできへんのやろ?」


「で、できないことはないでござる。ただ、影分身はかなりの集中力が必要なだけで」


「へー」


「信じてないでござるな!?」


 うぅ、それもこれも、全部魔法スキルレベル999のせいだ。

 そんな力を手に入れてしまったら、拙者の計画がめちゃくちゃに……。


「なーんで拙者、最強スキルを手に入れてしまったのでござろう」


「さーなー。もしかしたら過去に何かあったんかも。親に聞いてみたら?」


「親はいないでござる。ずっと先生に育てられて……いまさら顔向けできないので、聞きに行けないでござるよ」


「じゃあ謎は謎のままや」


「ふえーん。みんな、そんなに拙者の忍術に興味ないのでござろうか」


「うーん、じゃあ聞いてみる?」


「へ? どうやってでござるか?」


 コメントをする視聴者たちは、みんなネットの向こうの人々。

 近所に住んでいるわけではないはず。


「ふふふ、ダンジョンだけが、配信のすべてじゃないんやで」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「リリナイトのみんなー☆ ダンジョン配信者の〜〜リリカだにゃん♡♡」


 リリカ殿の家の中、パソコンに向かって、リリカ殿が喋り出した。



:きちゃああああ


:にゃん!!


:にゃん!!


:この前の配信みたよー


:にゃん!!


 画面に流れるコメントの数々。

 なるほど、配信するだけならダンジョンじゃなくてもいいわけか。

 しかしリリカ殿、男性相手にこんな媚びを売るような喋り方をして……。


 苦労しているんでござるなあ。


「今日はな、いま話題の新人冒険者、サユキちゃんが来とるんやー!!」


「ど、どうもでござる」



:でたあ!!


:チート化けゴリラ


:舐めプ化けゴリラ


:かわいい


:かわいい



 う、うーん、顔のない相手に向けて話すのは、どうも慣れない。

 ていうか誰が化けゴリラだ!!


「お、『リリナイト@みよすん』さんスパチャありがとー♡♡ 今日はねー、改めてサユキのことを紹介しつつ、いろいろ質問してもらおうと思っとるんや。んじゃさっそく」


 リリカ殿に一瞥され、拙者は口を開いた。


「拙者、猿飛サユキ13歳。忍者でござる。忍術の素晴らしさを広めるために配信をはじめたでござる!!」



:忍者?


:13歳!?


:それマジなの?


:ナルト読んだろ


:忍者て


:忍たま乱太郎見ただろ


:かわいい




「むむむー、本当でござるのに!!」



:なんで魔法スキルのレベルが999なの?


:どうやってチートスキル手に入れたの?



「それがわからないのでござるよ。ダンジョンに踏み入れたら、こうなっていたでござる」



:いつもリリにゃんと一緒にいるね


:リリにゃんと友達になったの?



「あ、リリカ殿となら一緒に暮らしているのでござるよ」



:同棲!?


:一緒に暮らしてる!?!?


:なぜ!?


:百合きたー!!



「ゆり? 百合って花のことでござるか? よくわからないでござるが、百合は好きでござるよ」



:うおおおおお


:【速報】リリにゃん、百合だった


:【悲報】リリにゃん、舐めプ化けゴリラと百合してしまう


:リリサユ流行れ


:てぇてぇなあ



「んー? なんでござるかさっきから。百合……まさか何の暗号?」


 リリカ殿が呆れ気味にため息をついた。


「ま、そんな感じや。別に私らはそういうわけやないんやけどな。百合っていうのは……」


「待つでござる!! 暗号解読も忍者の務め、解明するでござる!! うーん、百合……花……白い花……綺麗な花……わかった!! 百合とはつまり、綺麗な女性たちってことでござるな!!」


「……近からず遠からず」


「皆の衆!! 確かに拙者とリリカ殿は百合でござる!! はっはっは!!」


「ちょっ!!」



:うおおおおおおおお


:百合だああ


:てぇてぇ


:生きててよかった


:【速報】リリサユ、公式が認める


:全国の絵師頼むぞ



 むむむ? 視聴者数なる数字がみるみる上昇しているような。


「リリカ殿!! 百合は人気コンテンツなのでござるな!!」


「えーっと、これ以上誤解が広まる前に、今日はこの辺で」



:はや!!


:はやくない?


:リリにゃん照れてる?


:一緒に寝ているんですか?



「普段は一緒に寝てはないでござるけど、肌寒い夜は同じベッドで寝かせてもらっているでござる」


「あーあーあー!! じゃ、ばいばーい」


 リリカ殿が強制的に配信を終わらせた。

 これから盛りあがろうってときに、もったいない。


 リリカ殿が眉をひそめる。


「もー、変なこと言わんといて」


「え、でも……」


「百合か苦手な人もおるんやから」


「そうでござったか」


「てか、忍術に注目しない理由を聞くんやなかったん?」


「あ!! 忘れてたでござる!! リリカ殿、もう一度配信を!!」


「勝手に百合認定したからダメや」


「そんなああああ!!」


 その夜はちょっと寒かったので、リリカ殿と同じベッドで寝た。

 百合のことはよくわからないけれど、リリカ殿は優しいから大好きだ。




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