第2話 リリカちゃんは優しい

 洞窟の入り口に戻ると、町外れの神殿へ瞬間移動してしまった。

 なんでも、神殿はダンジョンへの『ワープ地点』というやつで、一瞬にして別の空間と行き来できるのだとか。


「ギャル殿、ダンジョン配信はおわりでござるか?」


「なーんか気分じゃないからもうええわ。てか、私の名前はリリカね」


「ではリリカ殿、拙者にダンジョン配信のやり方を教えて欲しいでござる」


「え、なんで」


「拙者、山で育った身。機械のことは詳しくないでござる」


「そもそもあんた何者なん? マジシャン?」


「忍者でござる!! 衰退しつつある忍界を救うため、配信で有名になりたいのでござる!!」


 拙者が人気になれば忍を志す者が増えるかもしれない。


「ははは、忍者なんておるわけないやん。漫画の読みすぎ。外国人やないねんから」


「いるでござる!! ここに!!」


「はいはい。で、家はどこ? 門限は?」


「拙者、忍術学園から抜け出した身。帰るところなどござらん」


「家出? どこに泊まる気?」


「野宿でござる」


「……」


「それほどの覚悟で、山から降りてきたでこざるよ!!」


 お金に困ったら、ダンジョン配信と同じくらい流行っているらしいパパ活? とかいうのをやるつもりだ。

 たくさんお金が稼げるらしい。


「わーった、ウチに来な。配信のことも教えてあげる」


「良いのでござるか!? かたじけない!! でも何で急に?」


「んーなんか、不安や」


「不安でござるか」


「後味悪い思いしとうないし。あんた、名前は?」


「猿飛サユキでござる」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そんなこんなでリリカ殿の家にお邪魔することになった。

 大きなマンションの5階に、リリカ殿の家がある。


「ほえー、マンションとはいつみても立派でござるなー」


「サユキの家はどこにあるん?」


「訳あって忍術学園の場所は言えぬでござる」


「あっそ」


 玄関扉を開けて、リリカ殿がパチっと明かりを点けた。

 この人工的な電気の光り、あまり得意ではない。

 目が痛くなる。


「好きにくつろいでよ。一人暮らしやから」


「一人暮らしでござるか? 地元はどこでござる?」


「兵庫。上京してきたんよ、ひとりで」


「おー!! 拙者みたいでござる!!」


 拙者は山から降りてきただけなのだが。


「私、これでも有名配信者なんよ。スパチャと広告費で口座残高もたんまり」


「ほえー。リリカ殿は何故配信を? あ、わかったでござる。ギャルの素晴らしさを教えるためでござるな?」


「んなもん教えんでもみんな知っとる」


「では……承認欲求というやつでござるか?」


「ちゃうて。承認欲求なんぞ街歩いとればいくらでも満たされるわ。私、かわええから」


 確かに、リリカ殿は美人だ。


「ちょっとした反抗期みたいなもんや。関西の方はダンジョン全然あらへんから、親の反対押し切って上京したねん」


「ほう」


 ダンジョン配信をする理由にはなっていないような。


「ま、座りや」


 とりあえず、適当に床に座る。

 リリカ殿も腰を下ろすと、なにやら小さな機械を見せてきた。

 ダンジョンで、ずっとリリカ殿の頭上を飛んでいたものだ。


「これが自動操縦型ドローン。カメラが付いていて、これで撮影する」


「ほうほう」


「旧式が余ってるからあげるで」


「おお!! ありがたいでござる」


 リリカ殿、やさしい。


「で、なんでダンジョン配信したいんやっけ? お金目的?」


「忍術を披露し、衰退しつつある忍界を盛り上げるためでござる」


「あー、あの手品か」


「忍術でござる!!」


「でもやー、せっかく魔法スキルのレベルが999なんやから、そっちを見せたほうが盛り上がると思うなー」


「嫌でござる。それでは本末転倒でござる。拙者、ダンジョンでは忍術しか使わぬつもりでござるよ」


「もったいなーい。あんね、あんたの魔法スキルレベル999ってのは、全ての系統の魔法を最大限発揮できるってことなのよ。属性攻撃系、バフ系、デバフ系、回復系、防御系、召喚系、その他もろもろ。ぶっちゃけ最強なんよ?」


「そ、そうなのでござるか? 最強……」


 た、確かに、ほーりーすぱーくなんてこと、忍術ではできない。

 でも、決して忍術が魔法より劣るわけではない。

 忍術には忍術の強みがあるのだ!!


 先生に比べたら、拙者はまだまだヒヨッコだけど。


「待てよ? 魔法を忍術ってことにすればいいのでは?」


「え、ええのそれで」


「……」


「それでええの? サユキちゃん」


「ぬわあああん!! 嘘はつけないでござるうう!!」


 拙者ってば、何と浅ましく卑しいことを……!!

 自分が恥ずかしい。


「ま、とにかく配信したいならチャンネル作らんとな。手伝ったるわ」


「ちゃんねる? よくわからないでござるが、ありがたいでござる。このご恩、どうお返しすればいいのか」


「気にせんでええって。なんかあんた、オモロそうやし。……で、バズりたいんやろ? ならそうやな、せめて登録者100万人は超えんとな〜」


 さっきから何を言っているのかさっぱりだ。


「それは、難しいのでござるか?」


「うーん。サユキはかわええし、レベル999は話題になるけど、そう簡単には届かんやろうなあ。やってみんとわからん」


 なるほど、ダンジョン配信で有名になるとは一筋縄では行かないのか。

 燃える!! 拙者、立ちふさがる壁が高いほどやる気が出るタイプだから!!


「今夜中にチャンネル開設したるわ。んで、明日もダンジョンやな」


「そうでござるな!! ところでリリカ殿のスキルは、どんなものでござるか?」


「ふふ、明日見せてあげるわ」





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