拙者、ポンコツくのいち。ダンジョンにて魔法スキルレベル999を手に入れてしまう。 ーーこんなバズりかた嫌でござるよっ!!ーー

いくかいおう

一章の術ッッ!!

第1話 サユキ、ダンジョンデビュー!!

「先生!! 拙者、ダンジョン配信をするでござる!!」


 とある山奥の小屋で、長い顎ひげの老人にそう告げた。

 ここは忍術学園。古来より伝わる忍術を学ぶ忍びの聖地。

 けど、生徒は私一人しかいない。


「ダメじゃ」


「何故でござる!! 拙者この前町に降りたとき聞いたでござるよ、都ではダンジョン配信なる娯楽が流行っていると。拙者、ダンジョン配信で忍術の素晴らしさを広めたいでござる!! 忍志願者を増やすでござるよ!!」


「ダメったらダメじゃ」


「この分からず屋!! このままでは忍界は潰えるでござるのに!!」


「確かに、いまや忍びの数は激減しておる。しかし忍とは、なりたくてなるものではない。それに、お主のようなポンコツ忍者になにができる!! だいたい、お主は……」


「もういいでござる!! 拙者、勝手にやるでござる!! お世話になりました!!」


「ちょ、待てサユキ!! 話は最後まで聞かぬか!!」


 先生を無視して、私は小屋を飛び出した。

 私、猿飛サユキ13歳。

 いま、忍界の救世主となるため世界へ旅立った!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 町での情報によると、15年前突如としてダンジョンなるアトラクションが世界各地に出没したらしい。

 原因は不明だが、人々はそこでモンスターなる怪物を倒したり、お宝をゲットするダンジョン配信なるものを行ない、それが大流行しているとのこと。


 配信、というとネットテレビのようなもののはず。

 つまり、芸能人になるわけだ。


 子供たちが憧れるスポーツ選手や歌手みたなスターに、拙者もなってみせる。


「えーと、確か……」


 さっそく、一番近くにあるダンジョンへ訪れることにした。

 幸運にも、地元の町外れにダンジョンがあるらしいのだ。


 やがて、大きな神殿のようなものが見えてきた。

 手前にあるプレハブ小屋で、入場の受付をするらしい。


「あの、ダンジョンに入りたいでござるが」


「はい、では身分証を提示して、こちらの誓約書にサインをお願いします」


「わかったでござる」


 忍者とて表の顔はある。

 先生に作ってもらった偽造パスポートを見せて、さっそく神殿に入った。


 んー? 何にもないけど……。

 中央にある台の上に立つと、


「なぬ!?」


 突然台が光だし、気づいた時には、


「こ、ここが……ダンジョン?」


 薄暗い洞窟に立っていた。


 均等に並べられた篝火が、洞窟を照らしている。

 おそらく、ここがダンジョンなのだろう。


「なんと面妖な……」


 とりあえず先に進む。

 そういえば、どうやったら配信ができるのだろう。

 なにも準備せず来てしまった。


「ワクワクするでござる。拙者の鍛え抜かれた忍術、いまこと試す時」


 途端、洞窟の奥から女性の叫び声が聞こえてきた。

 ダッシュで駆けつけると、


「よ、妖怪!?」


 二足歩行の大きな豚が、都育ちっぽい少女に棍棒を振り上げていた。


「だ、大丈夫でござるか!!」


「だ、誰や!?」


 長い金髪の、制服を着た少女。

 知ってる。ぎゃるという種族のはず。

 彼女の頭上には、なにやら小さな機械が浮かんでいた。


「拙者がいま助けるでござる!!」


「ちょ、こいつ凶悪モンスターやで!? ダンジョンのランクに似合わない高レベルモンスターや!?」


「よくわからないが平気でござる!! くらえ、手裏剣殺法!!」


 無数の手裏剣を豚の妖怪へ投げつける。

 拙者、この術で森のイノシシをたくさん仕留めてきたのだ!!


「食らうでござるー!!」


「フン!!」


 あ、あれ?

 全部棍棒に弾かれてしまった。

 おかしいな。


「ならば!! 必殺!! 忍法、火遁放射の術!!」


 口から火を吹く拙者の必殺技。

 拙者、これで森のイノシシをたくさん焼いてきたのだ!!


「ちょっとあんた、全然効いとらんけど……」


「あ、あれ?」


「てか、んなライターの火にスプレーかけたみたいな小さな火炎放射なんて、ザコすぎて誰も倒せへんよ?」


「ザコ!? な、なにを言うでござるかギャル殿!!」


「ギャル殿……」


 豚の妖怪は私をじーっと見つめて、めんどくさそうにため息をついた。

 バ、バカにされている気がする。

 こんなん倒しても楽しくねえよ、とか思われてる気がする……。


 ギャル殿が叫んだ。


「あんた、スキル使ったら?」


「すきる?」


「え、まさか初心者なん!? まったくもう、とにかく手を軽く前にかざして、ステータスを表示してみ?」


「捨ていタンス? 拙者、タンスは腐り果てるまで使う派でござるよ」


「ステータス!!」


 な、なんか口調が怖いギャル殿だ。

 とりあえず言われた通りにしてみる。

 うわ!! 拙者の前に変な青い板が出現した。

 な、なにかいろいろ書いてある……。


「スキルの欄を選択して、押す」


「すきるの乱? 拙者の知らない戦があったでござるか?」


「あーもー!!」


 ギャル殿がこっちにきてくれた。

 豚の妖怪は退屈そうにアクビをして、寝っ転がってしまった。


 相当舐められてる気がする!!


「ほら、ここ……って、なんやこれ!! 魔法スキルレベル999!?」


「なんでござるか? これ」


「私が知りたいわ。あんた本当に初心者?」


「ダンジョンに入ったのは今日が初めてでござる」


「確かに、冒険者クラスはCや……な、なんでもええわ。とにかく魔法を使って!! えっと……うん、これ、これを口にしてみ?」


 ギャル殿が板に書かれた文字を指差した。

 うーん、カタカナは嫌いなのに。


「えーと、『ほーりーすぱーく』?」


 瞬間、天井に謎の紋様が出現した。


「な、なんでござるか!?」


「魔法陣」


 その魔法陣とやらから、巨大な光のエネルギーが放射され、けたたましい轟音と共に豚の妖怪を飲み込んだ。


「な、何事でござるか!?」


「ごっつい威力、これがレベル999……」


 やがて光が止む。

 先ほどまで舐め腐っていた豚の妖怪の姿は……消えていた。


「妖怪がいない!?」


「す、すごい、あのレベルのオークを一瞬で……。ほ、ほらあんた、コメント見てみ? ものすごい数のコメントが流れとる!!」


 こめんと? とはなんだろう。

 ギャル殿が自分の板を見せてきた。

 目にも止まらぬ勢いで、様々な文字が下から上へ流れていた。



:レベル999!?


:なにもの?


:かわいい


:はじめてスキルレベルカンストしている人みた


:魔法強すぎんだろ……。


:チートか?



「みんなあんたの魔法スキルに驚いとるんや」


「みんな? まさかこれがダンジョン配信でござるか?」


「そんなことも知らなかったんかい。こうやって、視聴者が書き込んだ感想を『コメント』っていうんや」


「なるほど!! で、肝心の忍術に関して、誰か何か言ってるでござるか?」


「忍術? あの手品みたいなやつ?」


「手品じゃないでござる!! 忍術でござる!!」


「うーん」


 ギャル殿が指先で板に触れる。

 そういえば、この板は何なのだろう。

 スマホ、とかいうやつだろうか。


 忍術学園にはガラケーしかなかったから、よくわからない。


「コメントないなー、手品の」


「そんな!!」


「でもええやん、魔法スキルの話題で持ちきりなんやから」


「拙者は忍術で驚いてほしいでござるよーっ!!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき


全角英数字なのは目が悪い僕への配慮です。

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