12th sg マネージャーのマネージャー②
「話すと少し長くなってしまうのですが、実は僕の伯母さんが昔芸能関係でお仕事をしていまして……少なからず仕事姿を見てはいたので気付いたら興味があったと言うか‥‥‥そんな単純な話です。まあでも、実際興味はありますし将来の夢を聞かれたらこの業界の職業を答えますね。あとは……自分家事が得意な方なので、別にこの仕事をバカにしているわけじゃないんですけどマネージャーとして芸能人のサポートをする、とかは得意な分野になるのかなって思っています」
この場の空気を少しでも柔らかくできないかと僕は微笑んで言った。
「……なるほどね、でも正直それで採用するのは厳しいわね。はっきり言えば、子供の考えとでもいいましょうか? 身内の仕事姿を見てそういう夢を持つことは良いと思うわ。けど家事が得意だから人のサポートも得意、その考え方は私は嫌い。甘すぎる、業界を舐めてもらっちゃ困るわ。本当にあなたが本気でこの業界を目指しているのなら、それ相応の態度というものがあると思うし、第一あなたは沙那に近づけるからそう言っているだけかもしれないじゃない?」
鈴鹿さんは厳しかった。けどそれは決して怖いものなんかじゃなくて僕のことをしっかりと考えて出ている優しい言葉。
「言葉足らずでした、申し訳ありません。僕にとって芸能界というものは他人より距離が近く、最近では憧れの場所になっていました。芸能マネージャーをはじめ、番組プロデューサー等、芸能に関わるあらゆる職業について現在まだまだ勉強中ですし、ましてや沙那さんのようなトップアイドルのサポートなんて簡単じゃないことは分かっています。ただ、だからこそ自分の得意な分野を活かして業界に貢献したいんです。僕はこの業界で一生懸命に仕事がしたいんです。もちろん沙那さんへの気が無いとは言い切れません。けど、切り替えは絶対にできますし手を出すようなことは一切ありません」
真剣な顔で僕は改めて鈴鹿さんを見つめる。
鈴鹿さんは僕の言葉を聞いて、しばらく考え込むように視線を落とした後、再び僕の目を見つめた。
「星衛さん、あなたが本気でこの仕事に興味があって、沙那のサポートをしたいと思ってくれていることは嬉しいわ。でも、何度も言うようだけど芸能界は甘くないし、特に沙那のような人気アイドルの周りには色々なプレッシャーや問題が付きまとうこともある。マネージャーにはそれを冷静に判断して対処しなきゃいけない時もある。例え自分が辛いときでも、担当している人を一番に考えて行動しなければいけない。それでも君にはマネージャーを目指す覚悟があるの?」
胸の奥でビリビリと痺れるものがあった。そして、それと同時に心の奥で燃えるものも湧き上がってきた。
厳しい道を選んでいることはよく分かっている。けどそれ以上に今はこの仕事への熱情が止まらない。
例えそれがまだマネージャーのサポートだとしても
「はい、もちろんです。沙那さんがどれだけ努力しているか、そしてどれだけのプレッシャーの中で頑張っているか、一番のファンとして少しでも理解しているつもりです。だからこそ、僕もその一端を担うことができるなら、全力でサポートしたいと思っています。だから、どうか僕にこのお仕事を教えて頂けないでしょうか」
僕はその場から立ち上がって深く頭を下げて言った。
こういう経験は今までにも何回かあった。その度に『肝が据わっている』とか『全然緊張しないタイプ』とか言われる。けどその時は毎回毎回、下を向けば足がガクガクブルブルしている。
今だって結局鈴鹿さんに断られたらどうしようとか考えてたら震えが止まらない。
鈴鹿さんは満足そうに微笑んだ。彼女の笑みを見たのはもしかしたら今日が初めてだったかもしれない。前回会ったのは学校でだし、あの時は笑っている余裕なんて誰にもなかったはずだ。あの時の鈴鹿さんは本当に氷のようで恐ろしかったのを鮮明に覚えている。
「わかったわ、星衛くん。あなたの熱意を信じてみることにする。きっとうまくいかないことだらけになるわ。それでも、沙那を支え続ける覚悟があるなら、私たちと一緒に頑張りましょう。私、ビシバシいくからちゃんとついてきなさいよ? ねぇ、沙那?」
「ええ、そうね。けど颯太なら大丈夫だって信じてるから、鈴鹿さんに推薦したのよ。じゃあ颯太、これから頑張ってね? 頼りにしてるから」
きっと今以上に笑顔な鈴鹿さんを見ることはもうないだろう。
今のうちに目に焼き付けておこうか……
けど、本当に良かった。もし断られていたら、おそらく沖縄に行っていた話に戻されて物凄く詰められて、常に見張りがついて沙那に接近NGとかになりそうな勢いだった。
「それじゃ、星衛さん。会社の上の方も説得しないといけないから始まりは結構先になると思うから、詳しく決まったら沙那の方から連絡させるから。うちの会社緩い部分多いから多分大丈夫だけど、ダメだったら本当にごめんなさいね」
「分かりました。それはもう会社の都合なので仕方がないです。その時はたくさん勉強して就職して教わりに来ます。では、本日は本当にありがとうございました!」
その日の夜、僕は想像に耽っていた。
マネージャー見習いではあるものの芸能界に携われること、沙那と仕事ができること、それ以上に夢に近づけたことが本当にうれしい。
とりあえず、まずは帰ったら父さんに報告しないとな
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