11th sg マネージャーのマネージャー①
結局、その日は沖縄で宿泊(もちろん部屋は別でしかも沙那が支払ってくれた)して今朝の一番最初の便に乗って帰ってきたが、僕も沙那も金曜日の今日は学校へ行っていない。
それには、ホテルについた後の昨夜のことが関係している。
話は1日前に遡る……
◇◆◇◆◇◆◇
「それじゃあ沙那さんは復帰するんですね」
「ええ、すぐには発表できないけどね。これからまた色々やらないといけないだろうし、そもそも鈴鹿さんにも言ってないし」
「えっ⁉ そうなんですか、てっきりマネージャーさんには流石に言ってるのかと……」
「まあ……颯太に最初に言いたかったというかなんというか……」
嬉しい、という思いは物凄く感じるけど、それは……大丈夫なのか……?
「ありがとうございます。すっごく嬉しいです。それにしても、復帰してくれて嬉しいです、優希も絶対喜びます」
「優希……? あ~えっと……?」
「あ、ごめんなさい。僕の幼馴染で彼女も沙那さんのファンなんですよ」
あくまで桜華スリーは非公式だから公にはされていない。
学園の生徒が知っていたとしても当の本人は誰も知らない。
だから沙那が優希と接点がなく、知らないのも当然なのだ。
ただ、桜華スリーが3年・温泉川沙那、2年・櫟木優希なのは皆が知っているものの、1年生が誰なのかは知っているのはいつどこで開催されているのかは誰も知らない選出委員会だけ。なぜ一年生だけ秘密にしているのか、学園の七不思議の一つになりつつある。
「彼女……女の子なのね。ふーーん」
意味深にジト目でこちらを見てくる。
そのまま沈黙が長く続く。
「……な、なんですか? 別に好きとかそういうのはないですよ! ただの幼馴染です」
「……そ。じゃあそういうことにしてあげる」
なぜだろう、沙那からの重い圧を感じる気がするのは……
「そ、それにしても、良いですね。沙那さんにはまだ大きな夢があって、それを達成できる自信もあって」
僕は焦って咄嗟に話題の転換を計った。
「そうね……そうじゃないとやっていけないって思うようになったら自然と自信がついてきて、諦めることをやめた気がするわ。颯太は何かないの? 将来こんなことがしたい、とかこんな大学に進学したい、とか」
どうやら、話題転換は成功したらしい。
「僕は……実は伯母さんが昔芸能関係で仕事をしていて、小さい頃自分はよく伯母さんの所に預けられていて少なからず仕事は見ていて……そのせいなのか分からないですけど、芸能系の会社とかマネージャーさんの仕事とかは興味ありますね。大学に進学した場合も、その系統を学びたいとは思っていますし」
「ほんとに⁉ ……なんか意外ね。それなら、私のマネ、やってみる?」
沙那の口から唐突に出たのはそんな言葉だった。
「……は⁉ えっと、どういうことですか?」
突然すぎて理解が出来なかった。
「もちろん、今は鈴鹿さんがいるからその補佐になるけどね」
びっくりした。まあ流石に素人にはメインで何にもサポートできないからな。
マネージャのサポートだとしても現場に出て仕事を学べるのはとてもありがたいことだ。
せっかく沙那が提案してくれてるし、断るなんてことはまずない。
もちろん僕の答えは――
「ぜひ! よろしくお願いします!」
「わかった。それじゃ、明日帰ったら鈴鹿さんに話しておくわね。多分軽い面接じゃないけど、そんなのがあると思うから、詳しく決まったら連絡するわね。そのときは私もいるから大丈夫よ、緊張しすぎなくていいから」
まさかマネージャーの仕事を体験させてもらえるなんて思わなかった。
話題の転換がとんだ幸運を呼んだ。最適解を選べたようだ。
◇◆◇◆◇◆◇
それが昨日あった出来事。
さっき東京の空港に戻ってくるとマネージャーの鈴鹿さんが待ち受けていて、沙那をこっぴどく叱っていた。
説教が終わったかと思うと沙那が何かを話し始めてマネージャーは物凄く驚いたような表情になった。
それから少しして、僕の方をギロリと睨んで近づいてきて言った。
「あなた、この前沙那にはもう近づかないでって言ったばかりよね? なぜ同じ飛行機に乗っていて、同じ場所に行っていたのかしら。それと、芸能マネージャーになりたいそうね、それも含めて話を聞くから私についてきなさい」
詳しいことが分かったら連絡すると言っていた矢先、帰ってきて早々面接の場が設けられてしまった。それも、面接だけじゃなくて二人でいたことについても聞かれるし……大変なことになった。
ちらっと沙那の方を見ると僕の視線に気づいたのかこちらを見て、ウインクをしながら綺麗に親指を突き立てた。
いや、『ぐっ!』じゃねえよ
ある意味修羅場だろ、これ。
そして今、僕の目の前にはマネージャの鈴鹿さんと沙那が少しだけ気まずそうに座っていた。
「それじゃ、早速。なぜあなたは私の忠告を無視して、また沙那と会って……しかも飛行機に乗って沖縄へ行って一泊まで……その理由を聞いてもいいかしら?」
淀んだ空気を切り裂くようにマネージャーの鈴鹿さんが口を開いた。
鈴鹿さんの言葉は物凄く重く僕にのしかかり、その圧で全身がピリピリとする。
「あっ、それは……」
少しだけ沙那が口を開いた。
「沙那は少し黙っていて。今は星衛さんに聞いてるの」
沙那は肩をすくめた。
沙那と目が合うと、「大丈夫」と目配せをして鈴鹿さんと向き合う。
「それについては、実は先日僕宛に沙那さんから自宅に封筒が届いていて、それを開くと空港に来て欲しいという指示がありまして……わざわざそういうことをするってことは何か緊急事態なんじゃないかと心配してしまいまして、僕は彼女の大ファンなので何かあったのだとしたら助けた方がいいのではないかと考え、空港に向かいました。――」
「……それで?」
鈴鹿さんの一言一言のプレッシャーが凄まじい。
「それから沙那さんと出会い、事情を詳しく聞かされないまま言い方が悪いですけど飛行機に半ば強引に乗せられ、沖縄へ着きました。そこからタクシーで移動して沖縄アリーナ着き、色々話しました、ユアヒロインの昔話とか。もう帰る便は無かったので仕方なく一泊だけして翌日早朝の便に乗り、今に至ります。沙那さんが悪いみたいな感じで話してしまいましたけど、全くそんなことはなくてただそれが真実だったっていうだけです」
「………なるほどね、沙那と言ってることは同じみたいね。分かったわ、信じましょう」
この日初めて鈴鹿さんの笑う顔を見た。
それを見て僕も沙那さんも安堵した。
「それで? 芸能関係で仕事をしたいんでしたっけ? 沙那から私の補佐役として仕事をさせてあげられないかと提案されたのだけど、それについてあなたから話が聞きたいわね」
一度気持ちを整えて、深く呼吸をして鈴鹿さんと向き合った。
「話すと少し、長くなってしまうのですが――」
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