行曹の最後

 行曹はそれでも抗っていたが、地面にめり込むほどにまでなって、力のオーラが抜け出していった。


「行曹。お前は間違っていた。『極楽浄土』なんてこの世には存在しないんだ。いや…あるのかもしれない。でも俺達はこんな世界を愛している。そしてどんなに苦しくても生きようとしている」


「そうか…」


行曹は色が薄くなってきて身体から光が漏れていた。


「では私は間違ったことをしていたのか?私は人々を救うために『極楽浄土』に人々を送ったのだ」


「お前の考えが間違っているとは言わない。でもやり方は間違っている。人々を無理やり『極楽浄土』に送ることは俺が許さない」


「……それでは人々は救われないこの世界に苦痛が満ちているから…」


「行曹。俺が約束する。この世界から苦しみをできるだけ取り除くと、お前は仏教の輪廻転生の考え方でこの世界に戻ってくるんだよな。そのときには俺達が世界を下に戻しておく」


「人々は救われるのだな…」


そう行曹は涙を流しながら消えていく。


「桓武天皇。私は貴方様の命を果たせましたか…平城京の地で起きた疫病、災害のために私は『極楽浄土』を作りました…桓武天皇。貴方様の子孫が…先祖がこの世界を救ってくださるそうですよ…」


そうして行曹は消えていった。


「ハハハ!遂に復讐を果たしたぞ!」


「鬼神…」


「小僧、どうした?」


「どうしたのじゃ?」


「行曹はやり方が間違ってただけで本当は世界を救おうとしてたんだな…あいつを救える方法はなかったのか…」


「小僧。行曹はすでに死んでいる身。それも約1200年前にはな。あいつも人間だ。」


「そうか…」


「あいつはお前に滅っされてしっかりと成仏?というのか?が出来たと思うぞ。なにはともあれ、世界は救われたのだ。小ぞ…徹。よくやったぞ。」


「鬼神…ありがとう。」


俺は黒雲が消え去って晴れた空を見上げた。


「お母さん、終わったよ…」


『復讐』なんて物騒なものだとも思った。でもあのときは怒りに燃えていてそんな事も考えていなかった。俺は世界を救うなんていう大義は持っていなかった。でも結果的に世界を救うことになったのだから過去のことはもうどうでもいいだろう。


『覚醒者』は良くも悪くも人の思いが集まって出来たものだった。行曹もまたやり方を間違えてしまったかわいそうな人の一人だった。


「鬼神。天照大神。この世界を戻していこう」


「すまないが我らは見守ることしか出来ない」


「妾らはもとより倭国の神故直接関わることは出来ないのだ。妾は大昔。卑弥呼としてこの地に降り立った。でもそれも他の神々の意思だったのだ。いまはどうすることも出来ない。徹。お主がこの世界を変えるのだ」


「我らはお前と同化している。いつでもそばにいる。よくやったぞ徹。そしてさらばだ。いつまでも天界から見守っているぞ!」


「鬼神…ありがとうな」


鬼神と天照大神の精神体は空へと上っていき、消えていった。

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