『覚醒者』への抗い
俺は今までにない速度で行曹に迫った。そしてありったけの力を込めて行曹に向かって金棒を振り下ろした。
ガイン。
と金属のようなものと当たるとがした。前には仏像、『覚醒者』がいた。行曹への攻撃を防いでいたのだ。仏像は粉々に砕け散り、行曹は俺からだいぶ離れたところに立っていた。
「おやおや物騒ですねぇ」
行曹は笑っている。
「行曹待て!」
俺は行曹に向かって何度も攻撃を繰り出したが、すべてかわされてしまった。
「弱い。実に弱い。そして愚かだ」
そう言うと行曹は中に浮かび、周りに倒しきれていなかったであろう3人の仏像が集まってきていた。
「さあ。火神徹。鬼神、天照大神。まず私の復活の祝としてこの日本に残っている人々をすべて『極楽浄土』へと送って差し上げようではないか」
そう言うと、一瞬で周りの雲が晴れ、行曹は仏像を連れて南西のほうへと飛んでいった。
「待て!」
「小僧。乗るんだ」
俺は龍の姿になった鬼神の背中に乗ってその後を付けた。すると富士山へと着いた。
「さあ。私の愛しき『覚醒者』よ。あなた達のせいで少なくなってしまったが、まだその力は健在。日本を火の海にして『極楽浄土』行きの船を出港させましょう」
「まさか…」
「小僧!あいつを止めるぞ!」
俺達は瞬時に気がついた。行曹は富士山を噴火させようとしているのだと。
「ハハハ!お前は変わっていないのう!だが儂らは強くなったぞ!」
いま富士山が噴火したらとんでもないことになる。自然にゆっくりと噴火するならまだしも、 人為的に噴火させるのならもっと大きい被害が出るはずだ。それに今の俺達では富士山の噴火に耐えることは出来ない。もし噴火してしまったら世界は終わりだ。
俺は鬼神に乗って行曹めがけて突進し、光の剣を振り下ろした。初めて剣が行曹の身体を捉えた。と思ったら行曹は金色に輝く小さな仏像のような剣で受け止めていた。
「行曹!なんでそんなにもお前は『極楽浄土』に人を送ろうとするんだ!」
俺は必死に行曹の下へ向かって光の剣と金棒を使って戦いながらそう聞いた。
「何をまた同じことを聞いてくるのですか?この憂き世には苦痛が満ちている。私は悟る前にそのことを知りました」
行曹がそう語ると、剣を通して俺に頭の中に映像が流れてきた。
それは平安時代。行曹がまだ幼かった頃。行曹は3歳で読み書きができるほどの天才だった。そのせいで周りから嫌われ、5歳の頃、親からも見放され寺へと捨てられた。そこでは生きるのに最低の保証がされていたが、それでも暴力を受けたりしていた幼少期は行曹の心に深い傷を付けた。
そして20歳ごろになったときに、同じような子供がこの世界には溢れていて、また子供じゃなくても貧しい人々にとっては地獄よりも苦痛な世界だというふうに感じた。そして沢山勤行(仏教の修行)をした後に、悟りを開き『極楽浄土』こそが世界の完成形だと感じた。そして貧しい人々を中心に思想を広めていき、遂にはあの藤原道長の考えにも影響を及ぼすようにもなった。
『極楽浄土』へ行く方法はとても簡単でこの現実世界で死ぬこと。だから昔、行曹は仲間と一緒に仏教の力を使って富士山を噴火させたのだった。
「だ…としても人を殺すことは無意味だ」
「なぜです? 人々はこんなにも苦しんでいるんですよ。ならば開放してあげるのみ」
「人々はみんな一生懸命に生きている! たとえ苦痛に満ちた世界であったとしてもその中に幸せを見出している。俺と、お母さんもそうだった。お母さんはどんなに大変でも俺を育ててくれた! なのに…なのに…」
「小僧危ない!」
俺が感情的になっている間に鬼神が俺に身体を操って攻撃を避けてくれた。仏像がちょうど俺のところに突進してきていた。
「お主。行曹とか言ったか?この国は妾らが作った国。お主の思い通りにはさせないぞ!」
天照大神はそう言って俺の身体から精神体となって抜けていき、富士山の方へと向かっていった。
「ハハハ!さすがはアマテラスのミカドよ。よくわかっている。さあ小僧。いや、相棒! 気を静めて行曹を滅するぞ!」
そう言って二人は俺を助けてくれた。
「ああ。話し合ってはきりがない。行曹勝負だ!」
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