行曹の復活
突然地面が揺れた。日本全土を揺らすような大きい揺れだった。俺は飛び起き周りの状況を確認した。俺はどこかのホテルで寝ていた。きっと鬼神と天照大神が倒れている俺を連れてきてくれたのだろう。
「どうしたんだ?」
「遂に…遂に行曹が復活する。小僧。行くぞ!」
「おい、状況がわからないんだが…」
「行曹がついに復活する。それだけだ。あいつが1234年ぶりにこの地に降り立つ。これはその前兆だろう。最後の戦いだ」
「行曹…お母さんの仇。俺はこの日のために10年間生きてきたんだな」
「ハハハ!行くぞ!アマテラスのミカドもな」
「わかったよ。たけどただならぬ雰囲気ね」
天照大神が言うことも分かる。まだ揺れは続いているのだ。外へ出ると周りに唐牛で残っていた建物が次々と崩壊しだし、空は黒雲に覆われていった。
「行曹。今行くぞ!」
そして俺達はすぐさまあの悲劇の日の始まりの地。渋谷のスクランブル交差点へと急いだ。龍の姿となった鬼神に乗って空から東京…日本を眺めていると、空気にまで地震の振動が伝わってきた。すべてのプレートが爆発しそうなくらい常に震え続けている。遠くに見える海岸沿いには津波と思われる波が沢山押し寄せてきていた。そして俺達は東京の中心。黒雲の中へと入っていった。俺は心のなかで覚悟を決めた。
「お母さん。俺。頑張るね」
「ハハハ!小僧!行くぞ!」
「おう!」
俺達は遂に行曹の元へと向かった。黒雲のかなには雷が沢山渦を巻いていた。そしてその中でかすかに見えるのは沢山の不自然にも金色に輝く仏像だった。仏像は…『覚醒者』は俺達を認識したのか、いつもの光線を放ってきた。天照大神の加護のおかげてあまり痛くはないが、それでもいつもの『覚醒者』の攻撃とは比べ物にならないくらい強烈な光線だった。
俺は風と光と雨に揉まれながら下へ下へと降下していった。
ようやく地面につくと、そこには紫色のオーラを纏った人が立っていた。俺は瞬時に光の剣を構えた。
「おお。ようやく復活できました。おやおや。はじめまして。かな? 私は行曹。しがない一介の僧ですよ」
俺は光の剣を強く握りしめた。この男からは異様な雰囲気が出ている。ねっとりとしたやけに丁寧な口調も癪に障る。
「おお。そんな物騒なものはしまっておしまいなさい。そうに向かって剣を抜くものではないですよ。私は仏様の御加護がありますから。」
「お前が『覚醒者』を生み出したのか」
俺はとてつもない威圧感の中かろうじで声を出した。
「はい。そうですよ。私がなにか悪いことをしたというように言うのはやめていただけませんかねぇ。人聞きの悪い」
「お前は沢山の人々を殺したんだぞ!」
「おや。殺したというのは不本意な言葉ですねぇ。私はこの世界にいる人々をより高次元の素晴らしい世界。『極楽』へと送り届けてあげたまでですよ。この世界ま本当に無情で『地獄』などという世界もあるようですし…無常の世界で人は苦難を強いられている。それから開放したまでですよ。」
「『極楽』、『地獄』なんてものは存在しない!この世界が全てなんだ!」
「それを決めたのは誰ですかねぇ。誰も『極楽』がないという証拠を持ってはいませんよ。ただし、この現世が辛くて苦しいものだという証拠はあります。そんなに感情にてよってはいけませんよ。」
行曹は思っていたよりもゆっくりと、そしてしっかりと俺のこころを蝕んでいく。
「だから私は悟ったのです。この世界は私たち。人間にはふさわしくないと。だから『極楽浄土』が人間の救いになると。ねぇそうでしょう。
「ハハハ! こうやって面と向かって話すのは初めてかな?行曹。『極楽浄土』を生んだもの」
「これはこれは鬼神様。貴方様もおわかりでしょう。人々はこの世界に救いを求めていると。身を持って実感しましたよね。2度の封印で。1度目の封印のときには『地獄』という負の世界を顕在させる人間にとっての救いとなりました。我々は常に自分より下に人がいると安心する。そういう残酷な生き物です。2度目の封印のときには藤原道長によって『極楽浄土』は本当にあるという見せしめのために、罰のために封印されましたね。これもまた人々の救いとなっている。いやはや素晴らしいお方だ」
「お前は何が言いたいんだ」
「あまり怒らないでくださいよ。お二方。私はただ事実を述べているまででありますよ。私が『極楽浄土』へと人々を送ったことを肯定とする証拠をね」
俺は腸が煮えくり返りそうな気分になった。
「なんなんだお前らは」
「何のことでしょうか」
俺はもう我慢できなくなった。
「なんでそんな簡単に人を殺せる」
「何を聞いているんでしょうか。簡単なことですよ。私は人々をこの世界から救い出したい。ただそれだけです」
「わかった。もういい。お前には話が通じないみたいだ」
「何を言っているのでしょうか」
「それでもお前はとぼけた顔をするのか」
俺はいつの間にかもう片方の手にも金棒を握りしめていた。
「鬼神、天照大神。力を貸してくれ」
俺は力いっぱい金棒と剣を握り締めた。
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