行曹の足音

 ここは渋谷のスクランブル交差点と呼ばれていた場所。そこはかつてのたくさんの立ち並んだビルの影などもない、ただだだっ広い荒野が広がっている。その真中には異様な光を放つ金色の仏像が浮いており、その真下で静かな鼓動が起きていた。今から1234年前の日、行曹はこの地に日本全土から集まった僧によって封印された。しかし、10年前の悲劇の日。封印が解かれた。それは必然だった。1224年間行曹は同じ場所に封印されていた。肉体はもう存在しない。しかし、行曹は悟りを開いたため精神体としてこの世に留まってしまっている。行曹を支持した少なくない人たちの思いおも自分の力とし、生きながらえていた。


 自分は『極楽浄土』へ行こうとしないのに周りの人を『極楽浄土』へと誘う。そんな矛盾を抱えながら精神体として生きること1224年。遂に封印が緩み、行曹の思いが『覚醒者』…仏像としてこの世に見参し、世界を破滅へと追い込んだ。


 そうして10年がたった封印されてから1234年後の今、この時、遂に行曹が完全復活する。始めの爆発への力を貯めるのに35時間38分52秒。その後は358秒。この数字列は秒にして合わせると、128690。誰も知る由もないが、これは行曹が、西暦800年3月に『覚醒者』を使って起こさせた噴火で死んだ死者の数と同じだった。

そして1224は行曹を封印するのに動員された僧の人数。そして残りの10は1224人の僧の中で行曹と同じ寺出身の仲間だったが、裏切られた10人だ。奇しくも行曹はユダと同じ11人目となっていたのだ。


 そうしている間にも行曹の力は復活していき、行曹の復活の合図は大地の鼓動となっていた。


 周りから生き物が逃げ去っていく。大地が震える。そして遂に行曹が復活する。


 世界中のすべての人を…『覚醒者』だけでは送れなかった人たちを、そしてこの行為の邪魔をするものを極楽浄土へ送るために。




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