富士の麓

 富士山をめがけて俺達は進んでいった。もう眼の前には仏像が浮いている。俺達が仏像のところへ向かっていると、目の前位に居た仏像が姿を消した。


「あれ? 仏像が消えたぞ?」


「なんでだ?」


鬼神も不思議そうに唸った。


「もしかして俺みたいな人が『覚醒者』を倒したとか?」


「お主。そんな事はありえないぞ。 あの仏像は神の力でなければ瞼を壊すどころか、傷一つけることはできない。 それもよほどな力を持っている神でなければなおさらだ」


「ハハハ!我らのような神が他に手を貸すとは思われん」


「そうじゃ。それにお主に力を貸しているこの鬼神…国之常立神くにのとこたちのかみも神世七代の独神。この倭国において最も力のある神の一人じゃ。妾も…この天照大神もこの倭国を代表とする神であるぞ!」


天照大神も鬼神もとても興奮しながらそう話してきた。


「とりあえず仏像が居た場所に行くか」


 そうして俺達は仏像が居たとされる場所に行った。静岡市に中心につくと、底はやっぱり荒れ果てた荒野となっていた。 何回も見てきたが、やっぱりどうしても見慣れるものではない。一番中心には静岡駅などがギリギリ形を残し、その周辺は細かい金属やガラスの破片で埋め尽くされており、そのさらに周りは建物などは崩壊し緑に覆われていっていた。


 しかし、どこを見回してもあの忌々しい金色に光る巨大な仏像は見当たらなかった。仏像が居たであろう、静岡駅の中心に行ってみてもなんの気配も感じられなかった。

鬼神と天照大神の力を持ってしてもそこに『覚醒者』は居なかった。


「覚醒者って動けたのか?」


「そう考えることしか出来ないようじゃの」


「まあいいや。 先に進もう」


 そうして俺はなにか違和感を抱えながらも先へ進むことにした。そうしてまた鬼神の如意宝珠の中に入って次は相模原に向かった。


 相模原に向かう途中、常に富士山が見えているのでとても不思議な感じがした。俺は三重県生まれ、三重県育ちだったので近くに一つだけそびえ立っているような大きな山に常に見下されているという感覚がなにか不自然だった。圧倒的な質量、圧倒的な存在感、圧倒的な威圧感…まさに日本を代表する山だなと身を持って感じた。そうして神奈川県に入る頃、俺は下の方にまあまあ人がいることに気づいた。


「俺達、避難シェルターの人たちにバレてしまわないか?」


「なぁに。あやつらは…普通の人には妾らみたいな神を見ることは出来ない。お主も神同然なのだからあやつらに認識されることはないと思うぞ」


「ハハハ!そうだ。小僧、お前はまさに選ばれしものだったのだ。今思えば我の封印を羅生門跡で解いたときからお前は特別だったのだ。我とお前は同化している。一心同体の身だ。一方が死ねばもう一方も生きてはいられない。そういう関係なのだ」


「そうだもんな。 じゃああの人達は近くの避難シェルターから出てきたのかな?俺が『覚醒者』への復讐を終えたとき、一番の恩恵を受けるのはあの人達なんだな。 なんかそう思うとやる気がもっと湧いたきた!」


 そう意気込んで言ったが、翌々考えてみたら俺はもう人間としてこの世界で過ごすことが出来ないのかな?と思ってしまい少し寂しくなった。だけどそんな思いは胸の底にしまっておいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る