東海道を上って

 そうして俺達は浜松を目指して龍の姿のなった鬼神の如意宝珠に入っている。さすが龍だ。一瞬で浜松城が見えてきた。そうしてもちろんその上には忌々しい仏像が不気味に浮いていた。仏像のところに着く頃にはもう夜となっていた。


「浜松城といったら徳川家康だな〜」


「誰じゃ?其奴は」


天照大神がそんな事を言いだした。


「日本で最後の幕府を開いた将軍だ」


「そんなものもいたのじゃのう。 全く持って知らなかったわい」


天照大神は自分から聞いてきたのにまるで興味がないように返事をした。


「強いものならばここらに現れてもおかしくないのだがな」


鬼神がそうつぶやいた。


「それは… そうだ! 徳川家康は日光東照宮に祀られているんだ。そこがお墓だったはず」


「それならばここにいなくてもしょうがないな。菅原道真のようには行かないか」


どこか鬼神は寂しそうだった。


「よし! 行くか!」


 そうして俺は如意宝珠から飛び出て、まっすぐ『覚醒者』のところへ向かった。


 浜松城の近くに行くと、そこは夜の闇をかき消すように燃えていた。いや、光っていた。そこには大阪で見たような光景があった。仏像の下にある浜松城は門がすべて空いており、篝火が煌々と燃えていた。そしてそこから声が聞こえる。


「殿が来るまで持ちこたえるのだ! 士気を落とすな!」


 俺は天照大神の力を使ってそのまま浜松城に入り、篝火に誘導されながら仏像の真下へとたどり着いた。


「ハハハ! 徳川家康とやらも良い部下を持っていたのだのう。聖帝ひじりのみかどのようではないか」


 精神体となって付いてきていた鬼神は物珍しそうにそう笑った。今度の『覚醒者』は少しばかり抵抗をしてきた。俺が近くへと来ると、光線のようなものを目から発射し、攻撃してきた。


「あっ城が…」


 城の天守閣にあたって崩れてしまうと思った矢先、浜松城の将兵らしき人の影が現れ、光線を防いでいった。


「すごい…」


「ほれ、しっかりと前を見ろ。しかし、主に対する思いがこうも形に現れるものなのじゃのう」


「ハハハ!全く。死んでもなお主の帰りを待つ将兵たち。あっぱれだ!」


俺は今回はしっかりと鬼神の金棒を作り、そのまま仏像の瞼めがけて振り下ろした。


「『覚醒者』。よく見てみろ。人を『極楽浄土』に送ることが良いことだとかぬかしているが、人は死んでも絶望しないぞ」


そうして俺はお決まりのとどめを刺した。


「お前は殺生を行った。破門だ。 地獄道へ落ちろ」


するとまたもや仏像は崩れ落ち、『覚醒者』が抜けていった。


「ハハハ!人の思いというものはとても強い! 思いがあるからこそ人は強くなっていく。実に強い生き物だ」


「国之常立神。お主人間が嫌いではなかったか?」


「そうだったが、最近考えが変わってきた。人間とは実に面白い。小僧のように自分の目的のためならば神にさえも抗える。アマテラスのミカド。お前の父はとても良いものを我が作ったこの地に授けたな」


「妾の父と母は間違っておらなかったろう。妾はもっと早くに、卑弥呼のときにもう気づいておったがのう」


「まあそこは張り合わないで…」


浜松城で一夜を過ごした。夜が更け富士山が顔を出した。


「次は静岡だ。近いぞ!」


富士山の下の方にもう小さく仏像が見えている。

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