福岡での戦い

 そうして新たな力を得た俺達は福岡へと向かった。途中で菅原道真が本当の正体がわかった鬼神に対しておののいて大宰府に帰ってしまったが、特に何事もなく移動できた。福岡へも、筋斗雲を使って約30分で着いた。

あの勾玉のせいか、体の周りが温かいオーラみたいなものに包まれていて、九州に来るときみたいな向かい風の辛さがまったくなかった。そして福岡市に着くと、またもやあの忌々しい仏像が見えてきた。


「西日本最後の『覚醒者』か… 俺は前より強くなった。 よし、行くぞ!」


俺は筋斗雲に乗ったまま仏像へと向かっていった。しかし、なんかおかしい。

仏像に近づくにつれて、筋斗雲の速度が遅くなりしまいには消えてしまった。


「鬼神、どうしたんだ?」


不思議に思って後ろを見ると大きな龍(鬼神)が縮こまっていた。


「どうした? 本来の力を取り戻したはずなのにどうしたんだ?」


「我はあそこには行けぬ」


「なぜだ?」


「なぜって… 小僧。今日は何の日か知っているのか?」


「何の日? 今日は確か2月3日…」


「そう。2月3日。 節分だ。 我は鬼神として封印された後から決まって節分の日には『鬼は外、福は内。』などと、豆をぶつけられて日本を追われていったのだ。 あの『覚醒者』がいるのは東長寺。 あそこは空海が建てた寺だ。 今日、我はあそこへは行けぬ。 小僧、お前は強くなった。 アマテラスのミカドの力で『覚醒者』を倒してこい」


 節分! 確かに東長寺の節分大祭は日本で一番の祭だ。 もうすっかり行事を忘れていた。


「お主、力を取り戻してもなお昔の敵を恐れるのか。 まあいい。妾たちの力を示してみせようぞ!」


鬼神が怯えて動けなくなる中。俺の中の天照大神がそういった。


「よし。 鬼神、ここで待っていてくれ。 俺があいつを倒す!」


そうして俺は仏像に向かって歩き出した。


「妾は日の神。 太陽の力を司るもの。 お主に光の剣を授ける。 本当は草薙の剣を与えたほうが良いのだろうが、日本武尊やまとたけるに授けてしまったからのう。 もう2000年以上前の話か」


そう言うと天照大神は俺に光の剣を持たせた。 


「妾は卑弥呼。 倭国で、いや世界で1番の預言者。 お主に千里眼を与える。さあ、前に進むのだ」


 俺は仏像に向かって駆け出した。幸い仏像はそこまで高いところにいなかったので、鬼神と同化して手に入れた超人的な身体能力のお陰で仏像の喉元まで近づけた。

仏像はまたもや光線を飛ばしてきたが、卑弥呼の千里眼のおかげか全ての行く先を見ることができ、避けることができた。俺が仏像の瞼に迫った時、太陽の光がとても強くなった。 そして仏像から発せられる光線を包み込み無へと返した。


「お主、相当戦いなれているな。 嗚呼懐かしい。 スサノオを見ているようだ。 アヤツもこううちに秘める闘志がすごいやつだったなぁ」


俺はめいいっぱい光の剣を仏像の瞼に突き刺し、こう言った。


「お前は殺生を行った。破門だ。 地獄道へ落ちろ」


そうして仏像は発狂し、木でできた仏像がコロンと落ちてきた。


「よし!」


 今回はなんとも言えない達成感が来た。天照大神・卑弥呼の力を借りたとはいえ、ほぼ自分だけの力で『覚醒者』を倒したのだ。 ヘトヘトになりながらも鬼神のところへ行くと、鬼神は国之常立神の人の姿となって待っており、顔色が悪かったが俺が着くなり俺の頭をグシャグシャとなでた。


「小僧。よくやった。『覚醒者』滅亡まであと少しだ」


 鬼神の頭を撫でる手は荒っぽかったが、父親が俺が生まれたすぐ後に死んでしまって、父親の顔を見たことがない俺はまるで父がやってきたかのように思えた。


「あ…れ? おかしいぞ。『覚醒者』に勝ったはずなのに。母を殺されてもこんなことにはならなかったのに…」


 俺は泣いていた。自然と涙が出てきた。すると体から天照大神が出てきて、卑弥呼の姿となって実体化した。そして鬼神と一緒に俺の頭をなでた。天照大神の手は母を思い出させた。


「二人とも何をするんだよ」


「お主は離れているとはいえども妾の子孫。 火神徹。よくここまで頑張ったな」


「ハハハ! 泣いてこそ、漢は強くなる。 小僧。もっと強くなれ。そして『覚醒者』を滅ぼすぞ!」


「お主は『覚醒者』のことしか頭にないのかい」


「我はもとより人間が嫌いだ。 まあ小僧、徹は例外だがな」


「何だよそれ」


 俺はみっともないと思いながらももう少しの間2人に身を委ねた。そうしていつの間にか眠ってしまっていた。

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