仁徳天皇の威光

「はあ、はあ」


俺はこの前よりもとてつもなく疲れており、大の字になって荒野に寝そべった。


「おかしいな。 我ではものを想像して作り出すことができないらしい。破門もできない… もしできたならお前の自我を永遠に取り払ってしまうことができたのだが…まあいい。戦いのときはこれからはお前のその肉体を我が操作してしんぜよう。」


なかなかにこの鬼神おにがみは怖いことを言ってくる。でも『覚醒者』への復讐をし終えず、死んでしまうという最悪の事態は避けられそうだ。


俺はしばらく倒れていて、日が暗くなってから動き出した。 そして大阪の郊外の小さいホテルのようなところを宿として借りた。


翌朝、俺達?は隣の堺市へとほぼ休むことなく向かった。

大阪から堺市までは約25キロメートル。6時間の道のりだ。周りは壊れてきているものの、民家や工場などが形そのままに残っていた。 近くに臨時政府のシェルターがあるようだったが、鬼神と同化している身でもあるし、人と会うとめんどくさいことになりかねないのでなるべく迂回して避けて通った。そして昼頃にはもう何回も見た荒野と化した見慣れた風景が見えてきた。しかし、今回は仏像の下になにか大きな物が見えた。


「あれは… 仁徳天皇陵、大仙古墳。」


「仁徳天皇の墓か。 今となっても残っていたか。相変わらず壮大だな。」


そうして今回は俺がイメージしてものを創造し、その後鬼神に自分の体を操ってもらい仏像を壊すことにした。


「よし行くか。」


また俺は仏像を重力で落とすイメージをし、引き落とした。

そして金棒をイメージして作り出した。


「よし。肉体を借りるぞ。」


「いつからそう協力的になったんだ?人間が嫌いじゃなかったのか?」


「人間が嫌いなことは変わりない。だが『覚醒者』を滅ぼすためだ。勘違いするでないぞ。まあいい。我が協力的だということにしておこう。この肉体で暴れられるのだからな。ハハハ!」


そうして俺(鬼神が操っているが)は仏像に向かってすごい勢いで向かっていき、金棒を一振り、すると今回はたちまち仏像が崩れていった。


「お前は殺生を行った。 破門だ。地獄道へ落ちろ。」


いとも簡単に『覚醒者』は抜けていった。


「あれ? なんか手応えがない。」


「ハハハ!  仁徳天皇よ良い部下を持ったな。」


鬼神が突然叫んだ。


「どういうことだ?」


俺は全く状況が理解できていない。


「小僧、あれを見ろ。」


そう鬼神が指す方を見るとそこには精神体となっている埴輪の兵士や馬などがボロボロの状態で居座っていた。


「主を守るために『覚醒者』に抗ったのだろう。」


「10年間も…」


聖帝ひじりのみかどあっぱれだ。」


これで仁徳天皇陵が、大仙古墳が崩れずにそのまま残っていることに説明がついた。


「聖帝は民のことをとても大事にしていた天皇だった。だからこのようにしっかりと埴輪たちが死後の世界でも主のために戦い、守ったのであろう。我、鬼神、聖帝に敬意を表する。」


そう言って俺まで無理やりお辞儀させられた。


「次は神戸かな。」


「神戸郷か。 名前はあまり変わっていないのだな。」


「鬼神の土地感覚ってだいぶ時代が混ざっていないか。」


「細かいことは気にしなくて良い。」


そうして俺はまた近くの民家で休んだ後、今度は神戸に向かって歩き出した。

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