封印の解き方

 俺が居る三重県の伊勢市から京都の羅生門(跡)まで約35時間の道のりだ。このご時世、もちろん車なんていう便利な乗り物は存在しない。いや存在はするがあったとしても壊れているかもしくはガソリンがない。なので全て徒歩だ。

 

 あの悲劇の日から10年経っているので周りはだいぶ緑が戻ってきている。だが、建物などはひどい有り様で状態がいいものは形を保っているが大抵は半壊、もしくは全壊している。しかし、雀や烏などの生き物は自由に過ごしており、自然溢れていた。

都市に近づいていくに連れ、巨大な仏像が空に浮かんでいるという異様な光景が目に映る。


 あたりはいつの間にか暗くなってきており、近くにあったまだ無事な民家へお邪魔させてもらい一夜を過ごす。二日目の午後には京都府に入った。折れた看板が嫌に目に付く。そして夜。目的地の羅生門跡についた。2日間寝る以外ほぼ休憩せずに歩いていたが不思議と疲れていなかった。お母さんの復讐のためだと思ったらいくらでも頑張れる気がしていた。


 ちなみに俺には父親がいない。俺が生まれたのとほぼ同時に病気でなくなったらしい。それ以来、いや生まれてからずっと女手一人で育ててくれた母の仇は絶対に生き残った俺が取る。シングルマザーだったため俺は小学校でいじめられていた。筆箱を隠されたり、ノートに落書きされたり…そんな俺をお母さんは優しく守ってくれた。だから心配させないように頑張ってた。そしてお母さんを…ママを楽にさせてあげたかった。だから俺は自分が正しいと思う正義を貫いてきた…


『覚醒者』なんかこの世から消えてなくなれ。


 仏だがなんだか知らないが俺が正義だ。


 羅生門跡(正確には羅城門跡)の石碑の前に来て俺は、道中手回し発電でためていた電気を使いスマホで電気をつけた。巻物には鬼神の封印を解く方法も載っていた。内容は単純だった。


 羅生門のところへ行き、兜跋毘沙門天とばつ びしゃもんてん(鬼神を封印している仏教の護法善神)と書いた紙を2つに折って破り、2拍手、2拍手、9拍手をし、


『この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば』


 と、俳句を読むだけだ。なぜ2つに折って、2拍手と9拍手なのかと言うと2は神道において、つながり(ここではあの世とこの世)を表し、9は神を表すかららしい。

兜跋毘沙門天と書いた紙を2つ折りにして破ることで兜跋毘沙門天と鬼神のつながり、封印を断ち切り、拍手によってこの世とあの世のつながりを強くさせて鬼神をこちらへと呼び戻せる準備をし、そしてもちろん藤原道長の俳句で、藤原道長を餌にしておびき寄せるためらしい。


 俺はお母さんの仇討ちのためならなんでもする覚悟があった。

 

 封印の解き方をおさらいしたあと、すぐさま行動に移した。兜跋毘沙門天と前もって書いてきた札のように細長い紙(札のほうが効果がありそうだから。)を2つに折り、ビリビリに破り捨てた。そして2拍手、2拍手、9拍手としっかりと音を響かせ、


「この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」


と唱えた。すると辺りは赤い雲に包まれ何やら鬼のようなものが羅生門跡の石碑の下から這い上がってきた。

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