第8話 一方その頃
「俺様の美技に酔いなぁ! 必っ殺ぅ! レッドスターファントムゥウウウ!」
かなりアレな掛け声とともに、李亜夢は華麗なドリブルでディフェンスを抜きダンクを決める。
「はっはぁ! 見たか王子! 北高の赤い彗星とは俺様の事だぜ!」
見せつけるように前髪をかき上げる。
口だけではなく、この試合で李亜夢は一人大量得点をあげていた。
それでも王子は余裕の表情である。
「得意になっている所悪いが、勝っているのは僕の方だぞ」
点差で言えばほぼ倍だ。
活躍しているのは李亜夢だけで、それ以外まったく点が入っていない。
「う、うるせぇ! そんなもんそっちの味方がツエーだけだろ! てめぇの実力じゃねぇ!」
「だからお前は僕に勝てないんだ」
「あぁ!?」
「チームの戦力は公平だ。バスケは一人でやるスポーツじゃない。確かにお前は三人分の働きをするが、それ以上にチームの輪を乱している。僕は仲間の力を信じ、チームプレイで何倍にも増幅させている。その差がコレだ」
あっさり論破され李亜夢が悔しがる。
「ぐぬぬぬぬ……。だからどうした!」
「どうもしないが。勝つのは僕だ」
「いいや、俺様だ!」
「なんでそうなる……」
「試合に負けて勝負に勝つって言葉知らねぇのか? 確かに点数じゃ負けてるが、お前のプレイには華がねぇ! そんなんでモブ子のハートを射止められると思うなよ!」
「ッ!? それは、確かに……。クッ!? 僕としたことが! 誤算だった……。いやしかし、花子さんはそんな上辺の派手さだけで男を判断するような人じゃないはずだ……」
「はっ! そいつはどうだかな? 知らねぇだろ王子! 女の間じゃバスケ漫画はか~な~り~人気があるんだぜ!」
「なん……だと……?」
「そんでモブ子は見るからにオタク女だ。これでも俺様は大勢の女と付き合ってるからな! 雰囲気でわかるんだよ雰囲気で! お前みたいな地味プレーより俺様みたいな派手なプレイの方がずぇえええったいモテるね!」
「……なるほどな。やっぱりお前は僕の幼馴染だ。油断ならないライバルだ。少しだって気が抜けない。恐ろしい男だよ」
「そうさ。今更気づいたのか?」
「いいやまさか。再認識しただけだ。ならば僕も本気を出す。花子さんの為ならば己を捨て、限界をも超えてみせる! 綺麗ごとはやめだ。ここからは花子さんの為だけにゴールを追うぞ!」
「………………おいおい、マジかよ」
明後日の方向を見て李亜夢がポカンと呆けている。
王子は困惑した。
李亜夢が彼以外の事柄に目を奪われる事など初めてだ。
「どうした。李亜夢……はっ、花子さん!?」
いつの間にか、女子のコートが凄い事になっていた。
「もう終わりですか?」
「いやああああああ!?」
「ごめんなさい!? 降参するから許して!?」
「私達が悪かったです!?」
見た所ドッジボールをやっているようだが。
相手コートにゴリラみたいな女子が鼻血を出してひっくり返っていた。
その周りでは、沙羅の取り巻きの女子達が土下座の恰好で泣きわめいている。
外野はみんな腰を抜かして唖然顏。
花子は血の付いたボールを指先でクルクル回しているのだが。
ゴムで括った頭髪の下はがっつり刈り上げられていた。
「……これは一体、どういう状況なんだ?」
「わかんねぇけど……。なんなんだよあの頭。どえれぇクールじゃねぇか!?」
「……あぁ。よくわからんが、それには僕も同意する……」
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