第6話 悪役ギャルを攻略せよ
(ハイどうぞ。ってデニュラハンじゃないんだから! というボケを思いついてしまった)
内心でニヤニヤしつつ、絶対伝わらないし滑るので口には出さない。
「イヤですけど」
即答する花子を不満そうにギャルが睨みつける。
「はぁ? あんた、あーしが誰だかわかってんの?」
(めんどくせー)
李亜夢といい、どうしてこの手の連中はこちらにキャラ紹介をさせようとするのだろうか。
(知ってるから良かったものの、知らなかったらお互いに気まずいじゃんか)
いっそわざととぼけてやろうかと思いつつ、実際にやったら余計に面倒になるだけなので空気を読む。
「女子グループのボス猿の牧野さんでしょ」
下の名前は
気の強い目立ちたがりの仕切りたがりの群れたがりで、いつも取り巻きを引き連れて威圧的な雰囲気を放っている。
典型的な自分が中心じゃないと気が済まないタイプである。
だからまぁ、その内絡んでくるとは思っていた。
「はぁ!? 誰がボス猿だし!?」
「違う違う。ボス猿じゃなくてボス役って言ったの」
「……ならいいけど。紛らわしいからぼそぼそしゃべんなし!」
聞き違いを恥じつつも、その責任を花子に押し付けるように沙羅が言う。
「へへ、サーセン……。陰キャなもんで」
こいつバカだなぁと思いつつ、花子は陰キャぶってみた。
「キンモッ。なんで王子様がこんな奴好きになるのか意味わかんないし」
「牧野さんもそう思いますよね。あたしも困っちゃって。あたしに白馬乃さんは部不相応って言うか恐れ多いって言うか。絶対なにかの勘違いだと思うんですよね」
花子は被害者面ですり寄った。
なにが面倒ってこの手の女子のいざこざに巻き込まれるのがいっちばん面倒くさい。
とはいえ、目を付けられてしまったものは仕方ない。
あとはいかにダメージをコントロールするかだ。
幸い沙羅はバカっぽいので、言いくるめるのは難しくなさそうだ。
「そうだし! モブ子に王子様は勿体ないし! それと李亜夢も!」
「赤星さんはただの遊びですよ。ライバルの白馬乃君が必死になってるからちょっかい出してるだけ。あんなイケメンがあたしみたいなモブ顔地味子を本気で好きになるわけないじゃないですかー(笑)」
流暢に愛想笑いを浮かべると、沙羅はペースを崩されたらしい。
「……まぁ、分かってんならいいんだけどさ」
「勿論です! あたしは冴えないモブ顔の地味子なので。その辺はちゃんと弁えてますから。白馬乃君とお付き合いする気なんか全くないですし、彼もその内勘違いに気づくんじゃないかと」
「だといいんだけどね……」
大きな胸の上でモジモジと、不安そうに沙羅が指先を突き合わせる。
それで花子はピンときた。
「牧野さん、白馬乃君の事が好きなんですか?」
「ふぁ!? な、なんで分かったし!?」
(誰が見たってバレバレだろ)
と思いつつ。
「女の勘ですかね。なんでもいいけど、応援しますよ? 牧野さんと白馬乃さんが付き合ったら絶対お似合いのカップルになると思いますし」
「嘘!? マジ!? 本当にそう思う!?」
(うっは、こいつマジちょれ~)
チョロすぎて可愛く感じる程である。
「思います。マジ思う~、みたいな?」
調子に乗ってギャルぶってみたら少し滑った。
(死にたい……)
内心の絶望を隠しつつ、花子はコホンと仕切り直す。
「とにかく。あたし達って協力し合えると思うんですよね。あたしは平穏を望んでて、牧野さんは白馬乃さんが好き。あたしが白馬乃さんに取り入って牧野さんに情報を流すというのはどうでしょう。それで牧野さんが白馬乃さんとくっついてくれたらお互いにWIN―WIN」
「ぇ、いいの?」
沙羅は乙女チックな顔で胸を押さえた。
(ふ~ん。可愛いじゃん)
などと思いつつ、この調子なら沙羅は篭絡出来そうだ。
友達とか面倒なので出来れば無用な交友関係は広げたくないのだが。
今後のリスク管理の為にもボス猿を味方に付けておくのは有用だろう。
「むしろこちらからお願いしたいくらいです。その代わり、他の女子から守ってくれると嬉しいな~、なんて……」
「それくらいお安い御用だし! てかモブ子、今まで喋った事なかったけど実はめっちゃイイ奴じゃん!」
「へへ、人見知りなもんで」
「そう? あんまそんな感じしないけど。てかあ~しの事は沙羅でいいし! あ~しらもう友達じゃん?」
(いやそこまで近づきたくはないんだよなー)
友達になんかになったら連れションやら放課後マックやら面倒な付き合いが発生する。
出来ればそれは回避したいが、それは今後の課題という事でいいだろう。
「いいんですか? あたしみたいなモブ顔地味子が友達で……」
「いいのいいの! てか、一度会ったら友達で毎日会ったら兄弟じゃん?」
(いやそれ世代じゃなくね?)
ともあれこれで攻略完了。
あとは挨拶代わりに一緒に昼飯を食べる流れか。
(やだなー。まぁ、取り巻きは気に入らないだろうから、そこを上手くつつけば昼飯イベントは最低限に抑えられるか)
なんて思っていたら。
「待ってよ沙羅! あんた絶対騙されてるって!」
取り巻きの一人が待ったをかけた。
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