第5話 悪役ギャル襲来
昼休みになった途端、二人のイケメンがよーいドン! のノリで花子の所に駆けてきた。
「花子さん! 一緒にお昼食べませんか!」
「よぉモブ子! 俺様と一緒に昼飯を食わせてやるぜ!」
「間に合ってます帰って下さい」
かなり食い気味に花子は言った。
この二人、四時間目の終わり間際からソワソワしていて、お昼を一緒に食べようと言い出すのは目に見えていた。
「そうですか……。って李亜夢!? なに勝手に花子さんの向かいに座ってるんだ!?」
手ぶらの王子と違って李亜夢は椅子を持って来ていた。
「はっはぁ! 甘いぜ王子! このモブ子が大人しく一緒に昼飯を食うわけねぇだろ! こういう女は強引にいかねぇとな!」
「だからって!? ズルいぞ!? 迷惑だし!? おい!? 勝手に弁当を並べるな!? 花子さんも困ってるだろ!?」
「別に困ってないですよ」
「「「えっ!?」」」
二人どころか、教室中の生徒が驚いた。
「そ、それって、つまり……」
「モブ子……。お前やっぱり、俺様の事が好きなのか!?」
「ちが――」
否定する前に錯乱した王子に襟首を掴まれる。
「嘘だ!? 嘘だと言ってくれ花子さん!? 他の相手ならともかく、よりにもよってこんな奴!? 君の気持ちは尊重したいが、こいつは酷い遊び人だぞ!? 彼女だって沢山いて、とっかえひっかえしているんだ!? その癖李亜夢は案外奥手で付き合うなんて口だけでほとんど相手もしないだ!? そういう意味では根は悪い奴じゃないんだが――」
「あぶ、あぶぶぶ――」
「お、おい王子。ちょっと落ち着けよ……。モブ子の首
流石の李亜夢もドン引きなのだが、王子の耳には届いていないらしい。
「――それでも君の相手にはお勧めしない!? だって本気じゃないし! というかなぜ僕じゃダメなんだ!? 僕はこんなに本気だぞ!? チャラついた男がタイプなのか!? そうならそうと言ってくれ!? 明日までにイメチェンしてくるから――」
「だぁ!? 違うって言ってんでしょうが!?」
「グハーッ!?」
たまりかねた花子のグーパンが王子の顔面に炸裂する。
「ぁ。やべっ」
「この女、王子の顔を殴りやがった!?」
流石の李亜夢もドン引き(二回目)である。
クラスの女子も青ざめて、一斉に花子を糾弾しようとするが。
「違うのか!? ならば良し! 勘違いしてすまなかった!」
王子が起き上がりこぼしみたいな勢いで戻ってきて、その上狂気的な笑みで目を爛々とさせているので誰も何もいえなくなった。
「ぁ、はい……」
「ちなみにどういう意味で違うのかな?」
ニッコリと爽やかに。
けれど目の奥は全く笑っていない。
(……ヤンデレだ。こいつ、イケメンの癖にヤンデレだ!?)
花子の肌にブワッと鳥肌が立った。
扱いを間違ったら君を殺して僕も死ぬとか言い出しかねない。
そんな凄みを感じた。
「あたしの机で食べたいのならご自由に。他所で食べますので」
弁当を手に持つと花子は立ち上がった。
「なるほど。そういう事か」
「なるほどじゃねぇだろ!? 俺達二人ともふられてんだぞ!? それでいいのかよ!?」
「花子さんが僕以外の男と一緒にお昼を食べるのは許せないが、そうでないのなら問題ない」
「心が広いんだか広くなんだかわからねぇなそれ」
「いや普通にストーカーの心理でしょ……」
「はっはっは。純愛と言って欲しいね!」
爽やかな笑みを浮かべる王子に確信する。
(ヤベー。こいつイケメンの皮被ったサイコパスだわー)
それなのにクラスの女子達は例によって。
なによあの女!
モブ子の癖に!
といきり立つから困ってしまう。
変われるものなら喜んで変わって欲しい花子である。
「俺は認めねぇぞ! この俺様の誘いを断るんだ! それなりの理由があるんだろうな!」
「それはまぁ……」
めんどくせーと思いつつ、花子は理由を説明した。
「いいですか、赤星さん」
神妙な顔で人差し指を立てる花子に、李亜夢がゴクリと唾を飲む。
「花子さん。それなら公平に僕の名前も呼んで欲しいのだが」
マジでめんどくせーと思いつつ、花子は王子の名前も付けたした。
「アンド白馬乃さん」
「あぁ……」
「いや、それでいいのかお前は?」
幸せそうな王子に李亜夢がツッコむ。
花子もそう思った。
それはともかくとしてだ。
「あたしの尊敬する人が言っていました。モノを食べる時は誰にも邪魔されず、自由で救われてなくちゃダメなんだと。独りで、静かで、豊かで。あたしもそう思います」
王子はキョトンとすると感心するように頷いた。
「……なるほど。初めて聞くが、深い言葉だ。まるで花子さんの生き様を表しているような……」
「どこがだよ!? まんま漫画の台詞じゃねぇか!?」
「そうなのか!?」
「そうですけどなにか?」
「いや、僕は特に異論はないが……」
お前が言い出したんだろと言いたげに王子が李亜夢に視線を投げる。
李亜夢は勝ち誇った顔でニヤリと笑った。
「なるほどな。つまりモブ子はオタクなわけだ」
どうやらそれでマウントを取ったつもりらしい。
花子はニコリともせず言い返した。
「そうですけど、なにか?」
「な、なにかって言われると困るけどよ……」
王子も空気で李亜夢が花子をバカにしようとした事は感じたらしい。
「というか、漫画ならお前だって読んでるだろ。ゲームだってやってるし。そういう意味なら李亜夢だってオタクなんじゃないのか?」
窘めるような口調で言う。
「は、はぁ!? 俺はオタクじゃねぇし! てか、今時漫画とかゲーム興味ない奴の方が珍しいだろ! これくらいじゃオタクとは言わねぇよ!」
「なら花子さんもオタクじゃないな」
「うっ……」
「というかあたしの台詞の元ネタが分かる時点で赤星さんも同族なのでは?」
「ううぅ……」
負けを認めたのか、がっくりと李亜夢がうな垂れる。
「同族というのは聞き捨てならないな。花子さんがオタクなら僕もオタクになる!」
「面倒なので勘弁してください!」
「なぜだ!? 好きな人と同じ物を好きになりたいのと思うのは自然な事だろう!?」
「白馬乃さんがやると多方面に角が立つんです! オタクになるのは勝手ですけど、あたしを理由に使わないで下さい!」
「しかし……いや、その通りか。だが、僕の行動原理に花子さんが絡んでいるのは事実なわけで……。花子さんが理由になるのは不可避なのではないかと……」
プシューと煙を噴きながら王子が頭を抱える(イメージ)。
「お前はロボットかっての……」
「とにかくあたしは行きますので。あとはお二人でしっぽりやって下さい」
「おう……。ってしっぽりってなんだよ!? てかどさくさに紛れて逃げるんじゃねぇ!?」
「ドロン!」
ニンジャのポーズ(煙なし)で立ち去る花子。
追いかけようとする李亜夢を王子が引き留める。
「待て李亜夢。さっきの台詞の元ネタはなんという漫画なんだ?」
「孤独のグルメだよ! そんな事より――」
「まぁ待て。他にも花子さんが好きそうな漫画があったら教えてくれ」
「俺が知るかよ!?」
「分からないだろ? 何事にも流行りという物はある。生憎僕はそういうコンテンツには疎いんだ」
「……だとしても。なんで俺がお前を助けてやらなきゃならねぇんだ。一応俺達、モブ子を狙って争ってんだぞ」
「頼む。幼馴染のよしみだ。こんな事、お前意外には頼めない」
大真面目に告げる王子に、李亜夢は満更でもない笑みを漏らした。
「……チッ。仕方ねぇ! めんどくせぇけど、お前がそこまで言うなら教えてやるか!」
「恩に着る」
二人のやり取りにクラスの女子がキャーキャーと色めき立つ。
「……そういうのは悪くないですね」
花子も入口からチョコンと顔を出して覗いていた。
「うるせぇ!? 行くんならとっとと行けよ!?」
「言われなくてもスタコラサッサです」
そうして教室を後にするが、実はノープランだった花子である。
果たしてどこでお弁当を食べたらいいのか。
トイレは嫌だ。
便所飯が許されるのはフィクションのみ。
あんな所では救われない。
食堂は煩さすぎるし変な奴に絡まれそうだ。
屋上は封鎖されている。
というか普通に考えて教室と食堂以外にお弁当を広げられる場所なんか存在しない気がする。
それこそ、便所飯を除いては。
「……帰るか」
それも視野に入れるべきかと思った頃。
「おいモブ子。ちょっと顏貸しな」
怖い顔をしたクラスメイトの金髪ギャルが、取り巻きを引き連れて花子の前に立ち塞がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。