第2話 この素晴らしきモブライフにさよならを
あんなに賑わっていた放課後の教室が水を打ったように静まり返った。
花子は混乱して、ポカンと大口を開けて王子の尊顔を見返している。
「……え? あれって、本当に白馬乃君が書いた奴だったの?」
「そうですよ! そう書いてあったでしょう? 放課後に仲良し公園の伝説の休憩所で待っていますとも! 僕は、ずっと待ってたんですよ!」
王子の言葉に女子達が悲鳴をあげる。
仲良し公園は学校の近くにあるそこそこ大きな児童公園だ。
そこには小高い丘があり、頂上には屋根付きの小さな休憩所がある。
近隣の学校では有名な告白スポットで、そこで告白に成功したカップルは将来結婚できるという眉唾物の伝説がある。
「それはごめんだけど……。てっきりイタズラかと思って……」
「僕は本気です! 本気で花子さんが好きなんです! この一年ずっとあなたを見ていて気付きました! だからその、僕の彼女になって下さい!」
阿鼻叫喚のクラスメイトも気にせずに、王子がお辞儀の姿勢で右手を差し出してきた。
(おいおい、マジかよ!)
嘘告という可能性はない。
彼はそういうタイプではない。
そういう人間の邪悪さとは真逆の位置にいる、眩い程に正しい人物だ。
ほとんど面識のない花子から見てもそれは確かな事だった。
学校一の人気者の、モッテモテのイケメンの、彼氏にしたい男子ダントツ一位の白馬乃王子が、ガチにマジに告白している。
こんな幸運、一生に一度だってあり得ないレベルだろう。
答えなんか考えるまでもない。
「イヤですごめんなさい」
ペコリと花子が頭を下げる。
「「「はぁぁぁぁぁああああああああああ!?」」」
二人以外の全員が同時に叫んだ。
「王子の告白断るとか!?」
「ありえねぇだろ!?」
「どうかしてんじゃないの!?」
ブーイングの嵐に晒され、まぁそうなるだろうなと肩をすくめる。
でも仕方ない。
イヤなものはイヤなのだ。
「……何故ですか」
顔をあげると、呻くように王子が聞いた。
花子も女だ。
超絶イケメンが心の底から浮かべる苦悶の表情には萌える物がある。
が、それはそれ。
これはこれである。
「何故って言われても……。あたし、恋愛とか興味ないので……」
そう言うと、花子はそそくさと席を立った。
呆気に取られるクラスメイトを尻目に、足早に教室を出る。
「……まいった。なんでこんな事に? あたしがいったい何をしたってのよ……」
花子は地味で冴えないモブ顔の自由人だ。
誰にも顧みられず、一人で楽しくお一人様ライフをエンジョイしていた。
彼氏なんか作ったら、どう考えても面倒くさい。
しかも相手はあの王子様!
ここで断るリスクを加味しても、付き合う方が大変だ。
「……まぁ、しばらくは騒がしいだろうけど、その内みんな忘れるでしょ」
なんて思っていたら。
「花子さん! 僕は諦めませんから!」
廊下に出てきた王子が叫んだ。
その言葉に、周囲のモブ達がギョッとして花子を見つめる。
(いやいやいや!? モブはあたしのはずでしょうが!?)
いきなり当たったスポットライトに、花子は困惑するばかりである。
†
「……へぇ。モブ子の癖に王子の告白断るとか。おもしれー女じゃん」
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