モブ顔地味子のあたしが学校一のイケメンの王子様の告白を断ったら急にモテだして困る話。

斜偲泳(ななしの えい)

第1話 モブ子と王子様

「なんじゃこりゃ」


 ある日の放課後。


 下駄箱を開けたら真っ赤なハートのシールで封がされた白い便箋が入っていた。


 見た所ラブレターのようだけれど。


「ははん。さては入れる相手を間違えたな」


 名探偵の推理が光る。


 彼女の名前は山田花子。


 モブ顔地味子な高校二年生だ。


 これまで一度もモテた事がないし、これから先もモテる見込みなんか全くない。


 そんな自分がラブレターを貰うわけがない。


 つまりこれは間違いだ。


 Q.E.D。


 証明終了。


 絶賛映画公開中の大人で子供な名探偵でなくても分かる簡単な推理である。


「そうと決まれば、優しい花子さんが正しい相手の下駄箱に再配達してあげましょうかね」


 花子は便箋を改めた。


 残念ながらこちらには情報なし。


 仕方ないので爆弾処理班の如く慎重な手つきでハートのシールを剥がし中身を確認する。


 他人の手紙を勝手に見るのはマナー違反だが、事が事なのだから仕方ない。


 安心されよ。


 花子の口はオリハルコンより硬い故。


 この秘密、墓場まで持っていくとここに誓おう。


「って、あたし宛? しかも差出人は……」


 学校一のイケメン王子こと、同じクラスの白馬乃王子はくばの おうじである。


 いやどんな名前だよと突っ込みたくなる花子だが、自分だって手続き書類の見本みたいな名前だから人の事は言えない。


 きっと彼の親も子供の名前でウケを狙いに行く残念なタイプなのだろう。


 ともあれ王子は人気者だ。


 その辺の美少女が裸足で逃げ出すツヤツヤサラサラのしなやかヘア、細い輪郭に優しくもハッキリとしたイケメンすぎる容姿、男らしくもむさ苦しくない清潔感溢れる体躯と雰囲気。


 花子が数合わせで神様が3秒で作ったモブ顔地味子だとしたら、王子は一週間かけてキャラメイクしたお気に入りのメインキャラといった風。


 ただそこに立っているだけでキラキラトーンが花吹雪のように舞い散りそうな、オーラ溢れる美男子である。


 中身だって一級品で、成績優秀、品行方正、スポーツ万能と絵にかいたようなハイスペだ。


 女子は勿論男子からの信頼も厚い大人気の王子様。


 そんな彼が地味で冴えないモブ子のあたしにラブレターを出すなんて。


 しかも半紙に筆って。


 果たし状じゃないんだから!


 なんにしたってこれはない。


 どう考えても有り得ない。


 つまりこれは――


「イタズラですな」


 誰だってそう思う。


 花子だってそう思った。


 見え見え過ぎて怒りも湧かない。


 捨てようかとも思ったが、万が一にも誰かに見られたら面倒くさい。


 暇を持て余した馬鹿者達が騒ぎ出すだろうし、王子様にも迷惑がかかる。


 花子は地味で目立たない自由気ままなモブキャラライフを気に入っている。


 なのでそっと鞄に忍ばせて、何食わぬ顔で帰宅して燃えるゴミにさようならだ。


 そして翌日。


「おいおいマジかよ」


 下駄箱を開けると見覚えのある便箋が。


「呪いの手紙じゃないんだからさぁ……」


 ご丁寧に作り直したのだろう。


 一度ならず二度までも。


 まったく、世の中には度し難い暇人がいたものである。


 人間の愚かさに呆れつつ、こんなものは昨日と同じ。


 鞄に入れて帰ってポイだ。


 相手の方が大変なのだから、無視していればその内飽きるだろう。


 と、思っていたのだが。


 翌日も。


 また翌日もラブレターが入っていた。


 しかも日に日に中身が厚くなっているように感じる。


 ……こっわ!


 いやマジで、どんだけ暇人!?


 花子は冴えない地味子である。


 影のように目立たずにひっそり自由を謳歌してきた。


 好かれる事はないけれど、嫌われるような覚えもない。


 それなのに、なんでこんなに粘着されるのか。


 まぁ、実害があるわけではないので言う程の事でもないが。


 気持ち悪いのは確かなので中身は見ずにゴミ箱行きだ。


 そんな事を一週間程繰り返したら……。


「花子さん! どうして僕の告白を無視するんですか!?」


 帰り支度をする花子の元にやってきた。


 みんなの憧れ、学校一のモテ男、イケメン王子の白馬乃王子が。

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