帰宅
父が去った後。
「んーっ、はぁー」
僕はその部屋で大きく背を伸ばした後に立ちあがる。
「なんか肩透かしを食らった気分だ」
想像をはるかに超えて何もなかった。
こんな簡素な一つの話だけで終わるとはまったくもって思っていなかった。
予想外にも程がある。
「まぁ、良いけどね」
だが、それによって何か僕が不利益を被る訳ではない。
気にすることはないだろう。
「帰るか」
僕は自分の家へと帰るために部屋を出る。
ちょうどそのタイミングで。
「有馬にぃっ!」
自分の位置を嗅ぎつけてきた咲良の方が僕の前へと現れる。
「大丈夫っ!?何かされたりしていないっ!?」
そして、そのまま彼女は僕の体の様子を見ながら心配そうな声をあげる。
「いや、別に特にはされていないよ。この通り、怪我とかもないさ」
僕は心配する咲良に対して、特に問題なことを告げる。
「それならよかったぁ」
「本当にそうだね。僕もここまで何もないと思っていなかったから少し、肩透かしを食らったよ」
「それはいいことじゃないっ!そ、それで?今日はこの後、有馬にぃはやることとかあるかな?久しぶりの稽古とかぁ」
「んー、無理かなぁ。僕も僕でやらなきゃいけないこともあるし」
「……んっ、そっかぁ」
僕の言葉を聞いた咲良のテンションが露骨に下がっていく。
申し訳ないけど、こればかりは仕方ない。
僕には自分の人生があるもので。
「ところで、そのやらなきゃいけないことって何なの?」
「ん?あぁ、自分の同居人である神楽の昼食を作らなきゃいけないんだよ。あいつの家事センスは終わっているからね」
僕がご飯を作ってやらないと、神楽はパスタをゆでもせずにそのままバリバリと食べ始める。
そんな奴を昼時に一人には出来ないだろう。
今日は学校に行くときと違って、特に昼食を用意していってもないし。
「……は?」
「それじゃあね」
「ちょっ!?まっ……有馬にぃぃぃぃいいいいいいい!!!」
僕は良い記憶も悪い記憶もあるずいぶんと懐かしい自分の生家を離れ、自分の家へと向かっていくのだった。
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