父の話

 本題に入るよう促した僕の言葉。


「そうだな」


 それに父も頷き、口をゆっくりと開く。


「今、陰陽界が揺れているのはお前も知っているだろう。当事者であるわけだからな」


「……えぇ」


 不本意ながら話題に中心へと立たせられているね、僕は。


「それを向こうも察した。向こうの方が今こそ好機として動き始めている。ここまで言えばわかるだろう?」


「自分も戦力になれと?」


「あぁ、そうだ」


「それはちょっと虫のいい話じゃないですか?僕は貴方の手で追い出された身なのですけど」


「お前に頼む範囲は学園周りだ。普段、学園の方に留学生として通っているだろう。そこで怪魔による攻撃を受ければ矢面に立てばいい」


「……」


 父上は至極全うだと思われる僕の言葉を完全に無視してさっさと話を進めていく。


「別に学園に関してはわざわざ僕が動かなくとも、早紀の方が何とかするでしょう?」


 別にありとあらゆる盤面で早紀に物事を任せておけば大まかなことが解決する。

 僕が怪魔に寝返ったりはしなければ。

 学園には早紀も通っているのだから、別に彼女の方に丸投げしておけば問題ないと思うのだが。


「あの年齢で我ら陰陽界の名をほしいままがとしている彼女にはやることが多いのだ。既に早紀は別のところに派遣されているし、ベテランの教師陣も同様だ。お前が一番だ」


 なるほど。

 確かにその状況であれば僕に頼むが手っ取り早いだろう。


「……本当に僕でいいので?」


 ただ、一つの大事なことが抜けていないだろうか?」


「立場的に」


 僕は若者から多くの支持を集めかけてしまっている最中である。

 そんな僕が学園のみんなを守ったりでもしたら、その論調が増えていかないだろうか?そうなれば双方共に良くないと思うのだが。

 父上の立場でも僕が強くなるのは不味いだろう。


「何が問題なのだ?任せてぞ、話はこれで以上だ。私はこれで失礼する。私はしばし、家を離れる。家の人間とある程度触れ合うのは認めるが……私が帰ってくるよりも前に帰っていろ」


「えぇ……?」


 だが、父上は僕の言葉をまともに取り合わずにさっさとこの場を去ってしまうのだった。

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