来訪客

 自分にとって憂鬱だった生家への帰郷。

 それを終えて帰ってきた僕を出迎えるのは当然、自分の婚約者として常に家の中にいる神楽である。


「なるほど、大した嫌味とかもなかったんだねぇー」


「そうなんだよねぇ」


「まぁ、良いことじゃない?ないならないに越したことはないでしょう?」


「そうだけど、ちょっと不気味じゃない?あの父がいつもと違う挙動を見せるなんて……結構、というかかなり怖いんだよね、正直のところ」


「まぁ、確かにそうね。いつもと違うところがあったら不気味かも」


「でしょー?」


 家の中に帰ってきた僕は昼食を作りながら、今日あったことを神楽へと共有していた。


「それに、なぜかは知らないけど神楽との婚約話も止められたしな」


「うう゛ん。ち、ちなみに……何で、そう言われたのか聞いても……?やっぱり私の家?」


「いや、違うと思うよ。父と結婚した母も普通の一般家出身だったからね。問題はそこじゃないと思う。ただ、今の情勢下で僕が力を持つのを避けたいんだと思う」


 あの言い方だとおそらくはそうだと思う。

 小さな家とはいえ、僕が権力を直接に握ることを恐れているような節があると思う。

 まぁ、今の情勢下のことを考えると当然の結果だろう。僕を次代の権力者にでも据えたいのだとしたら別だけどね?


「だから、少しだけ後になるかな、結婚するのだとしたら」


「そ、そぉ、かぁ……ふふっ」


 現状だと、僕が結婚する相手の最有力候補は神楽だからね。

 彼女には自分の事情もしっかりと共有しておいた方がいいだろう。

 そんな話をしていた頃。


 ピンポーン。

 

 僕たちの家のチャイムが実に久しぶりに音を鳴り響かせる。

 

「んっ?」


「何かしら……?」


 誰だ?早紀ならばピンポンなど無しで上がってくる不届き者だと思うのだが。


「一応火を見てて、燃えたら水かけちゃって」


「う、うん」


「それだけでいいからね」


「それだけなら出来るよ」


「なら良し」


 そんなことを考えながら、料理中のコンロを神楽に任せた僕はチャイムのなった玄関へと向かうのだった。

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