家に来た僕が何をするか。

 それは端から決まっている、自分の父親へと会いに行くのだ。

 という訳で僕は今、玄関の方から父親が待っているであろう部屋の方に廊下を通って移動していた。


「……ぶすぅ」


 自分の隣にいる随分と不機嫌そうな咲良と共に。


「……はぁー、父親に会うとか絶対面倒事になる。もうわかっている」


 そんな中で、僕は歩きながら深々とため息を吐く。


「……有馬にぃ、別にあんな父親の言うことなんて従う必要ないんじゃない?嫌なら会いに行く必要なんて」


「もはや僕はこの家の人間じゃないけど、それでも自分の母はこの家の所属だからさ、ちゃんと言うことはある程度従っておかないと……墓参りとかさせてもらえなくなっちゃうからね」


「……えっ?お墓参り、来ているの?有馬にぃ」


「命日の早朝にね。まだ日がない中で一人、手を合わせてはいるよ」


「言ってよ。一緒に手を合わせたかった」


「そっちはそっちでやっててよ」


「むぅ……父上めぇ、あいつ、何処かで野垂れ死ねっ!」


「自重しな、自重。過激になっているよ、本当に」


「ふん!父上への態度なんてこれでいいんだよっ!まったくもぉー、信じられないよ!父上は!私たちに見つからないように、巧妙な形で児童虐待までしててさー!」


「僕だからね。別に問題ないから怒ることじゃないよ」


「それでも怒るよ!信じられないじゃないっ!」


 僕の隣で、自分の代わりに咲良がぷりぷりと大きな怒りをあらわにしていく。

 そんな彼女の横で僕は苦笑しながら廊下を歩いていく。


「それじゃあ、咲良」


「んっ?」


「そろそろ父上が待っているであろう部屋が近づいてくるから君はここまでね」


「えっ……?何を言っているの?おにぃ、私が最後までついて行くに決まっているじゃないっ!」


「駄目、僕と父上との話だし。君を巻き込むつもりはないよ」


「もぉー!その態度がダメだってぇ!ちょくちょくおにぃは私のことを助けてくれるけど、こっちの方は何も出来ていないじゃないっ!」


「僕には頼れるだけ頼っておけばいいのさ。それをこなせる広さがあるから……ということで、それじゃあ」


「あっ!ちょぉっ!」


 端から素直に咲良が頷いてくれるとは思っていない。

 自分の目的地よりもかなり早い段階で咲良を撒くのだった。

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