手紙
うめき声をあげている神楽の手にあるもの。
それは一つの手紙が添えられた一つの箱であった。
「どこからの?」
「……阿野家。私の、生家だね」
「あぁー、あそこか。あそこがうちに送ってくるとか何を?」
「……見てみる」
神楽は若干声を震わせながら手紙へと手を伸ばし、それを広げる。
「……ん?」
そして、手紙を読み始めた神楽の表情が怪訝そうになるのは実に早かった。
「いや……ちょっと私が想像していたものと大きく違ってて。もっと、こう……ちゃんとスパイ行為をしろだとか書かれていたのかなぁ?って思っていたんだけどぉ」
いや、うちにスパイ行為を頑張れとか書いてあるわけないだろ。馬鹿か?
「貸して」
内心で神楽の言葉にツッコミを入れる僕はそのまま彼女から手紙を強奪する。
「ふむ」
そして、そのまま手紙の内容に素早く目を通す。
「あぁー」
手紙に書かれていた内容。
それは僕と神楽の婚約を祝するような内容だった。
「不思議でしょー?婚約を祝う内容の手紙とかすっごい今更だし……」
「いや、すごく妥当な内容だよ。この手紙が言いたいことはつまるところ、お前をスパイから解任するってことだ」
「えっ……?」
「んで、そのまま完全に、神楽を僕の婚約者にしようとしているね。正式な形で結婚させる気満々だな。こりゃ。明日にでも、結婚式はいつやるのかを尋ねる手紙が来てもさほど不思議じゃない。これは、完全に家として僕を取り込みに来たな。目的としては僕を婿に迎え入れることか?」
「婿っ!?正式な結婚っ!?」
「もとより婚約者という設定でお前はここにいるんだから妥当なところでしょ。うまくお前を使ったな」
僕を取り込むという上でこれ以上ないほどにスマートなやり方だ。
普通に僕が神楽を婚約者として扱っていることは……うーん。特に深く考えずに神楽を婚約者として紹介したけど、今考えれば割とうかつだったな。
阿野家から送られたきた手紙に目を通す僕はそんなことを考えるのであった。
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