婚約者のこと

 婚約者がいる。

 そう告げた僕の言葉に対して、コメント欄はかなりざわめきたっていた。


 コメント

 ・えっ?マジに婚約者おるの?

 ・うっそー、えっ?本当に婚約者いるの?

 ・えっ?えっ?えっ?

 ・高校生のうちで既に婚約者いるんだ。


 そのざわめき具合は何なら僕が色々なことを暴露していた時以上のものだった。


「えぇ……?そんな驚くことかね?」


 コメント

 ・婚約者……婚約者……婚約者かぁ。

 ・えぇ……?

 ・ガチ恋勢死ぬやろ、こんなの。

 ・ちょっ、紹介してよ!


「いいよ。いつも家におるし」


 紹介して。

 そのコメント欄を拾い上げた僕は席から立ち上がる。


「神楽ぁーっ!」


 そして、防音室となっている部屋の扉を開けて大きな声をあげる。


「はーい、なぁーに?」


 そんな僕の言葉を受けてドタバタと神楽が近づいてくる。

 

「今、配信しているからさ」


「……いや、配信なら私の本名」


「別にいいだろ、お前。家から出んやろ、まず」


「そ、そんなことないしぃ!?」


「前回、家出たのっていつよ?」


「……」


「そういうことやろ」


 別に神楽の個人情報など守る必要ない。

 だって、彼女は僕の家からデモせず、家に引きこもり、自分と早紀以外と会うことはない存在なのだから。


「ということでみんな、こいつが僕の彼女」


 コメント

 ・おぉー。

 ・……年増じゃん。

 ・へぇー。

 ・こんなブスでいいの?


「……なんか、私へのアンチコメ多くない?」


 僕の隣で同じ画面を見ている神楽は疑問の声を上げる。


「そりゃまぁ、僕にもガチ恋勢というのはいるからな」


 SNSとか、結構自分の祭壇?とかいうのを作っているのを見かける。

 僕は別に神ではないので、祭壇なんていらないのだが……まぁ、うちのファン層が勝手にやっている分には僕が関わることはない。


「邪魔なんだろう。お前の存在が」


「そんな物騒な人達の前に私を出さないでよ!?」


「負けんなよ」


「私は落ちこぼれなのよっ!?何があってもおかしくないわっ!」


「威張るな。無能。家事も出来ず、働きもせず、することと言えば家で食っちゃ寝。特に良いこともなく、本当に生きているだけのお前が」


「ひどいっ!?」


 僕の言葉に神楽は涙目となるのだった。

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