模擬戦①

 陽校の教育理念は日本を守る強き陰陽師を作る、である。

 当然、生徒を強くするための施設はしっかりと整備されており、模擬戦を行うための場所もしっかりと十分に確保されていた。


「うしっと」


 そんな陽校にある模擬船室で今、僕と早紀が向かいあっていた。


「ふふっ……こうして、みんなの前で戦うというのは初めてだね」


「あー、うん。そうだね?」


 僕はこちらへと話しかけてくる早紀を軽くあしらいながら、十分に自身の体をほぐしていく。


「有馬の強さをみん───っ」


 そして、十分にほぐれたタイミングで僕は勝手に動き出す。

 一切の迷いなく僕は早紀との距離を詰め、上から早紀の頭を狙ってかかとを落とす。


「……かってぇ」

 

 完全な不意打ちの一撃だったと思うのだが、しっかりと早紀は僕の一撃を結界で防いでくる。


「ちょっ!?まだ何もっ!」


 勝手に模擬戦を始めた僕を見て担任の先生が焦った声を上げる中、僕はそれらを一切気にせず行動を続ける。

 己のかかと落としで大きくヒビの入った早紀の結界を二撃目の蹴りで完全に破壊し、彼女の懐へと入り込む。


「……っ」


 そんな僕へと襲い掛かる早紀が術式で新しく作り出した通常の五億倍という天文学的なエネルギーの重力を前に少しばかりよろめきながらも、拳を力強く握って振るう。


「一発」


 己の振るう拳に対して、早紀はヒヒイロカネによる盾を展開して迎え撃ってくるが、僕の拳に対してそんなものはただの紙切れでしかなかった。

 僕の拳は一瞬で盾を破壊し、そのまま早紀の顔面へとクリーンヒットする。

 

「……ありえんくらい浅いけどな」


 身体能力で言えば僕の方が上だろうが、それでも早紀は別に身体能力が低くないどころか普通に陰陽師界でトップである。

 僕が全力で振るった拳にもしっかりと早紀は対応してきた。

 そのせいで僕の拳は早紀に当たったと言えど、軽く鼻先をこする程度でしかなかった……あの盾によってほんの一瞬、拳が止められていなければ……とは思うものの、これは仕方ない。

 まだ僕の拳が弱かったということだ。


「……痛い」


 鼻先をこすられ、そこから血を流す早紀は僕へと訳のわからぬ攻撃を繰り出してくる。

 地面からよくわからない虹色の物体が幾つも伸びてきた……あれは、触れちゃいけない奴だな。


「……」


 何となくの直感からそう判断した僕は自分へと近づいてくるそれらをただの風圧だけで消滅させていく。


「ふふっ……行くよ?」


 それの破壊のために立ち止まり、拳を振るっていた僕を横目に遥か上空の方へと浮かびあがっていた早紀はこちらがすべてを破壊し終えたタイミングで楽し気に笑い、更なる攻撃を始めるのだった。

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