話題

 このクラスの委員長娘。

 その人に話しかけられた後の僕は今、多くのクラスメートに囲まれて声をかけられていた。


「それにしても……何であんなに強いの?有馬くんって呪力は持っていないはずだよね?」


「生まれつき。呪力がない代わりに異常なまでの身体能力を有していたからね。それのたまもの」


「……本当にどういうこと?」


「呪力がない代わりに異常な身体能力ってのがまず意味わからん」


「異常の範囲が広すぎない?」


 存外、自分へと普通に話しかけてくるものなのだな……本当に意識改革が起こっているのかも。


「佐藤さんからしてみれば呪力だっておかしな話だと思うよ?」


 そんなことを考えながら僕は話を佐藤さんにも振っていく。


「そうですね。私からしてみたらすべては不思議と言うか、何というか……陰陽師なんてのが本当に日本にいることがまず驚きです」


「私たちは全力で隠れ、潜んでいたからね。そう思うのも仕方ないわね」


「むしろ、俺たちの思惑通りって話だなっ!」


「陰陽師って……私たち冒険者の使うスキルではなく、術式を使うんですよね?」


 ダンジョンから与えられる恩寵であるスキルを用いて戦う冒険者と、生まれ持った術式で戦う陰陽師並びにダンジョンが出来る前の世界で戦っていた者たちの戦闘スタイルはあまりにも違う。

 ある程度、冒険者についての情報も共有されている陰陽師たちとは違い、本当に最近まで何も知らなかった冒険者たち側からすれば、本当に陰陽師の戦い方というのは謎に包まれている。


「……あー、そうだな」


 そして、今もなお。

 陰陽師たちはそこまで大っぴらに自分たちの力について周知させるつもりがないのか、佐藤さんが術式についての疑問を口にした瞬間、明らかにクラスメートたちの歯切れが悪くなる。


「そう。陰陽師は術式で戦うんだよ。そして、その術式は個々人によって大きく変わる」


 そんな中で、僕は一人。はっきりと口を開いて佐藤さんへの説明を開始する。


「例えば、早紀であればこんな感じっ!」


 そして、その説明の言葉は終わるよりも前に僕は動き出す。

 直撃すれば確実に息を止められるよう、早紀の首に向けて僕は素早く蹴りを繰り出す。


「「「……っ!?」」」


 あくまで、息を止められるのは直撃した場合であり、まずもって僕の蹴りは早紀に直撃するはずもなかった。


「ちっ」


 僕の蹴りは早紀の周りに展開された無色透明の壁によって阻まれた。

 己の攻撃は無色透明の壁に大きくヒビを入れた段階で止まってしまったのだ。


「早紀であれば、その術式名は万物創造。この世界に存在するものから、存在しないものまで、ありとあらゆるものを作れる術式だね。まぁ、早紀の術式は正直にいってその出力も、自由度も段違いだから。早紀ほどざっくりしたものじゃないよ」


 ゆっくりと蹴るために持ち上げた足を下ろす僕はそのまま佐藤さんへの説明を続ける。


「……私の絶対防御領域にヒビをいれられるのは有馬くらい」


 そんな僕へと早紀は口を開く。


「ずいぶんと御大層でカッコいい名前だこと」


 それを聞いた僕はノータイムで皮肉をかぶせに行く。


「これを命名したのは五歳の有馬」


「……ありゃ?そうだっけ?」


 だが、その皮肉はすっかりそのまま自分へと返ってきてしまうのだった。

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