僕が陰陽頭と会話している間にも、勝手に話は進んでいっていた。

 どうやら、この場に招待された生徒たちは陰陽専修学校の寮で生活することになったらしく、僕も彼らと共に寮へと向かうことになった。

 ちなみに、陰陽頭は僕と会って話すために公務を放り投げてこちらに来ていたらしく、話を終えると直ぐに彼女は帰って行った。


「うわぁ……すご、めっちゃいい旅館……」


「……うーん、まさか僕がここに足を踏み入れることになるとは」


 呪力のない僕がこの寮に来ることになるとは……。

 全然想定していなかった。


「基本的にこの寮は二人で一部屋となります。皆様には我々の方から選びました陰陽師の学生と同室になってもらいます」


 ……うわぁー、僕と同室とかトラブルの匂いしかしないわ。確実に揉める。


「ッ!?」


 そんなことを考えている中で。


「有馬の同室は私」


 僕が素早く拳を振るうのと、それを防御壁で防いだいつ間にか自分の隣にいた早紀が無表情のまま声を上げるのはほぼ同時だった。


「どういうこと?」


 まぁ、一旦は良いよ。早紀が隣にいきなり現れることくらいそんな珍しいことじゃない。

 それより疑問なのは僕の部屋の相方が早紀だと言うことだ。

 同性にしているのでは???


「えー、そちらの方は例外です。その理由はあの配信について少しでも知っている人がいるのならばお分かりになるでしょう。知らない方は一度、調べてくださると幸いです」


 ……勝手に例外扱いしないで???


「そういうこと」


「僕はお前と同室嫌なんだけど」


「なんで?」


「そりゃそうだろ」


「痴話喧嘩はそこまでにしてもらいまして……もう決定事項ですから」


「……いや、違うんだけど」


 勝手に痴話喧嘩にされても困る。

 僕は割と本気で早紀を殺しに行ってますけど。

 ……まぁ、いいか。別に寮で暮らさなきゃいいだけ。いつも通りに自宅であいつと過ごそう。

 あいつを一人にするのも心配だしな。

 自分の部下の面倒くらい上が見るものだ。


「それでは寮内について案内させてもらいますね」


 僕が自己納得している間にも話は進み、説明を行っていた陽校の女子生徒が寮の中へと入っていく。

 それにしても、いくら学生とはいえ、陰陽師の連中が一般人を同格として扱い、しっかり丁寧に諸事情について説明しているのは驚いた。

 やっぱり、陰陽師の間でも若者の間では意識改革が始まっているのかな?


「行こう」


「……ちっ」


 そんなことを考えながら、僕は早紀と共に寮の中へと入っていくのだった。

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