混乱と驚愕

 有馬と早紀がずいぶんと稚拙なことで話題になっている間。

 世界には大きな混乱と驚愕が与えられていた。


 まず、民衆が始めている怪魔という存在。

 それに対する疑問と困惑。混乱と驚愕は留まることを知らず、ネット上には様々な陰謀論が流布され、各国の市民たちが政府への説明を求めて声を上げ、デモが始まっている国もあった。

 パリは燃えた。


 だが、そんな民衆たちのそれを大きく超えるほどに混乱と驚愕を抱いていたのは、民衆からの説明を求められている各国政府並びに対怪魔の組織であった。

 その混乱模様は圧倒的だった。

 というのも。


「やれやれ、極東の若者たちには苦労させられる。我々が長年、隠し続けていた事実がこんな形でバレてしまうとは」


「いやはや、私も小学生の頃に遊びまわったことを思い出したよ」


「ははは、そうに違いない。いやいや、我々に童心を思い出させてくれるとは、本当に感謝するしかないな」


「……いや、待て。君たち。まず、話しあうべきはあの二人の実力についてではないかね」


「……」


「……」


 英国紳士が三枚ある舌をもってしてでも何も告げなくなり。


 ……。


 …………。


「まさか、あそこまでの人材が日本にいるとは。あそこは太古より人ならざるものが多く流れ着く果ての地であり、そこを生きる者たちが異質な強さを持つ……というのは聞き及んでいたが」


「そんなことよりも怪魔の王では?あの実力は驚異的で───」


「日本の方が問題だっ!あれだけの、あれだけの戦力がいるなど!」


「……同じ人類、ではありますがね」


「我々の威光が揺るがされかねないな。はっきり告げると」


「「「……」」」


 対怪魔への果て無き殺意を抱くバチカンの法王庁。

 特務組織が怪魔への警戒心よりも人間への警戒心をむき出しにし。


 ……。

 

 …………。


「勝てるか?」


「無理だ」


「……良かったな。あれが太平洋で出てこなくて」


「あそこまでの人材は特異点だろう。あのガキの方は知らんが、女であればそうだ」


「まぁ、それもそうか。昔ならともかく、今なら頼もしいな」


「あぁ、日本には頼もしき同盟国になってもらわねば困るのだ」


 最強たるアメリカが早々に、戦う前から降参を告げる。

 それほどまでの驚愕を二人は与えていた。

 一人のコラボから始まった、全世界に驚愕を与えた配信。

 それがもたらしたゴタゴタは


 ■■■■■


 そんな話。

 そんな世界の中、話題の中心地に立つ二人のうち、一人を管轄し、もう一人を元は管轄していた日本の陰陽師たち。

 彼らにも大きな衝撃を、有馬の実力が陰陽師たちに大きな衝撃を与えたことは確かだが……その上。

 全ての陰陽師たちの上にいる陰陽頭。


「別に、あの子ぉについては放置でよろしいわ」


 陰陽頭その人はまるで驚いていなかった。


「……良いのですか?我々陰陽界の彼に対する行いは決して褒められたものじゃないですが」


「えぇ、そやな。そやけど、それ気にするあの子ぉとちがうわ。一条家の術式第一主義は少し行き過ぎてもおるんやけど……ほんでも、まぁ、あの子ぉについては自由にのびのびとやらせったらええのやで。生まれながらの王たる彼は、わしの下におる者たちの行いをすべて笑うて受け流してくれるんやさかい、ねぇ?」


「ずいぶんと詳しいですのね」


「えぇ、そりゃ私はあの子の───」

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