一手
目の前にいる怪魔の王。
その性質は驚く程にシンプルである。
この場にいた大量の怪魔たちを生贄とした術により作り出された人形。
大量の怪魔たちに内包されている呪力によって発動された術式によって作り出された人形を完全に消し飛ばずにはまず、術式を発動させている呪力を無くすだけでい。
「……まぁ、問題はその術式に使われている呪力を削るには呪力を込めて攻撃する必要があるのだが」
術式を支えている呪力はまさに特別製。
怪魔たちの血肉の液体によってコーティングされている呪力の消耗は特別に少なく、いくら術式を発動させようとも呪力が枯渇することは無いだろう。
やろうとすれば、一秒間に五回発動させる計算でも最低10年はかかる。
呪力でもって殴ることによってのみ、怪魔の血肉の液体によるコーティングを剥がすことが出来るのだ。
「本当に相性の悪い」
こんなに僕と相性の悪い術式もそう無いだろう。
魔力がない僕へのこれは本当に致命的……だが、だから言ってそれを受け入れるのも違うよね。
「ふー」
呪力無ければ打ち破れない術式。
それを呪力のない僕がどう破るのか───それを見定めようと動こうとしない怪魔の王を前に僕は自然体で向き合い、ゆっくりと準備を整える。
「実は、既に掴んでいるんだよね」
僕は昔から戦いの中で成長するのが得意なのだ。
「むっ?」
「えいっ」
僕に出来るのは殴ることだけ。
なら、殴って解決するしかない。
なので、殴って解決した。
「───はっ?」
僕の拳は今、光速を超えた。
「うしっ」
ほんの一瞬。
怪魔の王との距離を一息で詰め、そしてそのまま腰をひねって拳を振るう───そして、僕の拳が怪魔の王と当たるほんの一瞬。
その間だけ腕に全霊の力を込めて振るったことで加速させたことで、僕の拳は間違いなく光速を超えたのだ。
「行けた」
何でかは知らん。
何故出来たのかも知らん。
だが、光速を一瞬とは言え、超えてみせた僕の拳は怪魔の王のすべての反応を許さず、確実にその命を消し飛ばしてみせた。
「お疲れ様」
「……つか、腕。いた」
殴った後にやってきた痺れを前にちょっとだけ僕は眉をしかめながら、露骨にこちらへと話しかけてきた早紀のことは無視し。
「……厄介だな、あれ。あれなら何体でも作れるし、自身は絶対に安全な状態である程度のことは出来てしまうぞ」
先ほどの怪魔の王への危険性に警戒心をあらわにするのだった。
「そうね。確かに」
「……」
「……有馬?」
「……上から僕を心配してきた奴のことなんて知るか」
「っ!?ご、ごめん……って」
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