観勒家

 基本的に呪力を持たない劣等生として見下される立場にある僕であるが、それでもこちらへと穏健な陰陽師関係者だって一部はいる。

 

「お久しぶりです」


 早紀の生家である観勒家も僕への態度が柔らかい一族の一つである。

 

「あぁ、うん。久しぶり」


 大量にいた魔物たちを全滅させた後の僕へと話しかけてきた観勒家の人間。

 陰陽師として最低限度の力は持っている観勒家の当主、早紀のお父さんへと僕はあいさつの言葉を返す。


「お疲れ様です。相も変わらぬ強さでしたね」


「ありがとう」


 御宅の娘さんには未だ勝てないけどね。


「……それで、有馬様」


「はい」


「今、私の娘の方が下の階層の方で一人。戦っておられるのです。もしかすると万が一のことがあるかもしれません。できれば助けにいってあげてほしいのです。有馬様であればすぐに下の方に行けるでしょう?」


 ……。

 …………。


「……あー、いや、でも、僕は自分のクラスメートと一緒なんだよね」


 既に僕が魔物を倒してから結構な時間が流れている。

 だが、未だに事態は何も動いていない。

 各組織の人間が僕という人間をどう処理するかで悩んでいるからだ。


「それに関してはお任せくださいますか?しっかりとそちらの女性を地上に送り返してみせますよ」


「……大丈夫?それ」


「もちろんにございます。これでも自分たちの一族は弁論だけでこの陰陽師界にしがみついてきたのですから。早紀という一つの切り札をもった今であればもう無敵にございますよ」


「あー、それじゃあ……任せようかな」


 早紀が戦っている姿。

 それに興味がないはずない。

 今すぐにでもその姿を見たい……あの、早紀の強さを確認して、実際に間近で味わいたい。


「フラワー。君の身柄をこっちの人に預けていいかな?」


 そう結論づけた僕は佐藤さんの方に言葉をかける。


「えっ!?」


「この人は僕の幼馴染の親御さんで、かなり信頼における人なんだけど……」


「……やらなきゃ、いけないことがあるんだよね?有馬くんには」


「んっ。まぁ、そうだね」


 いけない、というまでではないけど。


「それじゃあ、大丈夫だよ。行ってきて。そもそもとしてダンジョンに来たのも私の我儘からだったから。大丈夫。行ってきていいよ」


「……んー、ありがとう。それと、僕も楽しかったから、今回のことで負い目を感じる必要はないよ。というか、むしろこんな状況に巻き込んだ僕の方があれだからね……っとと、本当にごめんね。ありがとう」

 

 佐藤さんとの話をつけた僕は視線を彼女から早紀の父へと移す。


「それじゃあ、ドローンの方も一緒にもっていきますね」


「……察しが良くて助かります」


 この人の思惑は簡単で、自分の娘の雄姿を世界に誇示することだろう。

 本当の最強を、僕を超える存在を、ただ世界に見せつけて己の家を盛り上げるつもりなのだろう。


「それじゃあ、あとはお任せします」


 ついでに彼の目的もしっかりと果たしてきてあげよう。

 そう考えた僕はドローンを掴み、ダンジョン内の転移を発動するのだった。

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