浸食
僕が異変を感じ取ってから、事態が大きく変化していったのは自分でも対処しきれないほどに一瞬であった。
「……ぐ、……ぁあ」
僕が足を止めたその瞬間に自分たちが立っていた隣の空間に亀裂が入り、血まみれとなった一人の男が地面へと放出されてくる。
「えっ!?誰っ!?」
「チッ」
そんな人物を前に佐藤さんは困惑の声を上げ、僕は大きく舌打ちをつく。
姿格好、男が身に着けている服、狩衣を見ればこの人物が陰陽師の一人であることが簡単にわかる。
「……」
そして、陰陽師が排出された空間の亀裂。
それを見れば、魔界の封印が打ち破れたのだとわかる。
一度、封印が溶ければもうあとは簡単だ。
魔界の中に溜まっている強大なエネルギーが現実世界を浸食し始め、一部の現実世界を魔界の中へと引きずり込むだけだ。
そして、引きずり込まれる現実世界の中に立っている僕たちはどうあってもそれに抗えない。
「はぁー」
今さらカメラを止めたところで遅いだろうな。
僕は何があってもいいようさりげなく佐藤さんの護衛につきながらここが魔界に呑み込まれていく状況を静観する。
「……って、ヤバくね?この現状」
「ど、何処なのぉっ!?」
この場がダンジョンから魔界に変わる中で驚愕の声を上げるを横目に、僕はこっそりと冷や汗を垂らす。
魔界にいたのは日本の陰陽師だけではなかった。
アメリカのFBI特務機関にイギリスの王立英国協会騎士団、EUのバチカン法王庁まで出張ってきていた。
もう西側陣営大集結と言った感じである。
「……うげぇ」
そんな大終結の陣容に対するは大量の怪魔たちである。
パッと見で数百は超えていそうであり、中にはかなり強烈な奴までいる。
そんな大陣容を前にこちら側は押され気味なようだった……うーん、どうやらこの場に早紀はいないみたい。
彼女が要ればすぐに終わりそうなものだが。
「ど、どうなっているの!?有馬くんっ!?」
パパっと状況把握を済ませている僕に対して、焦りに焦りを重ね、僕のことをフルネームで呼ぶくらいには錯乱している様子の佐藤さん縋りついてくる。
「こ、これもダンジョンの一部!?罠っ!?」
「全然違うね。まぁ……なんていうかな?この世界の闇?いや、闇と言ったら悪いイメージがつくもんな。そうだね。影で世界を守るために戦っている人たちの戦場かな」
アメリカのFBI特務機関、イギリスの王立英国協会騎士団、EUのバチカン法王庁……かなり多くの組織が人員をダンジョンに割いているとは言え、未だに怪魔たちの情報は表に開示されていない。
僕を映しているドローンが初映像となるだろう。
絶対に面倒なこととなるだろうなぁ……そんなことを考えながらも僕は冷静に佐藤さんの疑問に対して答えていく。
「な、何の話をしているのか全然わかんないよっ!?」
「まっ、だろうね。説明はあとで……それより、おい!起きろっ!」
自分の答えを聞いてもあまり理解できていない様子の佐藤さんは一旦置いておいて、僕は隣で倒れている陰陽師を起こそうとするのだった。
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