ナメクジ

 特にあまり考えもせずに始めた初心者必見、ダンジョン探索講座。

 だが、それは存外需要があったらしい。

 配信の視聴者数はいつもよりもかなり多めだった。


「……あ、あわわ」


「へっぴり腰にならない。ちゃんと剣を構えて向き合う。最初から気持ちで負けていたら話にならないよー」


 そんな中で、僕は今、へっぴり腰のビビりスタイルで剣を構えている佐藤さんへと声をかける。


「で、でもステイトくん!あれ、何かキモイんだけどぉ!」


 そんな僕へと佐藤さんは結構本気でビビった声をあげる。

 そんな彼女の前にいるのは超巨大なナメクジの魔物であった。

 まぁ、見た目はあまりにもキモイと言えるだろうね……あれを目の当たりにして平然としていられるものも中々いないであろう。


「うぅ……」


「がんばれー、君がそれを倒さないと動けないから。全員がここでストップされているから」


 ナメクジを前であまり動けずにいる佐藤さんへと僕は呑気に声をかける。


 コメント

 ・うわぁー、何か思ったよりもスパルタ。

 ・あれと戦う勇気はちょっとないわ……。

 ・大変やな。

 ・ちょっと、あれだわ……ダンジョンに潜る自信が消滅したね。


 コメント欄はナメクジを前に意気消沈してしまっている。

 まぁ、それもそうだよね。

 これ以上こいつを映していると配信に悪影響ありそうだし、そろそろおさらばしようか。


「……うぅ!せぇやぁ!!!」


 そんなことを考えたちょうどそんなタイミングで佐藤さんが動き始める。


「あ、あぁぁぁぁ……うぅ」


 佐藤さんはナメクジのヌメヌメを前に四苦八苦している中でも一生懸命体を動かして戦っていく。


「……んー、何か犯罪的」


 屈辱的な表情を浮かべながら粘液まみれになっている佐藤さんを見ながらぼそりとつぶやく。

 そんなことを僕が考えている間にも、さほど強くはないナメクジの魔物をしっかりと彼女は倒してみせる。


「お疲れ様」


「……うぅ、ありがとう。お風呂入りたい」


 僕はささっと粘液まみれの状態で近寄ってくる佐藤さんからは距離を取りながら口を開く。


「あっ、ちなみに普通の人はここで逃げていいよ。ナメクジの魔物は基本的に討伐のうまみはないし、なおかつナメクジは見た目通りにどんくさいからね。簡単に逃げられる。基本的にはあの魔物と戦う冒険者はいないかな」


 そして、僕はあのナメクジの魔物のせいでダンジョンへの恐怖感が強まっている視聴者たちへと声をかける。


「えーっ!?それを先に言ってよぉ、ステイトくん!もぉーっ!!!」


 そんな僕の言葉を受け、しっかりと粘液まみれとなった佐藤さんは怒りの声をあげるのだった。

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