目的
自分の目の前にいる少女。
彼女はうちのクラスの学級員を務めている真面目な清楚系の女子であり、その名前を佐藤花梨と言う。
佐藤さんは陰陽師とは一切関わりを持たない一般人だ……まぁ、家庭環境には大きな問題があるようだけどね。
「あー、えっと、突然何かな?」
僕は過去に自分が調べた佐藤さんのプロフィールを頭の中に思い浮かべながら疑問の声を投げかける。
「……あ、あのコラボをして、ほしいんです」
そんな僕の言葉へと佐藤さんは自信なさげな態度を見せながらおずおずと口を開く。
「いや、そのコラボとだけ言われても困るんだけど。まぁ、僕に言うということは配信であると理解できるが、その前段階に色々とあるよね。まず、配信活動をしていたの?あと、ダンジョンには潜れるだけの実力はあるの?僕はダンジョン探索専門チャンネルだけど」
「ほ、細々とですが……それで、その……じ、実力とか……」
僕の疑問に対して佐藤さんはしどろもどろになりながら答える。
「ふむ」
大まかにはわかった。
何かしらの事情で配信者として成功する必要がある佐藤さんはダンジョンに潜る冒険者の実力はない状況ながらも、僕の人気にあやかるためコラボの誘いをしてきたのだろう。
それでその肝心の配信者として成功しなければならない理由は何かと言う話だけど……まぁ、彼女の家庭事情のことを考えると概ねは理解できる。
「あー。うーん、まぁ、実力がなくとも初心者向け動画!とか、そういうことにすればいくらでもこじつけられるからね。別にさほど実力はなくともいいよ。ただ」
「……っ」
「いや、別にただとかもないな。別にいいよ」
「えっ!?良いの?」
特に考えることもなく、軽く許可を出した僕へと佐藤さんは驚愕の声を上げる。
「うん。別にそんなガチでやっているわけじゃないしね」
確かに僕は配信者として活動しているが、その活動目的は特にない。
配信することによってお金は確かに入ってくるが、その他にも僕は重要な収入源が二つほどあるからさほど大きくもない。別に有名になって何かをしたいわけでもなければ、凡人に承認されたいわけでもない。
僕が配信している理由はただただ周りの冒険者がしていたから何となくというものである。
強いて言えば、自分が記録を残すことによって後に来るものたちの助力になることくらいだ。
別に今回の雑なコラボで評価を落とそうが、僕に一切の痛手はない。
「君が僕にあやかろうとしていようが、そんなのは正直どうでもいいかなぁ」
「……っ!?」
「真面目に頑張っている佐藤さんなら信頼も出来るしね」
佐藤さんの家庭環境には大いに同情できる余地があるし、彼女は真面目に学級委員として頑張っている姿を僕は見せてもらっている。
好ましい人柄を持っている人物のために自分にとってさほど重要でもないものを払うことくらいは別に構わない。
「全然コラボしてあげるよ」
「……ありがとう、ございます!」
軽く告げる僕の言葉へと佐藤さんは深々と頭を下げるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます