退出

「あぁ……この愚息!お前がここまでの恥知らずだったとは!」


「我ら陰陽師の在り方、伝統を軽んじるというのかっ!」」


「何とか言ったらどうなんだっ!」


 陰陽頭に対して迷いなく声をかける僕へと多くの非難の声が集まる中で。


「……」


 僕は何処吹く風の態度を保ち続ける。


「それでは、自分はこれで失礼します」


 そして、自分の言葉に対して陰陽頭が何も返してこないと悟った僕はゆっくりと立ち上がろとする。

 はぁー、さっさと帰ってアニメ見よ。

 師匠からオススメされて見たくなったアニメもあることだし。

 そんな思いでもって立ち上がろうとする僕。


「早紀……?」


 だが、そんな僕の服の裾を自分の隣にいた早紀が掴むことでそれを阻止してくる。


「……」


「いや、あの……」


 僕は自分の服を掴んで離さない早紀へと困惑の声を向ける。


「私は、君が陰陽界に復帰することこそが国の、引いては陰陽界全体の利益に繋がると信じている」


「いや、君の周りの方はそう思っていないと思うけど……?」


 自分の服の裾を掴んだままの早紀の言葉へと僕は困惑で返す。

 この場にいる早紀以外の全てが僕への敵意を剥き出しにしてきている。

 その状態で陰陽界復帰が良い影響になるなどと言われても素直に頷けるはずがない。

 少なくとも人間関係は修復不可能なまでに悪化すること間違いなしだ。僕の周りだけ。


「君は私を、超えると」


「それは間違いなくね。己に誓って君を超えてみせる」


「なら、君は陰陽界に必要」


「君のワンマンじゃダメ何だよ?周り見てみ?」


 僕は淡々と言葉を話している早紀へと周りを見るよう助言を与える。


「えっ、あっ……」


 僕の言葉で周りを見渡し始める早紀。


「ようやくこちらを見てくださったな!観勒の令嬢!我々としてはそこの恥知らずな呪無しなど陰陽界に要らぬと!」


「そもそもとしてそこの呪無しが観勒の令嬢を超えられるわけが!」


「貴方には復興の途中にある観勒家の代表としてこの場におられる。その御仁が軽々と己を超える存在を容認する。なおかつ、その相手が呪無しであるなどと!その在りようが許されると思っておいでで?」


 そんな彼女の視界に入るのは堂々たる態度で僕のことを非難している各名家の当主たちであった。


「まっ、見ての通りだよ。僕はここで帰るのが一番。ということでそれじゃあね」


 早紀が自分の服の裾から手を離したのを確認した僕は今度こそ立ち上がる。


「あっ……」


 そして、そのまま僕は颯爽とこの場を後にしようとする。


「……有馬」


「んっ?」


 だが、そんな僕を今度、引き留めたのは陰陽頭であった。


「何でしょうか?」


「私の方から呼びつけてこないなことになってしもうとすまんねぇ。でも、これだけは覚えといてな。君は何があろうとも陰陽師の一人であると」


「「「……っ!?」」」


「そんなこと、勝手に言ってよろしいので?」


 陰陽頭の言葉に対して、周りの当主たちがどよめき、驚愕の声を上げる中、僕は疑問の声を投げかける。

 

「ええんよ、ええんよ。それが出来てのこの席よ」


「……なるほど。そうですか」


 よくよく考えてみれば、目の前にいる陰陽頭が何者であるか。

 あまり深くは考えていなかったが、その素顔を含めて僕は一切知らないんだな……んー、ちょっとだけ意識しておこう。厄介な気がするしな。


「それでは、ひとまずは失礼します」


 陰陽頭への警戒心をあらわにしながら、僕はひとまずこの場から退出するのだった。

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