議論

 陰陽頭の言葉と共に落ち着きを取り戻したことで語りだした司会の役を負っている男の言葉。


「つい先ほど、確認されたダンジョン内における封印の不備。怪魔が魔界の封印破壊の範囲がダンジョンにまで広がっていることについてが今回の集まりの議題となります」


 それがまず先に語るのはこの集まりの目的についてだった。


「……」


 その目的を聞いて僕は内心で首をかしげる。

 ダンジョン内の封印の不備はついさっき見つかったものだろう?時間にして一時間も経っていないはず……それなのに、どうやった陰陽頭を筆頭にすべての各名家の当主たちの都合を合わせて勢ぞろいさせたんだ?

 各々忙しいだろうに。


「今回は陰陽頭の要請によって、我々よりも一足早くダンジョンに」


 そんな僕の内心の疑問は解消されずにどんどんと話が進んでいく。


「また、今回の集まりはあくまで公的な会議というわけではなく、各有力者に集まってもらったただの集まりとなります。肩苦しいものは抜きでお願いします」


 なるほど、僕を公的な会議に呼ぶのは流石に却下されたのね。


「我々はあくまで怪異と戦う陰陽師である。その礎の元、江戸時代が後の外国勢力との戦争には一切関わってこなかった。これが我々の伝統である」


 僕が勝手に被害妄想より視界の男の発言を曲解している間に、まず真っ先に僕の父である一条家の当主が口を開く。


「そこの愚息は勝手にダンジョンで魔物などと戦っておるが……伝統を背負った陰陽師である我らがあれと同じするわけにもいかぬだろうよ」


「一条家当主様」


 まるで隠そうとしない僕への侮蔑がこもった言葉を告げる一条家の当主に対してまず、早紀が口を開く。


「その論理で言うながら、つい先ほどの有事が対処のために緊急でダンジョンへと潜った私も伝統を軽んじる陰陽師であるということになってしまいますが。私の一族は陰陽道の開祖と言ってもほぼ差し支えなく、その一族の娘として生まれた私にも自負があります。怪魔の脅威から守るために行動した私の行動を伝統軽視と捉えられるのは遺憾であると申し上げざるを得ませんよ」


「そういう意味ではないとも。観勒の令嬢よ。貴方の場合はあくまで緊急時故のでしょう」


「今、ダンジョン攻略を真っ先に進めているのが世界で見ても有馬なのです。そんな彼がいる階層で今回、封印が破られたのです。その意味。一条家当主様であればお分かりになるでしょう。怪魔たちはもっとダンジョンの下へとその勢力圏を伸ばしているかもしれません。我々の見ぬ階層で怪魔たちが封印を破壊し、その対処に我らがもたつけば、それこそ怪魔から人々を守るという我々陰陽師の大前提を果たせないことになります」


「ダンジョン攻略などという雑事はそこの愚息にでも任せておけばよい。我らには大義があるのだ」


「彼一人に我々陰陽師界が頼りきりになるのはあまりにも情けないと思いますが」


「んなっ!」


「……確かに、その通りであるな。その子には我々が実力無しとのことで陰陽師界からの追放を選択している。その上で我々が今さらどうして彼を頼れようか」


「何を言うか!近衛の当主!我々が愚息を頼るなどと!これは頼った内には入らない!」


「まったくもって一条家当主の言葉通りであるな」


「所詮、ダンジョンにいる魔物など我々陰陽師が出るまでも……」


「いえ、私もあなたの言葉を支持しますよ。そもそもとして、このダンジョンの誕生自体が怪魔の策である可能性もあります。すべての可能性を追い、危険の可能性が少しでもあるのならば我々陰陽師が動くべきでしょう」


「当主まで!トチ狂ったか!我々はあくまで怪魔と戦うために!」


「怪魔はダンジョンを利用しました。であるならば、そのダンジョンが怪魔のもたらしたものではないとする根拠は?」


「あれだけ巨大なものが作れるならば別のことをするであろうよ!それに、あれは怪魔の力によるものではないと既に結論は出ているだろう!」


 議論は白熱していく。

 というか、勝手にうちの父が暴走しているだけなような気もするけど……まぁ、それでも議論は白熱しているといえるだろう。

 


「陰陽頭」


 

 そんな中で僕は一切、迷うことなく御帳台の向こう側にいる陰陽頭へと声をかける。


「確かに、ダンジョン内の魔物は弱いかもしれませんが、それでも未だ修練中の身の子供たちの相手としてはちょうど良いでしょう。子供たちにダンジョンの攻略を任せるなどの施策を取るのはいかがでしょうか?」


 そして、そのまま自分の意見を話していく。


「なっ!何を考えている愚息が!陰陽頭に直接言葉を届けるなどと!」


「不敬だぞ!お前っ!」


「何を考えている!」


 陰陽頭に直接言葉を届けることは基本的に認められていない。

 そんな中で陰陽頭へと迷いなく自分の言葉をぶつける僕へと一気に非難が集中してくる。


「私は今や陰陽界とまったくもって関わりのない身。そんな私を呼びつけたのが陰陽頭であるなら、今の立場に基づいて私は貴方へと言葉を届けましょう。そして、今一度。ここで自分の立場を貴方にはっきりとさせておきます。私は陰陽師たちの道具ではない。以上です」


 だが、そんな言葉にも負けずに僕は堂々と自分の考えを言い切るのだった。

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