魔界
僕が配信を終わらせると同時に、自分の周りの景気が一変する。
石畳の敷かれた細い道が迷路のように伸びるダンジョンから、天に赤黒い空を掲げる現実世界が荒廃したような様を見せる空気の重い空間へと。
「……魔界」
魔界。
ここは過去の人類の手によって作り出された裏世界であり、怪魔たちを封印している世界である。
陰陽師を初めとする人類と怪魔の戦いは概ね、この裏世界を壊して自由の身となって人類文明の破壊を目指す怪魔たちと、それを阻止して封印させ続けようとする人類の戦いに終始する。
「ダンジョンで……?」
今、僕の目の前に魔界が広がっているということは裏世界の封印が破られたということ……だが、これならばまだ別に問題ではない。
魔界は広大であり、封印に小さな穴を作られることくらい想定の範囲内である。
封印に小さな穴を作った怪魔をすぐさま叩き、穴を修復するだけでいい。
これは常日頃、いたちごっこ的に人類と怪魔が続けていることであり、毎日のように起こっていることだ。
これはいつも起こっていること……ただ、それがダンジョンで起きるとなると話も変わってくる。
どこまで続いているかもわからないダンジョン内にも穴が作られるのだとしたら……果たして、陰陽師たちは追いきれるのだろうか?
少なくとも、この52階層で穴を作られると現状は僕以外に対処できる奴いないけど。
「……まぁ、良いか」
別に僕が気にするようなことでもないだろう。
そこらへんは僕を追い出したお上の連中が考えていればいい。
「さて、と。一応倒してやろうかね」
僕はぐるりと裏世界を見渡し、封印の穴を作り出した怪魔の姿を探す。
「……みっけ」
下手人はすぐに見つけた。
僕はせっせと裏世界の壁へと攻撃を加えて必死に穴を広げようとしている怪魔を発見し、そちらの方へと軽い足取りで近づいていく。
「菴懆???蠖シ螂ウ縺梧ャイ縺励>」
そんな僕へとすぐさま怪魔が気づき、こちらの方へと視線を送ってくる。
「……相も変わらず醜悪なこと」
怪魔の姿。
それは等しく人外であり、形容しがたく、生理的な嫌悪感を与えてくるずいぶんと悍ましい姿をしている。
「はぁー、触りたくもないのだけど」
陰陽師は自身の持つ呪力でもって陰陽術を発動して怪魔と戦っていく。
だが、僕は生まれつき呪力というものが一切ない。
また、ダンジョンに潜る冒険者たちはダンジョンより与えられる呪力とは一切関係のない力、スキルを用いて戦う。
だが、僕はどれだけダンジョンを潜っても一切スキルが与えられなかった。
呪力も、スキルもない。
そんな僕に出来るのは拳を固めて殴りつけることくらいである。
「ふっ」
だが、僕は生まれつき身体能力が異常なまでに高かった。
呪力が生まれながらにない代わりなのか知らない、けどね。
「別に弱いね」
怪魔を拳だけで殺せるくらいには身体能力が高いのだ。
「縺サ縺?シ」
たった一歩で怪魔との距離を詰めた僕はその腹へと拳を一つ。
それだけで怪魔の体のほとんどが一瞬で消し飛ばされ、残された僅かな体もすぐに塵となって、天に広がる赤黒い空へと風に吹かれてのぼっていく。
「うしっと……終わり」
戦闘時間は一秒未満。
しっかりと瞬殺してみせた僕はこのまま元の世界に戻ろうとするのだが……。
「げぇ……なんか、めっちゃいるじゃん」
自分を遠巻きに観察し続けている怪魔の存在に気付いて足を止める。
「……倒すかぁ」
こちらを見ている怪魔の一人一人が魔界の封印に穴をあけられるだけの実力は持っているように見える。
間違いなく、ここで僕が倒していた方がいい類の存在であろう。
その判断を下した僕が怪魔との距離を詰めるために足へと力を入れる───その瞬間。
「……あん?」
遠くでまばゆい光が煌めき、僕は飛び出そうとした自身の体を止めるのだった。
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