配信

 基本的に僕は家を勘当された身である。

 当然、一人暮らしで高校生活を送るにしても家からの支援は一切ない。

 そのため、収益源というのは僕にとってかなり重要なものであり、現在の自分の収入源はダンジョンでの配信活動であった。


「こんはろばー。今日も配信来てくれてありだよぉ」


 僕は自分の前で浮遊して、こちらへと勝手についてきてくれるドローン型カメラの前で軽く手を上げながらあいさつの言葉を告げる。

 

 コメント

 ・こんはろばー!

 ・こんはろばー!

 ・こんはろばー!

 ・おー、始まった、始まった。

 ・こんはろばー!


 その僕の言葉へとドローン型カメラの上に設置されているスマホにはこの配信を見てくれている視聴者のコメントが高速に流れていっていく。


「それじゃあ、今日もいつものように配信をしていくよー」


 ステイトという名前で活動をしている僕の配信内容は至ってシンプル。

 ただダンジョンに潜るだけだ。


「ということで、僕は人類で初めてダンジョン52層へと足を踏み入れましたぁー」


 ただし、ダンジョンを最速で進んでいるというおまけつきではある。

 この世界には幾つものダンジョンの入り口があるが、そのダンジョンの中は完全に一致する。

 どの入り口から入っても同じダンジョンの中で、同時に日本とブラジルからダンジョンに同じところから入ってくるという事態も起こりえるところなのだ。

 それゆえに誰が、どれくらいダンジョンに潜ったという情報の評価は非常にわかりやすい。

 ダンジョンの難易度はすべて同じであるがゆえに、そのダンジョンを最速で潜っている僕の偉大さは何とも簡単に理解してもらえるのだ。

 僕がダンジョン配信者の中で圧倒的な人気を誇っているのもここら辺が大きい。


「今日も頑張っていくよ。アメリカの組織がかなりの速度で潜っているみたいだから。負けないようにしないとね。とはいっても、そう簡単に追いつけるものじゃないけど」


 このダンジョンは非常に親切設計となっている。

 一度、行ったことのある地点には願うだけで転移できる仕様になっているのだ。

 ちなみに、その理論は一切の謎だ。

 魔物が自分の前にいるときはその転移ができなかったり、できないときの条件とかもあったりして、本当に謎の力による転移なのである。

 まぁ、便利だから僕としてはありがたいけどね。

 毎回1階層から52階層まで来るのは面倒だから。


「それじゃあ、早速しゅっぱつ!」


 僕は意気揚々とダンジョンの中を進んでいく。


「ぎゃぎゃっ!」


 その第一歩目。

 それを踏み出すと共に自分へと群がるように至るところから魔物が近寄ってくる。


「ほい」


 それに対し、僕は左足を軸足としながら素早く回転。

 回転と共に伸ばしていた僕の右足が自分へと群がってきた魔物たちを肉片へと変える。


 コメント

 ・それで速攻敵をワンパンするのは流石に意味がわからなくて好き。

 ・化け物やんけ。

 ・さす!

 ・わぁ~、新階層もざこだぁ。


 ただの蹴り一つで52階層の魔物も一瞬で倒されたのだ。


「んー、弱いね。まだまだこの階層も楽勝みたい。それじゃあ、この調子でどんどんと進んでいくね」


 僕はダンジョンの内部を軽い足取りで進んでいく。

 ここで全力を出して走ればすぐにこの階層を踏破出来るだろうが、それをやってしまえばまずドローンが僕において行かれ、配信どころではなくなってしまう。

 なので、僕はあえてゆっくりと進んでいく。


「がぁぁぁぁぁっ!」


「ほい!」


「おぼぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!」


「せいっ!」


「義ヴぁlkgvpボアlgヴぉ美rぁl府rじ」


「あー、はいっ!」


 道中の中で自分の前に現れる個性豊かな魔物たちをすべて叩き潰しながら。


 コメント

 ・マジでここまでの無双劇を披露されるとかいつも見ていて楽しいわ。

 ・すげー!

 ・これが本当のなろう系か……。

 ・アメリカの特殊部隊とかも普通に手こずっているらしいのに、圧倒的にも程があるよな。ステイトは。


 そんな僕の様を視聴者たちも楽しく観覧しながら、コメントを打ってくれる。


「アメリカの特殊部隊であればここら辺も余裕だと思うけど……なんか、色々とごたっているのか?あっ、何でお前がアメリカの特殊部隊事情を知っているのかというツッコミはなしでお願いね?」


 そんなコメント欄へと僕は言葉を返しながら配信を盛り上げていく。

 自分の戦闘シーンは基本的に圧倒的な殴殺となるため、こういう会話シーンでの盛り上げも必須となる。


「あっ?」


 僕はいつものようにカメラの前でダンジョンを進みながらコメント欄との会話を弾ませていた時、何かを感じ取って足を止める。


「……すぅ」


 これは……嘘でしょ?いや、でもこれは間違いなく……。


「ちっ」


 厄介ごとじゃないか。

 何で、たまたま僕のところにやってくるんだ。


「ごめんっ!ちょっと今日のところはここで配信終わり!また今度っ!」


 僕は思わず表情を歪ませながらも、緊急事態であるとの判断を下してすぐさま配信を終わらせるのだった。

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