ダンジョン
自分が通っている高校。
それは陰陽師の学生たちが通う京都高等専門学校ではなく、一般的な進学校である帝商高校だ。
「ふわぁ……ねむっ」
陰陽師の世界とは大きな差がある帝商高校で暮らす僕の生活は平穏そのものである。
「おうおう、どうしたぁ?」
特に命の危険などもない教室に置かれている自分の椅子に座って大きくあくびを浮かべている僕へとついさっき登校してきたばかりの男が近づいてくる。
「ダンジョンで魔物を千体切りしてお疲れかぁ?」
……陰陽師の世界とは大きな差があったのは少し過去の話で、今より数年前に出来たダンジョンのせいで普通の世界も随分と陰陽師たちの世界に近づいてきているみたいだね。
「その程度で疲れるほど僕はやわじゃないよ。でも、学校の椅子に座るとどうしてか堪えきれない謎の眠気に襲われてね」
「ったく。そんなんで大丈夫なのかぁ?日本最強と名高い冒険者様はぁ」
「ふっ、問題ないさ」
僕は自分の元に近づいて話かけてきた男と雑談を繰り広げる。
「おー」
そんな中で、更にもう一人。
僕たちの元へと近づいてくる。
「今日も今日でお二人さんは輝いておいてですなぁ。小生はもはや近づくことさえ躊躇ってしまいますぞぉ」
近づいてきたのは眼鏡をかけたぽっちゃりとした大男。
学校指定の制服の上にアニメのキャラがデカデカとプリントされているTシャツを着るという中々見ない奇抜なファッションが特徴的な男。
「いや、師匠がいなきゃ始まらないよ」
「まったくもってその通りだ」
彼の名前は御宅照緒。
僕に自分の知らなかった美しき世界、二次元を教えてくれた師匠である。
「いやはや、小生が近づいた瞬間。二人を眺めていた黄色い歓声たる『キャー』がガチの悲鳴に変わっていく様を見ると申し訳なさを感じるのでござるよ」
「いやいや、そんなことないさ。そもそもとして俺は女子にそんなモテないさ」
「謙遜がすぎますぞぉ!」
「まったくだね。僕たちほどモテる男もこの世界にそういないよ」
僕の見た目はずいぶんと子供よりだが、それでも顔立ちは整っているし、多くの人の性癖を破壊することには定評がある。
そして、一番最初に僕へと話しかけてきた工藤明楽も圧倒的モテ男である。
成績優秀で運動神経は抜群でサッカー部のキャプテンまで務めている高身長な王道イケメン。
僕と明楽は系統が違えども、圧倒的な美形を持っている二人であり、女子人気は周りの男子と比べて頭が三つ分くらい抜けているだろう。
「いや、君は謙遜しなさすぎだと思うよ?自信満々の発言過ぎてびっくりするし、少なくとも俺を巻き込まないでほしい」
「いやはや!有馬殿のすがすがしさは爽快でござるな!コポォー!」
「事実を事実と言って何が悪い」
自分の言葉に大きな反応を見せる二人へと得意げな態度で僕は言葉を返してみせる。
「おーい、あと一分でHR開始のチャイムがなるからそろそろ席につけー」
そんな風に僕が二人と会話していた折、教卓の上でPCを弄っていた先生が立ち上がって声を上げる。
「おっ、んじゃ、あとで」
「それでは、小生はそれそれ。あとでござるぞぉ!」
「ほーい」
それを受け、僕の席の周りにいた明楽と照緒の二人はそれぞれ自分の席へと戻っていくのだった。
■■■■■
帝商高校での生活は平凡そのもの。
明楽と照緒の二人と特に代わり映えのない高校生活の一日を送った僕はそのまま放課後、ダンジョンの方へとやってきていた。
「よしっと」
今よりほんと数年前に出来たダンジョン。
それを簡潔に言うと内部に魔物という人類に襲い掛かって殺しに来る化け物がいる代わりに、中に多くの資源がある異空間である。
このダンジョンをいの一番に受け入れたのは日本人であった。
一般層にも既に浸透してきている漫画やアニメなどのオタク文化を抱く日本人にとってダンジョンは宝の山であり、こぞって多くの人が突撃していった。
その中で目立とうとダンジョンにカメラをもって配信をする底辺配信者なども頻発し、もはや日本政府というより世界全体が後手に回っている中で、日本人だけが順調にダンジョンを探索していた。
日本政府が事態を受け入れて対処に動いた頃にはもう止まれなかった。
命を落とす人がいる中であっても、日本人の熱狂は消えることなく、当たり前のようにダンジョン配信者という存在を市井が受け入れていた。
もはや日本政府は彼らの存在を容認し、最低限の安全を守るために安全講習を行うと共に未成年の立ち入りを禁ずる管理組織たる冒険者ギルドを作るに留め、ダンジョン周りをほとんど民間に任せていた。
「まっ、その代わりに陰陽界の動きは最悪だけどな」
基本的に世界中には対怪魔のために牙を研いでいる陰陽師に類似する組織が幾つも存在する。
アメリカのFBI特務機関、イギリスの王立英国協会騎士団、EUのバチカン法王庁、中東の暗殺教団。
それらの数ある組織はダンジョンを前に動揺を示しながらもそれを受け入れ、ダンジョンに存在する魔物を倒すために自組織の人員を当てている。
そのような中で、世界でもとびぬけた歴史を持つ日本の陰陽師たちはダンジョン関連の話において断固とした態度で沈黙を貫いている。
魔物何ぞとの戦いで陰陽術を使うのは言語道断である!というのが、基本的な陰陽界の方針である。
「まっ、そんなの今となっては関係ないけど」
僕は元陰陽界の人間であるが、今は追い出された身。
陰陽界の方針なんて何その、僕はいつも通りにダンジョン配信を行うための準備をしていくのだった。
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