死神と僕。
はるむら さき
一日目【壱】
「今すぐ死ぬことはありません」
けれど、治療をしなければ長くはありません。
治療をすれば、あなたの寿命は延びますが、その分身体に大きな負担がかかります。副作用は必ず出ます。
軽くて三日。ともすれば一週間ほど、強い吐き気に襲われて、まともな食事を摂ることもままならない。
当然、体力は落ちていきますし、今まで通りの生活を続けることは出来ないでしょう。
治療には強いリスクが伴います。
けれど、このまま何の手も打たなければ、あなたは確実に死にます。
治療を受けるか、それとも何もせずに死を待つか。
どちらを選んでも構いませんし、どちらが良いとも私からは言えません。
だから…
「あとは、あなたがどういきたいかです」
平和な時代の平和な国に生まれたと思う。
一般的な家庭で、ふつうの両親に愛されて、そこそこ分かり合える友達がいて。
地元の高校を卒業して、少し遠くの街の大学に行って。
それなりに講義を受けて、適当にサークルに所属して、そこで青春みたいな恋をして。
四年間、何となく学生生活をおくって、まあまあの成績を収めて卒業した。
生来の話下手のせいもあり、就職活動では、それはもう面接で苦労した。けれど、運良く空きが出た私立図書館の職員として就職できた。
まあ…。その職場には、絵に描いたようなお局様がいて、そいつに目の敵にされ、漫画みたいな嫌がらせを受けて、ストレスで心を壊して二年といられず、辞めてしまったんだけど…。
その後なんとか復活して、地元の小さな骨董品屋へ就職が決まって、新しい仕事を覚えて来て、その楽しさが解ってきた。第二のスタートを切った。
「ここから生まれ変わるんだ」とそんな風に思った矢先だった。
鋭い痛み。時に耐えられないほどの激痛が、歩くたびにボクの心臓を刺した。
「環境が変ったから」
「前の職場のストレスが抜けきっていないから」
と数ヶ月ほど自分をだまし続けた。
そして、ボクの前に死神が現れた。
唐突に。当然のごとく、いつの間にかボクの枕元にきちんと正座して。
イメージ通りの黒い布を頭からすっぽり被った、骸骨顔で。
そうして、なんとも頼りない細さの蝋燭をボクに渡して言ったのだ。
「あなたに死を宣告します」と。
死神と僕。 はるむら さき @haru61a39
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