第5話 ヨーイチ達の日常
第5話ー1 冒険者からの依頼
俺の名前は響陽一。
現代日本から色々あって魂のみ異世界へと来てしまい、勇者の鎧とやらに乗り移り、そのまま冒険者として新たな人生をスタートさせてからもう2か月ほどになる。
まだ2か月とも言うが、とにかく今まで色んな事があり過ぎた。
そして、間近の大きな出来事と変化と言えば――。
実は武器コンテストでテッカンさんが優勝して以来、テッカンさんの武器を振るう姿がカッコ良かったと、コーディアの街でも評判なのだ。
通りを歩けば声を掛けられることも珍しくなくなった。
これは見た目も気を付けなければならない。
例えば、今までは鎧は水洗いだけで済ませていたのだが、そういう訳にもいかない。
鎧のメンテナンス用の洗剤やらワックスやらを購入し、それらでバッチシ決める。
そして俺は今日も、街を歩くのであった。
「あっ、ヨーイチさん。これからギルドですか?」
「この前はカッコ良かったです! またウチに寄って下さい!」
「おぉヨーイチ殿。今日も鎧が輝いていますね!」
「あらぁヨーイチちゃん。ちょっとお店寄ってかない?」
うん。
色んな職人(男)や、武器防具屋の店主(男)から凄いモテるようになった。
俺はギルドの酒場で一杯やりながら、ボヤいた。
「……人生、そんなに甘くないなハナコ」
「なに言ってんだ兄ちゃん」
◇◆◇◆◇◆◇
俺は今日の依頼を探すべく、ギルドへとやってきた。
さすがにギルド内でもコンテストのことは知られているようで、よく色んな冒険者から声を掛けて貰うこともある。
「おいニーチャン聞いたぞ! あの武器コンテストで優勝したんだって?」
「アイガー。優勝したのはテッカンって職人のオッサンだろ」
「いいんだよこまけーことはよ!」
「よーし今日はワシが酒を奢ってやろう」
「あはは……」
アイガー、オルガ、マッシのオッサン冒険者3人組だ。
白髪で短髪の頬に古傷があるのお調子者のアイガー。
頭がハゲている髭の生えているのがオルガ。
3人の中にでは1番老けて見える細めの体型のマッシ。
初日に色々話を聞いたせいか、こうやってちょくちょく絡まれることもある。
いつもは酒のツマミに自分達の冒険譚を語られるのだが、今日は少し違うようだ。
「……実はニーチャンに折り入って頼みたいことがあるんだ」
今まで聞いたこともないマジトーンのアイガーさん。
俺はその空気に飲まれ、促されるまま席へと着く。
「あれはそう……20年前の冬のことだ」
あ、また冒険譚が始まりそう。
「オレ達はギルドの依頼を受け、依頼主から宝の地図を受け取った。ある地方にある入り口が封印されたダンジョンだったんだが、近年開け方が分かったという話だった……」
長くなりそうだしテキトーに料理頼んどこう。
「実際にダンジョンへと行き、色々とまぁ攻略は大変だった――そして最奥で、目的の宝を見つけた。」
「……確かマッシの奴が見つけたんだったよな」
「そうだったかな……懐かしいな」
「しかしその宝を手にした途端、洞窟が崩れ始めた――俺らは必死に走り、そりゃもう命懸けで走ったさ」
「あの時は大変だったなぁ……」
「命からがら洞窟から脱出して……依頼主に宝を渡したら、この宝は目的のもんじゃねーって言い出すんだ」
「ありゃ酷かったな」
「そんで依頼料減額されてよ……アレは絶対イチャモンだと当時のギルマスと喧嘩したなぁ」
「……で、俺に頼みたいことって?」
頼んだ鳥肉料理をパク付きながら、質問をする。
「おおそうだ。実はその崩れたはずのダンジョンなんだが……最近、別の入り口が見つかったらしくってな」
「入り口っていうか、
「その話を聞いて、昔の宝の地図と見比べたら……まさにそこなんだよ」
まさかここでも出てくるとは――あの一件以来、西の鉱山一帯からは
アイツらの通り道になった所から新たな遺跡やダンジョンが見つかることはままあるらしい。
「そこでニーチャンに頼みたいってのは、そのダンジョンに潜って本物の宝があるか調べてきて欲しいんだ」
「えぇ……」
「これはオレ達、冒険者人生最後の心残りだ。もちろん本来なら自分達で行きたい所だが……腰が痛くてな」
「ワシは膝が痛い」
「オレはその両方が痛い」
「えぇ……」
「お宝! 受けようよ!」
隣のテーブルで話を聞いていたハナコが身を乗り出してきた。
「おっ、なんだ嬢ちゃん。ニーチャンの仲間か」
「アタシはハナコ。訳あって田舎から出てきた兄ちゃんの妹……みたいな新米冒険者さ!」
「ほう兄妹でパーティ組んでるのが。仲が良くていいじゃねーか」
「いや俺は受けるとは……」
「ふむ――最近聞いた謎のダンジョンの話か。興味深いな」
「おーステラじゃねーか!」
「ヨーイチに妹が居るとは知らなかったな……その話は後で“詳しく"聞くとして……その依頼。私も興味あるので参加しよう。パーティ申請は私が出しておく」
「えっ」
「3人では何かあった時に心許ないな――ジェイド! ジェイドはいるか!」
酒場の冒険者達が一斉に……バーカウンターで可愛らしい女性冒険者と仲良く話しているジェイドを指差した。
ステラは無言でジェイドの襟首を掴み、女性冒険者には酒を奢ってから、こちらへ持ってきた。
「そんな姉さん! 今日はオレ、これからデートに行こうかと思って――」
「デートなら私と行けばいいじゃないか」
「いやそうじゃなく……はい、行きます」
抵抗は無意味だと悟ったのか、うなだれるジェイド。
「よし。では早速出発だ!」
◇◆◇◆◇◆◇
「どうも初めまして。坑道調査員のマンドルと申します」
チョロっとした30代の青年だ。
メガネと登山用の服装に、腰には新品のショートソードをぶら下げている。
「金1級のステラだ。こちらは私の仲間のジェイド、ヨーイチ、ハナコだ」
「あ、どうもどうも……ではこちらへどうぞ」
ここはコーディアから西にある鉱山地帯の端の方。
この前の俺達が行った封鎖鉱山地帯とは違い、今も採掘が行われている坑道が多い。
長きに渡る採掘作業の結果、鉱山の中に鉱夫達の町が出来ているらしい。
マンドルは国からの依頼で、定期的に坑道のマッピングと確認作業をしているのだが……今回はその1つがダンジョンへと繋がっていたという。
「
マンドルの後に着いて坑道へと入っていく俺達。
今回は町を経由しないルートを通るらしい……ちょっと残念だ。
そして大きな鉄扉の所までやってきた。
鍵を受け取ったステラが扉を開けると――暗い通路と、奥にぼんやりとした明かりが見える。
「この道の最奥がダンジョンと繋がっています……その先も少し確認して……見たかったんですが、何分わたしは冒険者ではなく……」
既にマンドルは俺達から若干離れた岩陰から喋っている。
青ざめて汗まで出ている……魔物が怖いのだろう。
武器も1度も使ったことのない新品同然だった。そんなので調査員が務まるのだろうか。
「いえ、ここまでで結構です。ダンジョンから魔物が出る可能性もあるので、この扉は閉めておいて下さい」
「わ、分かりました……」
全員が入った後に鉄扉は閉じられ、ほぼ真っ暗闇になる。
「……
ステラが呪文を唱えランタンに明かりを灯す。
「さて、ここからが本場という訳だな」
「お宝とかあるかなー楽しみだなー」
ウキウキしているステラとハナコ。
「はぁ……気が重い」
「……元気出して行こう」
ちなみに俺が収納魔法が使えると説明したので、重い荷物は全部ゲートに入れてある――実際はニーアの機能だが、面倒なので説明は省略した。
「ふむ……魔素溜まりは無さそうだな」
通路の奥の地面に穴が開いてあり、その下には石造りの通路が見える。
「よし私が先に降りる。ロープを出してくれ」
ステラが降り、安全を確かめてから俺達も降りた。
「おぉ……いかにもそれっぽい」
そこは大きな部屋のようだ。
扉が1つだけで他に目ぼしいモノは無い。
床、壁、天井が石を積んで造られている……ランタンがなくとも若干明るいのは、表面に付着している光る草みたいな植物のおかげなのだろうか。
物珍しそうに眺めているとステラが、
「それはヒカリシダって言って、詳しくは知らないが空気中のマナ吸って光ってるらしい……他のダンジョンだとヒカリゴケなんかも定番だ」
「うーむ、ロールプレイングって感じで感動する」
「ろ、ろーる?」
「あぁいや、なんでもない」
「この扉は……うわ、向こう側瓦礫で埋まってるのじゃ」
「そこが前、アイガーさん達が宝を取った部屋か……」
あの後、詳しく話を聞いたのが――正直昔過ぎて全然覚えてないらしい。
ただ1つだけ覚えていたのは――あの宝を取った部屋の奥に、確かに扉があったのだという。
「ダンジョンの本当の宝を守る為に、手前に分かりやすい宝を用意する訳じゃな。入り口まで潰す罠を仕掛けているとは、よほど盗られたくないのじゃろう」
ハナコと俺は扉を閉めて、再び部屋を捜索する。
恐らくはこの部屋のどこかに隠し通路的なモノがあるのは確実なんだろうが――ヒントも何も無い。
「ゲームだったら、意味ありげな石碑とか立っているのになぁ」
「このダンジョンを造った主が、宝は後世に残すつもりは無かったのだろう。主だけが宝のある部屋の行き方を知っていれば良かった……となれば、何かの魔道研究の成果とかかもしれんな」
「ふーむ……よし、お前ら。ちょっとアタシの横へ来るのじゃ」
「どうしたんだハナコ」
「闇雲に探してもしょうがないという事じゃ……変化のジツ、一部解除!」
三角帽子を脱ぐと、頭の猫耳があらわになる。
「おぉ! 話には聞いていたが、これは……かわいい……撫でてもいいか?」
「後にするのじゃ」
余談だが。
俺とジェイドによってハナコの正体については話してある。
ステラも秘密は守ってくれると約束してくれた。
ちなみに一緒に暮らしている事は、ジェイドと相談した上で秘密にしてある。
一般的な常識ならば、ステラとなら女性同士だし、色々安心だろうと考えるが、ジェイドに却下された。
ステラの私生活はそりゃもうヤバいと……あと可愛いモノには目がないと……ならば秘密にしておく方が吉なのだ。
決して、俺が猫耳少女との生活を終わりにしたくないからでは無い……無いのだ。
余談終わり。
「それ」
ハナコはショートソードを抜くと、剣の腹を壁に叩き付ける。
キィーン――とした音が部屋の中に響き渡る。
猫耳がピコピコと動き、反響する音を細かく聞き分けているようだ。
「……ここか」
ハナコがとある壁の前まで来ると、一気に壁を押した。
ガコン――と音が鳴り、どんでん返しのように壁の一部が回った!
「おぉ。これで先に進めるなステラ」
「撫でていいか? 撫でていいか?」
「……手短にするのじゃ」
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