第4話ー5.5 お疲れ様会~ギルドマスター会議


「それじゃ、みんなお疲れ様やー!」

「「「お疲れ様!」」」

 

 あれからアムルの美術館に行ったり、ステラやジェイド用のお土産を買ったり、いつの間にか部屋に戻って半裸で爆睡してたハナコを回収した――その夜。

 

 いつもの宿屋提携の酒場で、コンテストに参加していた職人や観客達とお疲れ様会を開いていた。

 

「いやもうテッカンさんとゴッチンさんの武器、凄かったです!」

「おでも国に帰ったら、凄い武器をつくったる」

「ルビィちゃん! 僕と結婚して下さい!」

「甲斐性無さそうだから嫌や」

「儂より酒が強い奴じゃないと認めんぞ!」

 

 ドンチャン騒ぎである。

 

「毎日酒飲んでたのに元気だな……さすがドワーフ」

 

 俺はジョッキのビールを飲みつつ、テーブルの料理は中のハナコがパクパク食べている。

 

「うまっ、これもうまっ」

「というかハナコ。お前どこ行ってたんだよ。部屋で服とパンツ脱ぎ散らかして寝てたし」

「ちょっと汚れてたし――そんな事より、もっと食わせるのじゃ!」

「やれやれ……」

「こちら当店自慢の鳥料理です」

 

 いつもの妙齢のウェイトレスさんが新たに料理を持ってきてくれる。

 

「あ、どうも」

「……楽しそうですね」

「そうですね。なんだかんだ文句言ってても、ルビィとテッカンさんは楽しそうだなぁ」

「ふふっ。お兄さんにも苦労掛けて、ほんますいませんね……」

「うん?」

「これはサービスです。ではごゆっくりどうぞー」

 

 新たなジョッキのビールが置かれ、空いた皿を下げて厨房へと戻っていくウェイトレスは――よく知ってる人の面影がある気がする。

 

「おいルビィ、あの人って」

「今日は飲み明かすで!」

 

「「「いぇーい!」」」

 

「……まぁ、いっか」

 

 

 こうして夜は更けていく――。


 店の窓から見える月の模様は、心なしか微笑んでいるようにも見えた。


  ◇◆◇◆◇◆◇



 王都の中心部に、その建物はあった。

 歴史ある古い洋館のような見た目をしている。老朽化して久しい看板には『冒険者教会本部』とだけ書かれている。

 そこの3階奥に『大会議室 使用中』と札の掛かった部屋がある。

 ノックがされ、エルフの秘書がドアを開ける。

 

「……失礼します。王の爪ギルドマスター、ヨド様が到着しました」

「入ってもらいな」

 

 部屋には大きな円卓があり、既に6人が座り、その背後には各人の秘書や護衛が立っていた。

 

「よぉヨシエさん。まだ生きてたか」

「全く口が減らない坊主だねぇ」

 

 中央奥にヨシエと呼ばれたローブを着た70代の老婆が座る。しかし老婆とは思えない程の鋭い眼光だ。

 肩書は『冒険者教会、会長』である。

 

 中央から右へ3名。

 小麦色の肌に灰色の短髪、暑苦しい胸板の50代前半の大男。北の街ウルディアのギルド、王の牙マスターのカーティス。

 色白で線の細く、青い長髪の剣士の30代前半の青年。東の街ドーディアのギルド、王のあぎとマスターのラムザ。

 身なりの整っているが化粧が濃ゆい。30代後半の女性。西の街エーディアのギルド、王の尾マスターでもあり商会の主でもあるママード。

 

 ヨシエから左の2人。

 恰幅の良い……少し太り気味な40代の男。神官服は白く簡素なデザインだが、指にはいくつもの高級そうな指輪をハメている。

 名前をロータス。肩書は『ディアト教司祭』である。

 その斜め後ろには、クロエと呼ばれたエルフの神官が立っている。

 

 もう1人はママードと同じく武器コンテストで審査員をやっていた王国騎士団副団長のウォルコットだ。

 ヨドがウォルコットの隣に座ると、ヨシエは口を開いた。

 

「さて……では定期報告会を始めたいが。その前に、近頃悪さをしていると報告が上がっている、ウロボロス教団についてだ」

「あの噂は本当なのかヨシエ殿」

「そこはヨドから報告して貰おうか」


 一同の視線がヨドに集まり、少し面倒臭そうにヨドは話し始める。

 

「……先月、取り壊し予定の美術館に強盗が入った。大広間に飾ってあったモノが複数盗まれ……ウチの冒険者が近くの森で発見した。強盗は何者かに全員始末され、盗まれた品はそこら辺に散らばっていたので回収したが……ディアスの人物画と銀の彫像と鎧は持ち去られたのか、回収出来なかった」

「その強盗に指示をしていたのが教団の連中だったと?」

「教団の奴らが好んで使う装飾ナイフを押収した」

「それだけだと、さすがに……」

「……さらに星命の獣マナビーストの報告も上がってるね――」

「マ、マナビースト!?」

「あの化け物……周囲の生き物を片っ端から食い散らかし、退治には白銀クラスの実力者が必要だと言われる……!?」

「……ウチがドルドという商人から依頼を受けた。だが奴は、よりにもやってウチのギルドメンバーを狙って、マナビーストをけしかけて来やがった! ……対応したのがステラと仲間の冒険者だったおかげで、なんとか処理はした……が、ロータス殿!」


 円卓を勢いよく拳で叩きつけ、ロータスを睨み付けるヨド。

 

「な、なんですか。ヨド殿」

星命の卵マナストーンの管理は教会の役目だ。あのドルドがいくらやり手の商人でも、それを手に入れるには伝手が必要だ」

「うーん、ドルドちゃんお縄になったって聞いてたけど、そんな事やらかしてたのねぇ……裏でも星命の卵マナストーンの取引はほぼ全て偽物だし、どこから入手したのやら」


 ママードがそう呟くと、ロータスは年甲斐もなく年下の副団長を頼るように声を漏らす。

 

「ウ、ウォルコット殿……」

「ヨド殿。あの事件があってから城の研究所はもちろん、教会の封印庫も再点検を行ったが、いずれも問題は無かった」


 ヨドはウォルコットから再点検の報告書を手渡された。

 

「そ、そうですぞ」

「さらに。ドルドに魔法による尋問も行われたが、肝心な情報には精神防御結界プロテクトが張られていた。これは、かなり高度な魔法である。これだけの魔法が扱える術者は限られてくる――近日、国内の魔道ギルドへの立入り捜査を行う予定だ」 

「と、いう訳さ……イラ付くのは分かるけど、抑えてくれやヨド坊や」

「ふんっ。分かったよヨシエさん」

「王都でも教団のメンバーらしき人物が目撃されている……各マスター達は目を光らせておくように……では、定期報告会を始めようか」

 

 定期報告会はつつがなく進んだ。

 

「クーロン王国との航路に海竜が目撃されちゃってねぇ。ギルドで討伐隊を組むから、それまで交易船は無理だね」

「北は、特に問題はねぇが……最近は外国の奴らをよく見る。教団の件もあるし、気を付けるぜ」

「東は、魔素の浄化作業が少し滞っている。魔物の出没も頻繁であるし、少し応援を頼みたい」

「北が暇そうだから、そっちから出してやんな」


 後はいつも通りの流れだ。

 各ギルドマスターが依頼の消化具合や街近辺の問題などを話し合い――日が跨ぐ直前くらいに終わる。

 

 いつもと違うのは――。

 

  ◇◆◇◆◇◆◇


 

 報告会は終わり、一同は解散となった。

 部屋にはヨシエとヨドだけが残っている。

 テーブルには酒の入った瓶とグラスが並んでいる。

 

「さて。今日のツマミはなんだい」

「南の名産品だ。ジェイドも絶賛してたぜ」


 たまにヨドとヨシエはこうして簡単な打ち上げを行っているのだ。

 

「ジェイドは元気にしてるかい」

「この前も女神官ナンパして酒飲んでたとか……でも、頭付きの蛇の蒲焼きが有名な店に連れて行ったらドン引きされたとか言ってたぜ」

「あの坊やも面白いね」

「それでこれがその蛇の蒲焼きだ」

 

 テーブルに燻製された頭と尻尾の付いた蒲焼きを取り出すヨド。

 

「おや、買ってきたのかい」

「コーディアじゃあ最近流行ってるらしくってな、この蒲焼きの店」

 

 蛇の蒲焼きを2枚、互いに逆さになるように置くヨド。ちょうど互いの頭が尾を咥えているようにも見える。

 

「ふーん。そういや、ステラも元気にしてるかい」

「最近は新入りの面倒もよく見てるぜ。この新入りが面白い奴で……なんと勇者の鎧のレプリカを着てやがんだぜ」

「たまにそういう新入りは見るけど、誰も本物にはなれないねぇ」

「あぁ。だからこそ、ステラも見守ってるのかもな」


 しばらく2人の他愛のない会話は続いた。


  ◇◆◇◆◇◆◇


 ここは王都内の教会関係者のみが宿泊できる高級宿だ。

 その部屋の中で灯りに照らされた2人の男女 ロータスとクロエだ。

 

「どうだ2人の様子は」

 

「別に……ただの世間話をツマミにしてお酒を飲んでいるだけのようです」

 

 大会議室に仕込んできた遠隔集音魔法を解除するクロエ。

 

「あの2人は昔の冒険仲間だったか……少し勘ぐり過ぎか」

「どうしますか、お義父様」

「いやこれ以上はいい。お前は決行の日に、例の男に接触しろ」

「御意」

「ふふ、しかしお前は相変わらず美しいなクロエ――では、夜の努めを果たして貰うか」

「……御意」

 

 クロエは衣服を脱ぎ去り――胸元のウロボロスの紋章を愛おしそうに撫で、大切そうに机に置くのだった。

 月に照らされたクロエの表情は、恍惚としていた。


 

 

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