第4話ー5 第3戦~決勝戦


『ステージの整備も終わりましたので、第3グループの試合を開始します!』

 

 まだ膨れているルビィと、珍しくテッカンさんと共に観客席へときていた。

 恐らくゴッチン組が勝ち残るだろうが、どんな武器か観てみたかったのだ。

 

『それでは……開始!』

「ま”!!」

 

 試合開始直後の侍は腕組みをして動かなかった。

 しかし変化は突如として起こる。

 

変体鎧刀へんたいよろいがたな武者六道むしゃむどう――アシュラ!」

 

 侍が叫ぶと、鎧の背中から腕が新たに4本生えた!

 さらに抜いた刀を右手に持ち、黒い鞘を左手に持った。いや、鞘に見えるがこれも刀だ。

 

「ま”!」

 

 緩慢な攻撃を避けようともせず、後ろの腕で受け止め――そのまま持ち上げた。

 

『う、嘘ぉぉ!?』

「木偶が――はぁッ!」

 

 左の黒い刀と右の銀の刀が同時にゴーレムの胸元を突き刺し――コアごと、ゴーレムの胴体を穿つ。

 コアを失ったゴーレムはそのまま地面へと崩れ落ちた。

 

『なんというスピード決着! ちなみに解説しますと、ゴッチン殿の”ムシャムドウ"は、一見は鎧に見えますがその全てが武器! この鱗のような鎧も刃で出来ています! いやー凄い! 』

 

「昔から奴は主張しておった。人が武器を使うのではなく、人が武器そのものとなり戦う姿が美しいと……その完成形がアレか」

「いやアレってセーフなん?」

「審査員が認めてるんだしセーフなんじゃないの?」


  ◇◆◇◆◇◆◇


 

『それでは決勝の準備が整いましたので、ゴッチン殿、テッカン殿とヨーイチ殿、ダイアー殿はステージまでお越しください!』


 俺とテッカンさんがステージに上がると、既にゴッチンとタイアーは到着していた。

 

「……ふん」

 

 こちらを一瞥するだけで、特に何も言ってこないダイアー。

 ゴッチンは目をつむり、何かを考えているように見える。

 

「ふぅ……」

「なんじゃ緊張しとんのか」

「結局あんまり活躍出来ていない気がする……」

「気にするな。お前はよくやった」

 

『さぁ全員出揃いました。ではこれより決戦投票前の最後のアピールタイムを――』


「ちょっと待った!」


 その大声を発した人物に一瞬で会場の注目は集まる。

 ゴッチンだ。右手を上げ、審査員席の前で立ち止まる。

 

「アピールタイムの代わりに、決戦御前試合を所望する」


 会場全体がざわめく。

 こんな事は前代未聞なのだろう。

 

『おおっとゴッチン殿からのいきなりの提案だ!』

「その理由をお聞きしても?」

 

 副団長のウォルコットがゴッチンへと尋ねる。

 

「理由は明白じゃ。あの魔道ゴーレムは弱すぎる。弱すぎて、儂の自慢の武器がその性能を十全に発揮出来ておらん」

『おぉーっと我々運営サイドへの苦情だ!』

「偶然にも小奴らは全員冒険者でもあるので、戦うのは問題ないじゃろ」


 その提案に、審査員達は好意的な反応をした。

 

「ほー。あの鎧刀とやらはさらなる機能があると! それはちょっと見てみたいですね」

「確かに……素材もあの伝説の八竜を使ってらっしゃるのに、相手が不足していた感はありますね」


 口々にそんな事を言い出す。

 MCは困ったように、黙って聞いていたウルフに助け舟を求める。

 

『ええっと、どうしましょうウルフ様』

「――イイでしょう! 時間も押してますし、ワタクシは3人同時バトル形式を提案しマース!」

「それで構わんが……テッカンとそこの若僧はどうだ」

「儂は構わんぞ」

「ボクもです……むしろチャンスを頂いて嬉しく思います」

 

『話がまとまったので今一度ルールを確認します! 今からステージで15分1本勝負、3名によるバトルを行います! 武器の完全破壊、ステージからの落下、その他試合続行不能と判断とした場合は敗北とします。また、登録された武器以外の道具や魔法の使用は禁止です……よろしいですね?』

 

「はい」「おぅ」「あぁ」


 とそれぞれ返事をする。

 

『では、皆様お待たせしました。ただいまより、決戦御前試合を行います!』


  ◇◆◇◆◇◆◇

  


『では――試合、開始!』


 MCの合図と共に動いたのは、ダイアーだった。

 しかし俺に向かってくると思いきや、鎧兜の方へと向かった。

 

「先に、アナタを場外に落とします!」

「ほぉ……見くびられたものだな」

「そこの男は、ボクが倒しますので!」

「それは――俺様のセリフだ!」

 

 ダイアーはライジングの切っ先を不規則に曲げる攻撃を行うが……。

 

「そのような攻撃、通じるか!」

 

 刀を鞘から抜きもせず(鞘も刀だから抜いてはいるのか?)、その攻撃を弾いて防いでいく。

 

「でしょうね!」

「むっ」

 

 いつの間にか2又に分かれていたライジングの切っ先が鎧兜の背後に回っていた。

 鎧兜は鞘からを抜き、その攻撃も振り向き様に防ぐ。

 

「まだまだ行きます!」

 

 2本の鞭を個別に操作し、高速で攻撃を仕掛けていく。防ぐだけで手一杯になりそうだが、鎧兜はむしろ余裕が見える。

 

「ぬるいわ。アシュラ!」

 

 背面から腕が4本生え、攻撃してきた不規則に動く鞭を2本とも捉えてしまう。

 

「何!?」

「軌道が不規則といえど、それを考えているのはお前だ。目線で攻撃する箇所がバレバレだ」

「だったら――」

「判断も遅い!」

 

 一瞬で間合いを詰め、二刀で斬撃を放とうとするのを――俺が阻止する。

 

「はッ!」

「チィッ」

 

 俺の振り下ろしの攻撃に侍は距離を取る。

 

「そいつはちょっと待って欲しい。戦うなら俺がやる」

「またですか! ボクは――」

「次はお前が相手か。望む所だが……まずは」

 

 そう言うと、侍はライジングを握り締めたまま――、

 

「あっ、ダイアー! すぐに鞭を――」

「ふんッ」

 

 侍は空いた2本の腕でライジングを引き千切ったのだ。辺りに鞭の破片が散らばる。

 

「――ここは御前試合の場。見苦しい戦いしか出来ない者など要らぬ!」

『おおっとダイアーのライジングが破壊されてしまった! 試合続行不能と見なます。ステージより降りてください!』

「クソ……」

 

 ステージから降りるダイアーに俺は声を掛ける。

 

「……お前の父さんの武器の活躍、よく見とけよ」

 

 特にダイアーは何も言わなかったが、声は届いたと思う。

 

「さて……」

 

 俺は白皇剣を構え、侍へと向き合う。

 

「ようやく、ようやくこの時が来た――借りは返させて貰うぞ、ヨーイチ!」

「……いや誰?」

 

 両者の間に微妙な空気が流れる。

 

「――ふっ。そうだったな。自己紹介がまだだったな。俺様はジロウ=ダイナン、かつてニン者を率いた頭領だった者だ!」

「…………いや誰?」

 

 再び微妙な空気が通り過ぎる。

 

「ヤスオやハナコから聞いてないのか!」

 

 顔を覆っていたマスクを取り外し地面に叩き付ける鎧兜の男――もといジロウ。

 鋭い目つきと、口からは犬歯が覗いているのが特徴的な青年だった。今は若干泣き顔である。

  

「おっ、アレは儂を捕まえた不届き者じゃねーか」


 後ろからテッカンさんが何かに気づいたような声が聞こえる。

 それを聞いて、俺もふと思い当たるフシがあった。

 

「あー。もしかしてハナコの言ってた……バカ委員長か!」

「バカとはなんだバカとは!」


 子供のように地団駄を踏むジロウ。

 

「えっ、忍者辞めて侍にジョブチェンジしたの?」

「ニン者は辞めておらん! ――もういい! 兎に角、いくぞ!」

「おおっと!?」

 

 刀を突き刺して来るのを、身体を捻って避ける。

 同時にジロウはバックステップで距離を取り、叫ぶ。

 

武者六道ムシャムドウ、アミダ!」

 

 背中の腕が収納され、鞘刀に収めた刀も背中に収めた。

 そして右手で何かを掴み、正面に持って来た時――大きな包丁のような刀を手にしていた。

 

「いやその背中どうなってんだよ!」

「問答無用!」

 

 即座に距離を詰めて体重の乗った攻撃を仕掛けてくる。白皇剣で受け止めつつ、俺は剣に魔力を一定量注ぎ込む。

 

「はぁ! やぁ!」

 

 ジロウの攻撃は苛烈さを増し、俺はジリジリと後退していく。

 一旦距離を取りたくても、こちらはステージ端が近い。

 

「だったら!」

 

 相手の攻撃が一瞬引き、次の攻撃に移る瞬間――俺は剣の腹を押し付けるようにタックルをした。

 

「うぉ!?」

「よしッ!」

 

 さらに回転を付け、剣を胴体目掛けて斬り付ける。

 

「チィ!」

 

 ジロウはさらに回避を行うが――白皇剣から光の刃が伸びる!

 

「なんだ!?」

 

 光の一撃が胴体に入り吹っ飛ぶジロウ。さすがにステージからは落ちなかったようだ。

 

「クソッ」

 

 その一撃に鎧そのものはビクともしなかったようだ。

 さすが同じ魔炎鋼竜の素材を使っているだけはある。

 

「あのぐらいじゃ鎧は傷が付かない……よし、だったらもうちょっと出力上げられるな」

「本気では無かったか――」

「いや本気でやったら鎧ごと真っ二つになりそうで……」

「いいだろう。俺様も少し、本気を出してやる」

 

 再び刀を背中に回す。

 

武者六道ムシャムドウ、フウマ」

 

 そして今度は両手を背中に回し、正面に来た時には短刀よりやや長めの刀が握られていた。いわゆる小太刀みたいな長さだ。

 

「いざ、参る!」

 

 低めの姿勢から突っ込んで来る。俺がそれに合わせて下から薙ぎ払うが、寸前の所で地面に両手を突き、両脚で顔面にドロップキックを仕掛けてきた。

 両脚にも刃物が付いている。これを俺が仰け反って避けるが、すれ違い様に小太刀で攻撃される。

 さらに尻餅を付くように避ける。

 

「喰らえ!」

 

 ジロウは地面に降り立つと同時にこちらへ突進してくる。

 

「不味いっ」

 

 俺は剣をステージの床に突き刺し、魔力の刃を伸ばすことにより即座にその場から離脱する。

 さらにすぐジロウ側に向き直るが、もう目の前まで迫って来ていた。

 

「はぁッ!」

 

 ジロウの左右からの攻撃を剣で凌ぐ。

 俺からの上段攻撃は小太刀をクロスされ防がれ、腹を蹴られる。

 

「ぐっ!?」

「お前は反応速度はいいが、動きは素人に毛が生えたようなものだな!」

「悪かったな、素人で!」

 

 生前はサラリーマンで、こっちの世界に来てからも魔物としか戦った事がない。対人戦なんてやった事もないのだ。

 しかも相手は忍者である。戦いのプロだ。

 

『それには解決法があります』


 突然ニーアが話しかけてくる。

 

(どんな!? 今俺の中には誰も乗ってないし……)

 

『アムル、ステラ、ルビィの解析が完了しています。この解析結果を貴方の魂データへ反映し、戦闘レベルをアップグレードできます』

 

 なんて便利な機能なんだ。

 

(すぐにやってくれ!)

 

『3人分だとおよそ――』

 

(ステラの分だけで!)

 

『了解。ステラの戦闘経験値を反映します』

 

 その間もジロウの攻撃は続いている。

 しかし内部会話のせいで少しだけ、俺の動きが鈍ってしまった。

 そこを見逃してくれなかった。

 

「そこだ!」

 

 ジロウは武器を手放し、俺の腕を掴み引っ張り、即背後に周り俺を地面に叩き付ける。

 

「ぐっ」

「骨を折られたく無ければ降参しろ!」

 

『90、95……100%、アップグレード完了しました』

 

「誰が、降参するか!」

 

 ジロウを乗せたまま残った腕で起き上がる。腕が変な方向に曲がっていても気にしない。そもそも中身無いし。

 そのままジロウを床に叩き付けようとするが、

 

「おのれ!」

 

 さすがに手を離し、すぐに自分の武器を回収した。

 

「……」

 

 俺は剣を腰に回すように構える。

 雰囲気が変わったのに気付いたのか、ジロウは少し躊躇したようだが――。

 

「はぁッ!」

 

 今度は左右に揺れるようなステップで突進してきた。あまりにも早い揺れのせいで分身しているように見える。

 

「白皇、一閃!」

 

 俺から見て左のジロウへ高速の斬撃を放つ!

 

「なに!?」

 

 ジロウは小太刀をクロスさせ防ぐが、俺は一瞬で距離を詰め、さらに追撃を行う。

 

「たぁッ!」

 

 剣を水平に構え、刺突を左肩へ食らわす。

 魔力により強化された一撃は、鎧の耐久値を大きく超えたようだ。

 肩の部分の鎧が破損し、生身の部分が露出した。少し血も出ているようだ。

 

「なんだ、いきなり動きが――いやそれより腕の感触が……」

「……」

 

 俺は再び構えを取る。

 このステラのよくやる構えは相手が動いても、こちらから動いても対応できる構えだ

 ただし、それはステラのよく相手を見る眼と経験があればこそだが――今の俺はその戦闘経験を受け継いでいる。

 

「クソッ……武者六道ムシャムドウ、ホウセン!」

 

 小太刀を背中に仕舞うと、今度は脚や腕から棒のようなパーツが飛び出し、最後に背中から出てきた刃物を先端に付け完成したようだ。

 槍の両側に斧のような刃が付いた武器。戟やハルバードと呼ばれるモノだ。

 しかしこのくらいの間合いなら問題ない――と思っていたら。

 

「複合変体。アシュラ、アミダ!」

 

 背中から再び腕が生える。

 ただし左の1本は足りない。これは左肩の破損が原因なのかもしれない。

 背中の手は刀2本と包丁刀を持っていた。さらに本人はハルバードを構える。

 

「……ははっ」

 

 それは前に戦ったマナビーストという化け物にそっくりだった。

 あの時より武器も多彩で多いし、何より俺自身が戦っている。

 

 ジロウはこちらとの間合いと図り、ジリジリと横へ移動する。

 俺は先手を取るのは不利と考え、構えを維持する。

 

『さぁ残り時間は5分を切ったぞ! どうなるッ』

 

「――きぇぇぇえええッ!!」

 

 MCのその実況を合図に、ジロウは叫びながら突進してきた。今度は一直線に、後ろの腕も攻撃を与えるべく後ろに引いている。

 

「白皇剣、フルパワー!」

 

 俺は剣に自分の魔力を全力で込めた。

 柄や剣の装飾部分が輝き、魔力が刀身に伝わり、さらに魔力の刃が刀身沿いに高速で回転する。

 

 そう、それはまるでチェーンソーのように。

 

 この剣は俺の声に答えるようにその姿を変える。

 俺は今、相手の武器すべてを破壊する姿を望んだ。


「一撃、必壊!」


 相手の攻撃に合わせて俺も剣を振るう。

 最初にハルバードが触れるがそれを容易く斬り裂き、上段から振り下ろされる包丁刀も砕き、左右からの来る刀の攻撃はその場で即座に回転斬りを行い――破壊する。

 

「はぁ!!」

「ひぃッ!?」

 

 さらなる追撃がジロウの脳天に当たる直前に、俺は寸止めをした。

 

 寸止めが少し失敗し、兜も破壊されてしまって――ジロウは泡を吹いて倒れた。

 

『おおっとジロウここで気絶! カウントは――いや武器も破壊されていますね』


 MCは俺の腕を掴み、天高く持ち上げた。

 

『勝者は、ヨーイチ&テッカン殿だ!!』

 

 これまでで1番大きな歓声が、闘技場全てを包み込んだ。


  ◇◆◇◆◇◆◇


『さて、これで終わりではありません。続いて投票のお時間です! 審査員と観客の皆様は、素晴らしいと思った武器を作った職人の名前の札を上げて下さい!』


『おっと副団長のウォルコット殿はテッカンに上げた』

「シンプルかつ扱いやすさ、魔力反発が起き難いのは我々に取っても重要な要素です」


『ママード殿は……ダイアーに上げましたね』

「若き職人の未来を感じました――ふふっ」


『武具マニアのオリオン様は、ゴッチンだ!』

「まだまだ可能性を感じさせる素晴らしい武器でした。魔炎鋼竜の素材だけでなく、柔軟性を考えデッドリーベアーや、武器にはサイクロプスの牙なども使われて――」

『はい、ありがとうございました!』


 MCは審査員席から観客席の方へと向いた。

 

『では先に観客席の投票を行います! これはと思った方の札を上げて下さい。1はゴッチン、2はテッカン、3はダイアーです』

 

 観客の札がまばらに上がり始める。

 

『おおっと……ほぼゴッチン票とテッカン票が半々といった感じですね――集計には時間掛かりそうなので先にウルフ様から先にどうぞ!』

 

「フム……その前にみんなの作品を振り返りマスがよろしいですか?」

『ど、どうぞ』

「まずダイアー君」

「は、はい!」

「如意合金を使った鞭は靭やかで強靭デス。それを伝える魔力経路も素晴らしい出来でした。この若さでこれだけのモノが作れるのは努力の成せる技でしょう」

「ありがとうございます!」

「しかしこの武器の金属を精製する際に、通常より多く……力を入れ過ぎて叩き過ぎましたね。そのせいで本来の柔軟性が多く失われていマス。その原因は、分かってマスネ?」

「……はい」

「ゴッチンさんとテッカンさんの作品は自信に満ち溢れ、迷いが無いです。双方の武器に対するアプローチは逆ですが、そこがイイ! このコンテストの審査員が出来てとても嬉しいデス!」

『……ではウルフ様の票は?』

「どちらも素晴らしいので2票入れちゃいマース!」

 

 おどけながら両手で2人の札を挙げるウルフ。

 

『え、えぇ!?』

「観客席の皆さん、後は任せマシタ」

『いやはや……おっと集計が終わりました』

 

 俺は観客席のルビィと目線が合い、互いに頷いた。

 

『1が2157票、2が2499票、3が521票……優勝はテッカン殿のハクオウケンです!』

 

 会場全体から大きな拍手と歓声。ゴッチンとダイアーも渋い顔をしながらも拍手をしている。

 

「やったで、父ちゃん! これで借金も返せるで!」


 観客席から飛んで来たルビィは、これまで以上の笑みを浮かべてやってきた。

 

「あぁそうだなルビィ。儂も新作のアイディア思い付いたから、すぐに工房で作業やらねーと!」

「いやそんなんよりもっとやる事あるやろが!」

 

 ダイアーがこちらにやってきた。

 

「……ボクは絶対、絶対アンタを超える鍛冶師になってやるからな! 覚悟しとけよ!」

「おぅ、そうか」

「……ふんっ」 

「ダイアー、まだ怒ってるんか」

「ふふふ。ルビィもまだまだだなぁ」

 

 うんうんと頷く俺。

 

 ゴッチンは……特に何も言わず気絶したままのジロウを台車に載せてどこかへ行ってしまった。

 

『賞金は作品の材料費とは別に金貨1000枚! さらに5年連続優勝したテッカン殿には、宮廷鍛冶師の称号が与えられます! テッカン殿、一言をお願いします』

「ごほん――」

 

 MCから拡声魔道具を受け取ると、テッカンはこう語った。

 

『儂は色々あって借金をしてまで武器を作ろうとして――失敗した。そのせいで嫁と息子にまで出て行かれた。しかし、ここに居るヨーイチや冒険者達、古くからの仲間達に助けられ……優勝する事ができたんじゃ。つまり何を言いたいかと言うと……』

 

 すぅ――と息を吸い、叫ぶ。

 

『職人共! 自分の思う最高の作品を作るのじゃ! 家族が泣きたいなら、泣かせとけ!』

 

 観客席からは歓声とブーイングが同時に沸き起こる。

 

「父ちゃん……」

「はっはっはっ! テッカンさんらしいや」


  ◇◆◇◆◇◆◇


「ほら、いつまで寝とんじゃ起きんか」

 

 テッカンは控え室で帰り支度をしていた。

 台車の上で気絶していたジロウはようやく目を覚まし、辺りを見渡す。

 

「ハッ! ここは……敗けたのか」

「まぁ、今回は機能テストだったから結果にはとやかく言わんが」

「……面目ない」

「やぁゴッチンさん。ジロウ君もお疲れ様です」

 

 そこにいつから居たのか。

 フードを被った男が、椅子に座ってティーカップで茶を飲んでいた。

 テーブルには羊皮紙とペンが置かれ、何かを描いていたようだ。


「お前か」

「……」

「テストはどうでしたか」

「改良点もいくつか見つかったし、結果はまぁまぁだろう――次はお前の分も作ってやるから、材料とデザインの要望を出してくれ」

「えぇ頼みますよ。デザインはもう決まってます」

 

 そう言って、男はテッカンに羊皮紙を手渡す。

 

 そこに描かれた姿は――ヨーイチの鎧にそっくりだった。


 


 


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