第4話ー3 武器コンテスト本戦と弟


 ついに本戦の朝だが、ハナコが戻って来なかったのが少し気がかりだ。

 俺達は昨日と同じようにパスで中に入り、関係者以外立入り禁止の看板が立っている建物の中に入った。

 闘技場の控え室は前回優勝者と準優勝者には個室が貰えるので大分気が楽だ。

 

「さて予選残ったのは何人かな……63人。63!?」

 

 昨日のエントリーは最後の俺が72人だったので、たった9人しか落ちてない事になる。

 

「事前審査みたいなもんやな。規定通りの作品持って来てるとか、禁止された素材使ってないかとか。クオリティは最低限のモノでも予選は通過できるんや」

「割と緩いな」

「せやな。でも今日の本番は気抜いたらバンバン落とされるから、気をつけるんやで」

「で、今日も俺がモデルか」

「最初は昨日みたいに剣を抜いて構えるんやけど、少しだけならパフォーマンスも許可されるから――」

「――え、そんだけで良いの? もっとこう、こんなポーズしたりとか」

「あくまで武器コンテストやからな。それだけで充分や」


  ◇◆◇◆◇◆◇ 


 

『さぁ本日は第20回武器コンテストの、本戦だ! 司会進行役は引き続きマスクドスミスです!』


 ルビィの言った通り、本戦である今日は観客席がほぼ埋まっている。

 最大収容人数は知らないが、数千人は来ているようだ。

 審査員席は昨日の3人の他に空席が1つ。

 

『まずは本戦開始の前に。陛下はご多忙の為、ご観覧できないということで、ご挨拶を賜っておりますので読み上げます……』


 マスクドスミスは懐から手紙を取り出し、それを読み上げていく。


『魔王軍との戦いから早8年が経とうとしている。未だ国内はその爪痕が多く残され、悲しみにくれる者もいるだろう。しかし我らは前を向き生きる為、再び魔王のような脅威と戦う必要がある時の為、この武器コンテストは必ず役立つ事であろう。職人の皆はその腕を存分に魅せつけよ。民達よ、今日は存分に楽しむと良いだろう――以上、陛下のお言葉でした!』


 観客席から拍手が盛大に起こる。


『審査員は昨日から引き続き、王国騎士団副隊長のウォルコット殿。ママード商会のママード殿。武具マニアのオリオン様――それに加えて、本戦からのニューフェイスの登場だ! 妖しいパピヨンマスクのダンディな元冒険者、ウルフ様だ!』

 

「ハーイ、ご紹介を頂きましたウルフと申しマス。皆さん、ヨロシーク!」

 

 紫色のオールバックに黒いパピヨンマスク。服装も全身が赤いマタドールみたいなスーツだ。

 ウルフは4番目の審査員席に座る。

 

『審査員はもう1人……それは、観客のみんなだ! みんな! 3本の札は持ってるな!』


 観客が手に持った札を挙げて振っている。

 それにぞれに1~3の番号が大きく描かれている。

  

『今から3人の武器を持ったモデルが登場するから、誰が良かったか順番で上げてくれ!』


 

『じゃあ最初の3人の登場だ! 1番は西のエーディア在住の職人、ジャンミー! 武器の名前は"レインボーダブルメイス”だ』

 

「ほあっちゃー!!」

 

(どう見てもヌンチャクにしか見えない……持ってる人もなんかそれっぽいし)

 

「はい、はい、はいぃぃぃ」

 

 レインボーダブルメイスを振るうと、その残像に虹が映し出される。

 

『これは美しい虹だ! ……さて、2番手は異国のエルドーラ北部からの挑戦、亜人オーガ族のゴンスルー! 武器は”大鎌・ネダヤシ”です!』

 

「うおおおおお」

 

 俺より身長が高く胸板も分厚く、頭には角も生えている……見た目は俺のよく知る鬼に近い。

 

「こんれが、ワシの大鎌!」

 

 見た目にはただの鎌を大きくしただけに見えるが。

 

「こうすると、さらに大きく刈れる!」

 

 柄の真ん中が外れ、太い鎖が出てくる。

 変則的な鎖鎌みたいな奴か。

 

「草刈りだけでなく、簡単な木や魔物ならこんれでスパッとだべ」

 

『なるほどー! これは確かに便利そうですねー。さて3番手は……おぉ、4回連続優勝中のテッカン! 彼の新作が登場です。武器は"ハクオウケン"です!』

 

 俺はステージの中央まで来ると、背中から白皇剣を抜く――ちなみに命名は俺だ。

 両手で柄を握り刃先を空へ向ける。さらに魔力を込めオーラをいつものように纏う。


(ん?) 


 いつもと手応えが違うせいか、予想以上に気合を入れてしまったのか――。


 ズシャァァァァッ――!


 柄の装飾が光り輝き、刀身から大量の光の束になって空へと放出された。

 空の雲が裂け、光線は空の奥まで飛んで行った――何これ聞いてない。

 

 そして静寂からの、大歓声!!


『す、すすすげー剣が出てきたぞ!! 事前審査に寄ればテッカンの新しい技術が盛り沢山と聞いております、これは楽しみだ!!』

 

 マスクドスミスも興奮して叫ぶ。

 

『さぁ最初の3人の武器が出揃ったが――おおっと。審査員と観客含めて満場一致でテッカン殿だ! ではウルフ様、一言どうぞ』

「ハーイ、美しさもさる事ながら剣を伝う魔力の流れが淀みなく……どのような加工をすれば実現可能なのか気になりマース」

『技術に関しては職人秘密だそうです。そりゃそうだ! では、お次は――』


  ◇◆◇◆◇◆◇

 

 俺がステージから控え室に戻る途中、ルビィが待っていてくれていた。

 

「「いぇーい!」」

 

 互いに手を叩き合う――。

 

「ってルビィ、いつもより多めに魔力入れるだけ――って、あんな風になるとか聞いてないぞ!」

「派手で良かったやん! まぁ次から使う時は気ー付けてな」

「まったく……」

 

 俺とルビィは観客席の関係者席へと移動し、他の参加者を見学する。

 他にも多彩な武器と多才な職人達が登場した――そしてその中の1人の見て、ルビィは驚きの声を上げた。

 

「うわっ、ダイアーやん!」

 

 ダイアーと呼ばれたのは背が低めの青年で、見た目には冒険者風の格好だ。ルビィと同じ茶色系の髪の毛で、少し幼い顔立ちをしている。

 

「アレ、ウチの弟……母ちゃんに着いて出てったからどこいるか分からんかったけど」

 

 ステージ上では、ダイアーがMCに紹介され武器を取り出した所だ。


『さぁ次に登場したのは若き鍛冶職人、期待の新星ダイアー君だ! 武器は”ライジング"です』

「……」

 

 ダイアーが取り出したのは、無数の刃が連なって繋がっている”鞭"のような形状をしている。

 ライジングを振り回すが、周囲の床などには当たらず不規則な動きをしている。魔力を込める事で自在に操作できるようだ。

 

「……ハッ!」

 

 さらに鞭はどんどん伸びて行き――あやとりのように鞭で狼の横顔を再現した。

 観客席からは多くの歓声と拍手が送られた。

 

『いやこれは凄い精密性です! では審査は――おおっと今大会2人目の満場一致! ダイアー君、おめでとうごさいます!』

「ありがとうございます」


  ◇◆◇◆◇◆◇

 

「ダイアー!」

 

 観客席から飛び出したルビィは、通路を歩くダイアーを呼び止める。

 俺もすぐ後を追って来た。

 

「姉ちゃんか……あの男も、参加出来たんやな」

「あの男って、父ちゃんや。ダイアーいつの間にあんな武器作れるようになって……」

「……元々、別の工房で修行させて貰ってたんだよ。あの男はボクにはまだ早いって触らせてくれんかったけど」

「そりゃ父ちゃんにも考えがあって――」

 

「家族に黙って借金5000枚もこさえる男の、どこに考えがあるっていうんや!」

 

「……そこに関しては、そうやけど」

(否定できないもんな……)

 

「それでどれだけボクらが、母ちゃんが苦労したと思っとるんや! 今回だけじゃない。毎回コンテストで無茶な作品ばっかり作って、それにボクらは振り回されて――借金やって今回だけやない。昔はよう武器売れれば必ず取り返せるって、借金ばっかりしてたらしいやん」

 

(ギャンブルにハマった人みたいだ。実際取り返してるから凄いんだけど)

 

「それも全部良い作品を作りたいって職人の本望やん。確かに父ちゃんはよく家族の事を考えずに突っ走るけど、それでもなんも気にしてないなんて、あらへんよ」

「良い作品が出来れば家族はどうだっていいって言うんか! 大体、今日の武器はなんだよ。あんな金ばかり掛かった品の無い武器は……あんだけの素材用意するのに、またどんだけ借金したんだよ! いい加減にしろよ!」

「ダイアー! 父ちゃんがアレを作るのにどんだけ――」

「――ともかくあの男の、テッカンの作る武器は絶対、ボクの武器で捻じ伏せてやる……ほなな!」

 

 それだけ言い残し、ダイアーは奥へと消えて行った。

 後には俯くルビィと、気まずい俺だけが残った……。

 


『さぁ最後の大トリを飾るのは、テッカン氏のライバル! ドワーフ鍛治職人界のいぶし銀! ゴッチンだ! 武器の名は”ムシャムドウ"? 変わった名前ですがどうぞ!』


 会場から大歓声が上がり、こうして前半の部は終わった。


 

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