第4話ー2 いざ武器コンテストへ
そうやって依頼などこなしながら1日経過した。
鉱山へ行くのに準備に2日、行くのに2日。滞在1日。帰るのに時間が掛かり(荷が重い為だ)3日。王都のオークション出品の為に高速艇使って往復して2日、そして剣作成に3日――つまりコンテストまで残り1日だ。
「おーいルビィ」
「はいはーい……あ、ヨーイチ君。おはようさん」
「もう昼近いんだけど」
本当は朝から寄りたかったんだけど再び猫補給を取っていたらこんな時間になってしまった。
「それで? 完成した?」
「それは――まぁ中に入ってなー」
促されるまま工房の中へと入る。
工房の奥には――1振りの大剣が収められていた。
美しい白い両刃。柄の白と金の羽のような装飾は俺の鎧によく合っている。大剣とは言ったが、両手でも片手でも扱いやすい長さだ。
「ふつくしい……」
「やろ? ヨーイチ君はいらん言ってたけど、コンテストに出すし鞘も作ったんよ」
こっちは逆に無骨な黒い鞘だ。真ん中から開くようになっているらしい。
「背負った状態で魔力を通すと開く仕組みになってるんや。じゃないと抜き難いからな! 鞘そのものもクイーンマイン使って頑丈に出来てるから」
「おぉ――これ」
「あかんよ! 今日の夕方には王都行くんやから」
早速試し切りでちょっとそこまで魔物狩りに行きたかったが、先にルビィに念を押された。
「だよなぁ……まぁ終わるまでの辛抱か」
「そうそう。コンテストにはヨーイチ君も付いて来て欲しいって父ちゃんがゆっとったよ」
「そりゃ観たいけど、わざわざなんだろ」
「ふふふ――そらゃ向こう行ってからのお楽しみや」
そういう訳で、街外れの停留所で待ち合わせになった。
◇◆◇◆◇◆◇
「兄ちゃん、アタシも王都行きたいのじゃ!」
宿舎に戻りハナコにその旨を伝えた瞬間の言葉である。
ちなみにハナコは俺と組んで実績を作り、どこかのタイミングでギルマスに相談してギルドに加入して貰おうと思っている。
しかしハナコはまとまった金が貯まるまで野宿するとか言い出したので、しょうがないので部屋も探す事にした。
ラーナさんには、俺の田舎で幼馴染の妹みたいな子で上京してきた。この子がちゃんと冒険者としてやれるか心配だから当分は一緒に住みたい――と伝えると、あっさり2部屋ある宿舎を紹介してくれた。
ちなみに耳はちゃんと人間と同じ耳に変化して貰っていて、さらに設定上は幼馴染の妹なので、俺の事は兄と呼ぶようにして貰った。
決して下心は無い。
「王都まだ行った事無いんじゃ……美味しいお菓子がたくさんあると聞いた事あるし――行ってみたい!」
「観光じゃないんだぞ。それにテッカンさんやルビィになんて説明したら良いか」
「妹です!」
「高速艇って結構高いし、今回は貸し切りだから他の乗客に混じる事も出来ないし……」
「なんじゃ。それなら良い案があるのじゃ」
◇◆◇◆◇◆◇
「あんま騒ぐなよ」
「分かっておるのじゃー」
高速艇の停留所で待つ間に俺は鎧の中のハナコに注意をする。
しかし高速艇という割にここは陸上だし、目の前に大きな川がある訳でもない。いや正確には用水路みたいな大きく深い溝はある。だが水が無いのだ。
「おーヨーイチ君。早いなー」
「ヨーイチ! さっき工房来てくれたってな!」
テッカンさんとルビィと合流し、高速艇とやらが到着するのを待っていると――。
「ん?」
下流の方からいきなり大量の水が流れてきて、一瞬にして目の前に川と船が出現した。
「よーし乗り込めー」
「おいルビィ。手続きするから荷物運んどけ」
船は一般的なクルーザーみたいな大きさだ。そのまま海上に浮かべても良いような、まんま船である。
「どうなってるんだ……」
「ヨーイチ君も早く乗ってなー」
「お、おう」
船に乗り、座席に座ると――目の前に手すりみたいなのが見える。
「それにしっかり摑まっとくんやで」
『この度はコーディアからシンディア王都への高速艇のご利用誠にありがとうございます。少々揺れますので、目の前の手すりか何かにしっかり掴まって下さい』
というアナウンスと共に船の出入り口がロックされ……操舵室にいる船頭が合図をした瞬間――。
『水よ、我らを運べ。アーア、ウィーア、ラーゲン――ウェイブ、イグジスト!』
力ある呪文と共に船の後ろから大量の水が現れ――そのまま船ごと上流へ向かって押し流した。
「お、おお!?」
船というより気分的にはサーファーだろうか。そのまま船は魔法の波に乗り、王都を目指すのだった。
ちなみに心配になり途中で鎧の中を確認したが――今朝方のマタタビパウダーのせいかハナコはとろーんとして寝ていた。
◇◆◇◆◇◆◇
シンディア国、王都。
ここは大陸の大体中央に位置し、霊峰ディアレストの麓にある。
王都のさらに奥の高台にそびえているのが国王のいる城で、他にもコーディアでは見られない高い建造物も多い。
ちなみにディアレストにはディアト教総本山の教会と町があるらしく、巡礼者もよくこの街に訪れるらしい。
「シンディア81世陛下の剣を模したアクセサリーかー、いいなーこういうの」
『特に魔力、魔法などは見受けられません。ただのアクセサリーです』
「いいの! こういうのは身に付けてるだけで嬉しいの!」
「兄ちゃん! あそこの蛇が絡みついた剣も良い感じなのじゃ!」
土産物屋の前ではしゃいでいると、なんだか後ろから視線を感じる。
どうやら通行人がチラチラとこちらを見ているようだ。
「なんだろ。そんなに珍しいのかな」
しかし街の中には冒険者らしき人らも見える。
その中には自分みたいなフルプレートアーマーみたいな人も稀にいるようだ。
「お兄さん、気合入ってるねー」
「ん?」
土産物屋の店主が声を掛けてきた。
「ソレ、初代勇者様の鎧のレプリカだろ? 武器コンテストに出るんだろ、頑張れよ」
「は、はぁ」
武器コンテストに出るのはテッカンさんだし、俺が鍛冶師にでも見えた――訳がないよな。
そんな事をしている内に、テッカンさんが来た。
「おぉ、こんな所に居たか。登録も済ませたし、今日は宿でゆっくりしていていいぞ。予選は明日……会場の前が宿だし迷わんとは思うが……朝の鐘が鳴ったら集合だぞ」
この街に限らないが、ディアト教を信仰している人達が多い関係で朝と昼と夜の礼拝の時間に鐘が鳴る。
「分かったよ」
俺は1人(と中にハナコ入り)で街を散策していると、ルビィを見つけた。
ここは――王都の武具屋が多く並ぶ通りのようだ。もう夕方だというのに冒険者や兵士などの人通りが多い。
「よぉルビィ。どうしたんだよ」
「ヨーイチ君か。いやね、ここ……元ウチなんよ」
指差した先には立派な3階建ての工房があった。今は人気もなく、ドアには【差押え中】とだけ書いた張り紙がしてある。
「……絶対、コンテスト優勝しようぜ」
「――うん」
◇◆◇◆◇◆◇
次の日――。
宿の玄関から見える闘技場を見上げる。
闘技場の前の通りには屋台や見物客が既に多く、一大イベントなのが伺い知れる。
「予選に1日掛けるとか、そんなに出場者多いの?」
「せやでー。東西南北の街や王都の指折りの職人はもちろん、野生のプロ職人や、国外からもやってくるって話や。予選である程度ふるいに掛けんとなー」
「その中で優勝とか、凄いなテッカンさん」
「5回目の優勝は、絶対取らんとな。後、借金も返さんと」
「悪いな、遅れた」
「もう父ちゃんが来ないからウチが出場しようかと思ってた所やー」
全員揃った所で、闘技場へと向かった。
既に事前登録してあるのでパスを見せて中に入るだけ――なのだが。
「あれ……どっかに落としたかもしれん」
「アホー!」
宿から闘技場までそんなに距離は無いが、何せこの人の多さだ。どっかに落ちているパスを探すのはもちろん、誰かに拾われていたらもう無理だろう。
「確かに宿を出る前はあったんじゃが……」
「とにかく探そう」
そう言って振り向くと、目の前に女性の神官が居た。
「きゃっ」
「あ、すいません!?」
白い布地に青のラインが入った、全身の肌を隠すかのような神官服の若い女性である。
手には錫杖のような杖を持っており、柔らかそうな金髪から覗くその瞳は閉じられている。
耳が長いのでエルフなのだろう。
「何やってんねん。大丈夫ですか?」
「えぇ――先ほど話を聞いてたら何か落し物をされたようで」
「そうなんよ。このアホ父ちゃんが会場に入るパスを落としたって……」
「面目ねぇ」
「あぁ、やっぱり。さっきそこで拾ったので届けようと思ったんですよ」
そう言って差し出して来たのは、金属製のタグに細いチェーンの付いたアクセサリーみたいな見た目のパスだった。ちゃんとテッカンの名前と……何故か俺の名前も刻まれている。
「それや! ありがとなーほんまに助かった!」
「いえいえ」
「なんかお礼したいけどもう予選始まるし」
「お気になさらずに……全ては神の御心のままにやった事です。では――」
そう言うと女性は軽く会釈し、行ってしまった。
「兄ちゃん、あの今の女――」
「ん?」
「――なんでも無い。ちょっと街ブラブラしてくるのじゃ」
物陰でハナコを出すと器用に家の壁を登り、そのまま屋根伝いにどこかへ行ってしまった。
「マジで猫みたいだな……」
「よっしゃーほな行くでー!」
◇◆◇◆◇◆◇
『さぁ今年も始まりましたエルダー=ソー=アルバート=シンディア81世陛下直々主催の第20回王都武器コンテスト! その予選を開催致します!』
会場から盛大な拍手が起こるが、それでも観客席はまだ空きがある感じだ。
「まだ予選やからなー。熱心な観客以外は明日が本番や」
『今年も司会進行はこのオレ! マスクドスミスがやらせて頂きます!』
闘技場は本来の用途であれば試合用のステージが中央にあるが、今はMCのマスクドスミスが拡声魔道具で喋っている。
さらにステージ場下には長机があり、3人の男女が椅子に座っている。恐らく審査員だろう。
『では簡単に予選の内容を発表します。今から自慢の作品を持った職人、またはモデルの方が登場します。前もって詳細な情報を書いたモノは審査員のお手元にあります。職人の皆さんは、制限時間内に作品のアピールをして下さい』
『では今日の審査をする最高の審査員の方々をご紹介致します。その堅物さが有名な王国騎士団の副団長ウォルコット殿!』
「どうぞよろしくお願いします……堅物?」
『商人ギルドの中でも売上上位のママード商店の女店主、ママード殿!』
「去年は3位でした。冒険者さん向けの色んなアクセサリーや食材を取り揃えていますママード商店をよろしくね!」
『最後は毎年審査員としてご参加頂いている、貴族でありながら武具マニアの異名を持つこの方、オリオン=ハワード様!』
「んー、今年も良い作品がたくさん見れる事を期待しているよ。特に今回は20回きぃねん! 特に素晴らしいモノならワタクシが買いたいくらいだ!」
『コンテスト開催中の売買の取引は禁止ですよー。では、まずエントリーナンバー、ワン! 東のドーティアの鍛冶工房よりやってきた――』
◇◆◇◆◇◆◇
俺達は控え室になっている部屋で出番を待っているのだが――何故か俺の身体に色々な装飾品が取り付けられている。
「よし。後は審査員の前で、格好良く剣を抜いて構えてくれるだけでいい」
「あの、これはどういう……」
「モデルやモデル。普段は職人本人が担いだり、モデル役の冒険者雇ったりするけど……やっぱこの剣はヨーイチ君に合わせてるからな! ええ格好にせんとな!」
「いや全く初耳なんだけど」
「言ってなかったっけ? まぁそういう事や」
(クソー、前持って教えてくれていたら凄いカッコイイポーズ考えたのにさ!)
『……それが理由では?』
「え、何?」
『なんでもありません』
そうこうしている間に順番が回ってきたので、ステージへ向かう通路を2人と共に歩いて行くと、正面から麻布に包まれた大きな何かを台車で運ぶドワーフがやってきた。
「よぉ、テッカンじゃねーか」
「ゴッチンか」
確か前に聞いた、毎年テッカンさんと優勝を争っているドワーフの鍛冶職人だ。
白い髪と髭が立派なテッカンとは対照的に、頭はツルツルである。髭は三日月のように尖っている。
「風の噂で借金こさえて嫁さんに逃げられて、コンテストほっぽり出して田舎に帰ったと聞いてたが……腰抜けなりにプライドはあったようじゃな」
「ふんッ。ちょっと素材の調達に旅行いっとっただけじゃよ。お前こそ、不出来な品を作ってないだろうな?」
「ワシはあんな茶番みたいな予選に興味は無い! それじゃーの」
台車を押してそのまま控え室へと入っていくゴッチン。
「話に聞いとったのより、仲良さそうやな」
「どこがだ。それより行くぞ」
『さぁ最後の登場だ。4回連続優勝、今年の優勝で殿堂入りを果たせるか! エントリーナンバー72! 南のコーディア出身のテッカン殿だ!!』
ここでの出来事は割愛するが、俺達は無事予選を突破したのだ。
いや本当に剣を抜いて構えるだけで出番終わったし……。
◇◆◇◆◇◆◇
「「「かんぱーい!」」」
予選が終わったその夜。
俺達は宿屋と提携している酒場で予選お疲れ様会を開いた。
「いやぁ、特に問題なく終わったのぉ」
「誰かさんの落し物のせいでヒヤヒヤしたけどなー。まぁええやろ!」
周りのテーブルにもコンテストに出場していたであろう職人らしき客もいて、非常に騒がしい店内だ。
「しかしあの神官さんには感謝やなー。眼も見えないのに、よく見つけれたんやな」
「えっ、そうだったの」
「あの服は身体に不自由ある神官が着る特別な奴やで。神より試練を多く賜った者は強い信仰心と共に奇跡を授かるとかなんとか」
「へー」
だから街中でも杖を付いて歩いていたのか……本当によく見つけれたな。
この時の俺は、その程度の事だと思っていた――。
「さぁ、じゃんじゃん飲むでー!」
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