第3話ー2 鍛冶職人テッカン


 俺はステラと、何故か一緒に居たさっきの女の子と合流した。

 

「彼女はルビィ。私が冒険者を始めた頃に世話になった鍛冶師の娘さんだ」

「はいウチがルビィです。いやぁ、さっきのお強い鎧さんがまさかステラの彼氏とは、ほんまびっくりやなー」

「そう見えるか? ん?」

「イタ――痛い痛い痛い頭掴むな!」

「ははは、ただの冒険者仲間だよ。同じギルドだから一応先輩後輩になるよな」

 

 ステラはルビィの頭を片手で握り締めながら持ち上げているが、こちらを向くと――。

 

「そうだな」

 

 と、素っ気なく答えた。


(えっ、俺なんか間違った事言ったかな)


「ここが我が家ですわー。実は王都から戻って来たのもつい先週で……父ちゃん、お客さんやー」

 

 今更だがルビィの似非関西弁……実にグッド。なんか癖になる。

 

「お邪魔しまーす」

「邪魔するなら帰ってーな」

「はい、さよならー」

 

 1回入って即出て見る。

 

「ってなんでやねん!」

「そうそうこれこれ」

 

 この世界にもノリツッコミの文化はあるようで。安心した所で本題に入る。

 

「なんだ騒がしいな。ルビィ、帰ったのか?」

 

 改めて中に入ると、年季の入った鍛冶屋の工房がそこにはあった。

 壁や床は石張で、壁に色んなハンマーや道具が吊られている。カマドもある。さらに奥は住居になっているようだ。

 奥から出てきたのは――いわゆるドワーフだった。

 髪と一体化した立派な白い髭。背丈はルビィと同じくらいだ。貫禄のある顔立ちだが、袖から見える腕は筋肉の塊のよう。


(ん? という事はルビィもドワーフなのか?)

 

「親父さん、お久しぶりです」

「お? おぉステラじゃねーか。儂が打ってやった剣はどうだ?」

「すこぶる調子が良いです」

「そりゃ良かった。王都でもお前さんの噂は聞こえてきたぞ」

「ありがとうございます」

「ハイハイ立ち話もなんだし、奥入りなよ。茶入れたし」


  ◇◆◇◆◇◆◇

 

「……ところで、お加減は大丈夫なのですか?」

 

 若干ボロくなったテーブルに似つかわしくない高級そうなティーカップでお茶を頂く。紅茶とも日本茶とも違うが、この微妙な酸っぱさが美味しい。

 

「ん? そりゃもうバリバリに調子いいぞ。もう150超えたが、まだまだ若いもんに遅れは取っちゃいねぇ」

「しかしルビィが――」

「そうだ父ちゃん! あの件、思い切ってステラとヨーイチ君に頼んだ方がいいんじゃない?」

「バカ野郎! 身内の恥を余所様にベラベラと言うんじゃねぇ!」

「なぁにが身内の恥や! にっちもさっちもイカンくて、それで王都から逃げ出す羽目になったんやろが!」

「お、おい声がデケーぞ。お隣さんにも聞こえるだろうが」

「来月までに借金の金貨5000枚、どないせー言うんや!」

 

 ……俺とステラは思わず顔を見合わせた。


「「金貨5000枚!?」」


 ルビィが落ち着きを取り戻すと、テッカンはポツポツと語ってくれた。

 

 7年ほど前、王都の卸売り商人から宮邸鍛冶師にならないかと誘いを受けた。その人は王宮にも顔が利き、近年の魔物凶暴化や魔族残党狩りに対応する為、腕の良い職人に来て欲しいと王が漏らしていたのを聞いたという。

 当時は4人家族で食うには困らない生活をしていたが、職人として最高の環境で仕事をしたくなったのだ。

 

「それで王都での仕事は中々良いものだった。儂もこの歳で色んな知識を得る事が出来たし、職人としてさらなる高みに……」

「ごほん」

「で、王都では毎年武器コンテストを開催しているのじゃが――」


 そう言ってテッカンは、それまでの回想を語ってくれた。

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