第3話 鍛冶師たちとの出会い

第3話ー1 剣が欲しい


 皆さんこんにちは。銅5級の響陽一です。

 

 晴れ渡る天気の中、陽気な日差しを受けながら俺は――。

 

「ふぅ」

 

 クワを傍らに置き、自分が耕した土の量を見ていた。

 

 俺が冒険者になってもう2週間経ちました。

 その間、依頼で薬草や野菜畑を作る為に荒地を耕したり、迷子の猫を探したり、10年前くらいの戦争で倒壊した監視塔の復旧土木工事をやったり、近場の森の中でスライムを捕まえて解体して干物にする工場へ納品したりと――いやコレ最後の以外冒険者の仕事かなぁっていう疑問はあるけれど、それなりに充実した冒険者生活。

 

「やっぱり冒険者って言ったらモンスター討伐して素材剥いだり、ダンジョン潜って宝探したり……魔王と戦う勇者と一緒に冒険したり? でも魔王って結構前に死んだらしいしなぁ」

 

 俺は正式に冒険者になってまず、冒険者協会にある図書館へ行った。冒険者なら無料で利用できるのは有難い。

 そこで。この大陸の大まかな地図と歴史、雑学をデータとして叩き込んだ。


 

 人類と魔族の戦い、それは幾度なく繰り返されてきた。

 魔族の長――つまり魔王は倒されても300年以内くらいに必ず新しい魔王が現れ、人類へ宣戦布告を行う。

 それがもう記録で分かるだけで2000年以上続いているらしい。

 

 最新の魔王は20年前、このシンディア大陸の果てにある魔王城で討たれ――部下として使えていた四天王が全員が魔王になると宣言し、さらなる泥沼の戦いへとなっていったが、なんだなんだで大陸の人達は頑張り……約10年ほど前、戦争は終結したのだという。

 今でも王国の歴史書会議では、この四天王を歴代魔王に入れるか検討が行われいるとかどうとか。

 

「初代勇者ディアスはもう2000年以上前の人か。この鎧、物持ちが良すぎるな」

 

 ディアト教は、死して天の神に迎えられた初代勇者を信仰する宗教のようだ。大陸中央にある王都近辺に、その本拠地もあるらしい。

 

「ニーア、初代勇者はどんな奴だったんだ?」

 

『申し訳ありません。個人情報保護法プロテクトによりお答えが出来ません』

 

「そんな昔から個人情報保護法とかあったの!?」



  ◇◆◇◆◇◆◇


 

「ヨーイチ、精が出るな」

「おっステラ」

 

 さらに荒地を耕しまくった帰り道、たまたまステラと出会った。

 今日はオフの日だったのか格好が割とラフだ。いつもの胸当ての下に着込んでいる革のツナギのような服装。

 髪を後ろで結んで、うなじが見えるのはプラス200点あげよう。

 しかし腰にはいつもの愛剣が入った鞘がぶら下がっていたので、どうしても町娘には見えないだろう。あと美人過ぎる。

 

「仕事終わったのか?」

「あぁ。ステラは今日何やってたんだ?」

「ん? 今日はずっと剣や防具の手入れをしていたんだ」

 

 満足気に鞘へと手をやる。

 ちなみに冒険者と言えど、街中で抜刀をすればすぐに警備兵が集まってくるので要注意だ。

 

「いいなー。俺も剣欲しいなぁ」

 

 冒険者デビューしてからも魔物とのバトルが無かった訳ではない。

 だがしかし――銅5級が受けれる依頼程度の雑魚なら魔力を込めたパンチやキックで一撃だ。

 それでも。やはり憧れは捨てられないので街の武器屋で適当な剣を買い、凶暴な魔物が住むと噂される洞窟へ行き、使ってみたのだが。

 

「試しに買った奴、俺の使い方が悪いのかすぐボロボロになるんだよ」


 その話をした瞬間、ステラの顔が冒険者に戻る。


「……例えば中央通りの武器屋で買ったような剣か?」

「そうそう。ギルドのおっさん達に聞いたら、そこのが安くて丈夫だって言うから」


「ヨーイチ。ちょっとそこまでいいか?」

 


  ◇◆◇◆◇◆◇ 


 

 先ほどまで耕していた荒地。そこのまだ、手付かずの開けた場所へとやってきた。

 

「冒険者の基本中の基本だが、魔力を自分の身体や武器防具へ纏わせる技術がある。これを魔力纏オーラと呼ぶ。そうすることで身体強化や、武器の攻撃力と耐久を底上げする事ができる」

「ふんふん」

 

 そういった話は初耳だったが、俺はいつもそうやって自分を強化して戦っているので問題無し。

 

「だが武器や防具に一定量の魔力量を超えて付与すると、魔力の反発現象が起きてしまう」

「反発現象?」

「これがそうだ」

 

 ステラはその辺に立て掛けていたクワを構え、魔力を込める。そうすると――クワの金属部分は一瞬にしてボロボロになった。

 

 この世にある金属には、適合する波長という物があるらしい。

 火とか水とからそういう属性だけでなく、個人によって魔力の波長は違う。

 それによって適合しない金属に一定量以上の魔力を与えると、急激に劣化するのだという。

 

「だから高ランクの冒険者は他の冒険者に武器を貸したりしない。だが、その事を知っている冒険者は意外と少ないんだ」

「どうして?」

「大抵の冒険者は反発現象起こせるほどの魔力総量は無いんだ――だから、君のソレは強者の証とも言っていい」

「うーん……」

 

 そう言われるのは嬉しいが、現実として武器が無いのは困る。

 特にこの前のビーストみたいな強敵は極端だけど、そのような強敵とまた戦うかもしれないし、さすがに丸腰で勝てるような相手ではないと思う。

 

「安心しろヨーイチ。私が良い所を紹介してやる」

「良い所?」


  ◇◆◇◆◇◆◇



 ここは街の東部に位置する工場がある区画。

 そこの中にある商店街のような所に、俺達はやってきた。

 

「ここが鍛冶屋通りだ。ここには標準的なモノから特殊なモノまで、あらゆる武器や防具を売っている店が並ぶ場所なんだ」

「おぉっ! つまりここで俺の適合する武器を探すのか?」

「いいや。もっと確実な方法で行く――オーダーメイドだ」

 

(オーダーメイド! つまり世界でたった1振りの俺だけの剣! なんだかワクワクしてきたぞ)

 

「専門の鍛冶屋工房も何件かあるし、一緒に回って見るか」

 

 ステラはウキウキしながら地図とにらめっこしているが、俺はそれより通りにいる人の少なさが気になっていた。

 平日の昼下がりだからだろうか。そんなに有名な通りならもっと客が居ても良いだろうに。


 

 1件目。

 剣を作りたいとステラが説明すると、ニコニコしたオッサンは快く引き受けてくれた。

 オッサンに言われるがまま手の平を見せ魔力を込めると、眼鏡のようなものを掛けた。

 眼鏡のレンズに小さな魔法陣のようなモノが多重起動しているのが見える――何の魔道具なんだろうか。

 そして10分程して――オッサンは、にこやかにこう言った。

 

「申し訳ありません、無理です」


 

 2件目。

 今度は横に大きい恰幅の良いおばちゃんだ。こちらも同様に快諾してくれたが、やはり眼鏡を掛けて魔力を込めた俺の身体を診るなり。

 

「あっはっはっ、無理だねぇ」

「……理由聞いても良いですか?」

「少なくともウチの父ちゃんじゃ無理だろうねぇ。アンタの魔力、難しくってねぇ」


 

 恐らく他の店を同様に回っても同じ事を言われる気がしたので、ここで一旦作戦タイムだ。

 

「どうしようか。そこまで俺のって特別製なのか」

 

 ニーアデスの特性なのか、取り込んだ魔力の種類が多いせいとか?

 

「どうするか――実はこういう特殊な案件に対応できそうな鍛冶職人を1人だけ知っている。私の魔力も少々特殊でな、その人に頼んで打ってもらったんだ」

「えっ、じゃあすぐにその人の所に行こうぜ」


 それは無理なんだと言わんばかりに頭を横に振る。


「その人は私が冒険者として活動開始してすぐに王都へと引っ越したんだ。希少な鍛冶スキルを持つ御仁だ――それも致し方がない」

「王都……遠いけど行ってみるしかないか――ん?」

 ふと耳(集音センサーの感度を上げる)を澄ますと、路地の方から複数の男と女の会話が聞こえる。

 

 いや会話というか――。



  ◇◆◇◆◇◆◇


 

「ようやく追い詰めたぞ、へへへ」

「よく見りゃ可愛い面してんじゃねぇか」

「はぁ……アタシは、女をケツを追っかけ回すのが趣味の雑魚男達に用事はないゆーとる」

「うるせー! 四の五の言わず、とにかく事務所まで来て貰おうか!」

「痛ッ!」

 

 口論が激化し、荒くれ者達が女の子に手を出した所で。

 

「止めないか!」

「なんだ!?」

「兄貴、屋根の上です!」

 

 3人が見上げると……そこにはもちろん、俺が腕組みをして立っていた。

 

「小さな女の子を追い掛け回し、路地に追い詰めて不埒を働こうとは言語道断。人それを、ロリコン野郎と言う」

「誰だお前は!?」

「貴様らに名乗る必要は無い――」

 

 1回はやってみたいシチュエーションの実績が解除された気分だ。

 

「とぅ!」

 

 華麗に女の子の前に着地する。

 振り返ると、その女の子は俺の腰くらいの高さで、茶色のショートヘアーに大きな丸眼鏡に服装はオーバーオールという、少し某ア○レちゃんを思い出させる見た目だ。

 だがよく見ると胸の辺りは既に大人と言っても過言ではない程に実っており――ごほん。

 

「もう大丈夫だ。私が来た」

「てめぇ! その女の身内か!」

「知り合いでは無いが、だからといって少女が不埒な真似をされるのを見過ごすことは出来ぬ」

「じゃあすっこんでろ! あとコイツの歳はさんじゅう――ぶッ」

 

 俺を踏み台にし高く跳んだ女の子は、荒くれ者の顔を踏み付け反対側に着地する。なんて身軽さだ。

 

「誰か知らんけど、おおきに!」

 

 そう言って女の子は大通りの方へ駆け出した。

 

「兄貴、逃げられますよ!」

「分かってら――てめぇの面覚え、アレ? どこいった?」

 

 俺は既に建物の上に逃れている。

 ひとまず女の子は助けれたので、待たせてるステラと合流するべく移動するのであった。

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