第2話ー6 ギルドに登録しよう!

 

「王国騎士団諜報部所属、調査官のエルソードだ」

「王の爪所属、金1級冒険者のステラ=カーティス。お久しぶりですエルソードさん」

「ステラも大きく、美しくなったな。ヨドの奴から話は聞いている……そいつ等がそうだな」

「えぇ」

 

 エルソードと呼ばれた初老の、スーツにも似ている制服姿の男性はギルマスとはまた違った鋭さがある。

 ギルマスが大剣なら、エルソード氏は研ぎ澄まされたレイピアだろうか。細身の身体に長い白髪を後ろで束ねている。喫茶店のマスターとかが似合いそうだ。

 そして、ドルド一味はロープで巻いて猿轡さるぐつわを嚙まして足元に転がしている。

 

「それで彼等は?」

「弟のジェイドと、ヨーイチという冒険者仲間です」

「おぉジェイドか。君も大きくなったな」

「どうもっす」

「久々の再会を祝ってギルドの酒場で飲み明かしたい所だが、まず倉庫の調査からやらねばならん。明日にでも事情聴取に部下をギルドへ向かわせるから、それまで待機しててくれ」

「了解しました」


 それまでの厳しい顔とは裏腹に、少し泣きそうな笑顔でエルソードはステラの肩を掴んだ。


「……よく生き残ってくれた。昔も、そういえばお前だけだったな……」

「はい……」

「ヨーイチ君も――」

「は、はいっ!」

「よくやったな」

 

 そう言い残すと、エルソードさんは先に調査をしている部下と合流する為に倉庫へ向かい、足元の奴等はすぐに護送用馬車に入れられてどこかへ行ってしまった。

 

「――なんか、久々に誰かに褒められた気がする」

「冒険者とは結果を残してナンボだからな――だが、こういう日もあっていい」

「姉さん、とりあえずギルドの先生の予約入れてるから、すぐに行きなよ」

「あぁ。じゃあ、帰るか」


 こうして――俺の初依頼はようやく終わりを迎えたのであった。

 

 しかし俺はある心配をしていた。非常に重要な件だ。


(依頼、飛んじゃったけど報酬でるかな……)



  ◇◆◇◆◇◆◇


 

 これは後日談であるが――。


 ドルドが投げて寄越した硬貨の入った麻袋。律儀にも中身は本物の金貨が詰まっていた。

 それをちゃっかりステラは拾っていたのだ。

 これをギルドへ報告すると没収される恐れもあり、またその事に言及できるドルドは投獄中。


 となれば――。

 

「かんぱーい!!」

 

 飲んで証拠隠滅するしかない!

 

『残存魔力を使い、機能追加完了。経口摂取による魔力補給が可能になりました。また味覚や嗅覚についても――』

「とにかく俺も飲めるって事だろ! こんなに嬉しい事は無い!」

 

 正直この身体になって動けるようになってまだ時間が経っていないが、それでも食事が出来ない事が凄いストレスになっていた。

 例えるなら点滴のみでも活動に一切支障がないと言われたとしても、俺は何かを食べて生きたいもんだ。

 その想いが、実際に食べられるようになって強くなった。

 ちなみに食べた物は全て魔力に変換される。誰かに着て貰うほど効率は良くないらしい。

 

「おーこの前の若いもんじゃないか! 今日もワシらの英雄伝説を聞かせてやろう!」

「よーし。金1級ステラ、酒のジョッキ飲み、行くぞ!!」

「おぉーステラ! 今晩宿に行かないかー!」

「ゴクゴク――ぷはぁッ! この私に酒で勝てたならな!」


 その瞬間、酒場内の全男冒険者達が立ち上がった――。


「お前ら!! 絶対に勝つぞ!!」

 

「「「「おおおおっ――!!」」」」

 

 


 酒場中の男達が酒のイッキ飲みを始めた頃、奥の階段からギルドマスターが顔を出し、こちらを手招きしている。

 

(俺が呼ばれてる?)

 

「飲んでる所悪いな。まぁ正式な登録は明日になるから、酒で記憶無くなる前にこれを書いといてくれ」

 

 そう言ってギルドマスターが俺に渡してくれたのは――ギルドの登録申請書類だ。

 

「あっ、これって……」

「お前さんの活躍は報告で聞いている――ステラとジェイドの事、助けてくれて有り難うな」

「そんな。俺は何も――」

「誰に似たのかステラは無茶をよくやるし、ジェイドはやる気に欠ける。もしお前が迷惑じゃなかったら、これからもアイツ等とは仲良くしてやってくれ」

「――はい。でも、なんかマスターって2人の父さんみたいな事言いますよね」

「ふんっ。俺に取ってギルドのメンバーは子供みたいなもんさ」

 

 さすがに恥ずかしいのか、少し明後日を向いている。

 

「よし、それ書いたらお前も飲んで来い!」

「了解しました!」


 次の日、俺は正式に「王の爪所属 銅5級冒険者 響陽一」となったのだった。



 第3話へ続く

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